色とりどりの市松模様の壁を見ながらゆっくりとただ下へ落ちていく感覚。
ふわふわしてまるで自分が飛んでいる様な錯覚になって。
するとどこからともなくトランプ、ティーセット、お菓子ととても素敵な物が溢れ出てくる。
ああ、なんて素敵な夢なんだろう。
そう思い目を閉じた。
次に目を開けた瞬間、目に映ったのは自然豊かな森だった。
「ここはどこなの?」
*****
「よっ!ほっ!」
木から木へと軽々と飛び移って行く。
その姿に思わず見とれてしまう程彼は身体能力が高くこんな事はお手のものだ。
彼、紫の猫チェシャにとっては。
今日も森の中で迷い人がいないかどうか見回っていく。
チェシャ猫の仕事はこの国の森での案内だ。
よく帽子屋ロウを保護と言う名の道案内をしているが、全くロウは懲りてない様で何度も何度も道に迷っては首を傾げている。
流石に何度も道を教えていれば自然とお互い話すようになっていきダイヤやメアリーとも関わるようになっていた。
今日はアイツはいないようだな、とチェシャはホッとした。
「そろそろ昼にすっか。ここから近いリンゴの木は…あっちだな」
また木から木へと飛び移りながら移動していく。
その道の途中、チェシャの視線に影が入り込んだ。足を止め、よく目を凝らしてみると少女の様で周りをキョロキョロと見回している。
「迷い人か?おーいそこのヤツ!」
「!」
チェシャは大声で少女を呼び止める。
木の上を走りだし少女のすぐ近くに飛び降りた。
少女は何事かとその青い瞳を見開いた。
「お前迷ってンのか?道案内してやるよ。…って人の事ジロジロ見てどうしたんだよ」
「…猫耳」
「は?」
予想外な言葉にチェシャは思わず、すっとんきょうな声を出す。
少女が先程からずっと見ていたのはどうやらチェシャの耳だった。
少女の視線は今も変わらず猫耳に向いている。
「おかしなヤツだな。こんなの珍しくもないだろ」
「充分珍しいわ!私動く猫耳初めてみたの。コレ本物なの?」
「当たり前だろ!?ってイテテ!ちょっ引っ張んな!」
少女は遠慮なくチェシャの耳を引っ張る。
しかも本物かどうか確かめる為に容赦なく引っ張るのでそれなりに痛い。
コイツ可愛い顔してえげつねえ!
チェシャはそう心の中で叫んだ。
暫く耳を引っ張られていたが少女は満足したのか手を離した。
チェシャは引っ張られ過ぎた耳を擦りながら涙目である。
「本当に本物なのね。凄いわ」
「そりゃどーも。まだヒリヒリするぜ…」
はあと溜め息をこぼすとチェシャは改めて少女に顔を向ける。
「だいぶ話が脱線したが俺はチェシャ。この森の案内をしてる。お前名前は?」
「アリス。アリス=レイシア」
「アリスな。ンじゃあアリス、お前見た感じ道に迷ってンな。さっきも言ったが道案内が俺の仕事なんだ。お前も家まで送ってやるよ」
「本当に?!」
「ああ。お前の家がどこにあるか教えてくれ」
「うん。○○町なんだけど」
町の名前を聞いた瞬間、チェシャの頭に疑問符が浮かぶ。この国の事は知り尽くしているがそんな町聞いたことがない。
もしかしたらまた新しい町が出来たのだろうか。
(どちらにしても情報が足りねえな。仕方ねえ…ここからだったらダイヤの家が近いか。今日もお茶会してるだろうから何人か集まってるだろうし行って聞いてみるか)
チェシャはそう考えをまとめるとアリスに付いてくるように伝えダイヤの家へと向かうのだった。