「…」
ダイヤの後を追ってきたロウは彼女の自室の扉の前に立つ。
ノックをしても呼び掛けても反応は無いが、中から人の気配がするのでいるのだろう。
「入るぞ?」
一言声を掛けて扉をゆっくりと開けると、やはりダイヤはいて部屋の真ん中にあるベッドの上で膝を抱えていた。
中にロウも入り同じベッドに腰掛ける。
「大丈夫、じゃないな」
「ロウ、」
「ん?」
「何で、かな。何でこんな風になっちゃったのかな」
弱々しい声で呟く。
「何で、」
「ダイヤ」
ロウは不安定なダイヤを抱き締めてやる。いつもなら暴れて抵抗するが、この時だけはダイヤは大人しく身体を預けた。
「大丈夫、俺がついてるから。だから泣かないで」
「…泣いてなんかない、バカ」
「…サラとスペンドの事は俺もショックだ。表面上だけの仲良しを演じてるだけだったなんて。俺が一番年上なのに、本当の事に気付かなくて…ダメな兄ちゃんだな」
「そんなことない。…ボクね、本当は気付いてた。サラとスペンドがボク達の事嫌ってるって。二人の気持ち聞くの怖くて聞けれ無かったけど。でもね、四人でいた頃凄く楽しかった時もあったんだ。二人も笑ってくれたから、あれだけは嘘じゃないって信じたい」
「そうだな。今日初めてサラ達の本音を少しだけ聞けた気がする。昔の俺達はお互向き合えてなかった、だけど今はちゃんと向き合えると思う」
だから、俺はサラ達と対立する。
今度こそちゃんと本音でぶつかり合う。
(…ロウは強いな、それに比べてボクは、逃げてばっかり、でも)
「落ち着いたか?」
「…うん。ってか、いつまでこうしてんのさ」
「え?」
抱き締めたままあやすように髪を撫でられている。
子供扱いされている様な気がするが不思議と嫌ではなかった。
流石に今の状況を理解すると恥ずかしくなってきたので、もういいから離せと目で訴えるがロウは不思議そうに首を傾げる。
「後少しだけこのまま…」
「もう離れろ!!!」
「あだっ!」
全力で身体を手で押し返す。
ロウはハデに転んだがダイヤは気にしない。頬がほんのりと赤く染まっているが気にしない。
ロウは起き上がり笑う。
「良かった、いつものダイヤに戻った」
「…ふん。まあロウのおかげでね、ボクも決心がついたよ」
「決心?」
「ボクもサラとスペンドに本音でぶつかる、二人と戦う」
真っ直ぐ目を見て話すダイヤにロウはそうかと呟く。
これから先、今日みたいな辛い悲しい事があるだろう。でもダイヤは決めた。逃げないと。
「あとね、アリス達にもボク達の関係と…過去の事件話そうと思うんだ」
「!?あの事は、」
「もう嫌な事から目を反らさない。ちゃんと昔の自分にも、ボクの罪にも目を反らさない逃げない」
「っ…ダイヤの決めた事に俺は止めないよ。でもあの事件だけはお前に思い出してほしくない」
「ごめん。でも隠し通せれないと思う、イカれ帽子屋って皆に聞かれたから。皆がどんな反応をするか分からないけど、ボクの口からアリス達にちゃんと話す」
「…分かった。これだけは覚えていてくれ、俺は何があってもダイヤの味方だから」
「ありがとう」
ダイヤとロウが戻ってきた。
ダイヤが纏う空気は先程と全く違うもので凛としていて、何かを決心したのだろうと思う。
それにアリス達は安堵する。
「皆に話したいことがあるんだ」
「話したいこと?」
アリスが聞き返すとダイヤは頷く。
「少し長話になると思うから座って」
促され空いている椅子に座っていく。
全員が座ったのを確認するとダイヤは口を開いた。
「まずカラーレス達が連れて来たサラとスペンドだけど、ボク達と同じ帽子屋のいとこなんだ」
「あの二人が、ダイヤちゃんとロウくんのいとこ」
「お前らどんだけ兄弟いんだよ」
薄々気付いていたがやっぱりか、と顔に書いているチェシャに苦笑いを溢しつつ話を進める。
「今まで黙っていたけどボクとロウ、サラとスペンドは帽子屋一族でそれぞれの家の後継ぎなんだ。…ビットは知ってるよね?」
「ええ。貴族でその様な一族があることは知っていましたが、まさかキミ達が…」
「えぇえ!まさかのお嬢様とお坊っちゃんだったの?」
「全然知らなかったの、驚きなの」
「しかし何故貴族のキミ達がこんな所で暮らしてるのです?本来なら本邸にて住んでいるはずでしょうに」
「それはサラの言ったイカれ帽子屋って言葉にも関係あるから、今から話すよ」
ボクとロウの昔話を。