「はぁーっ…」
「大変そうだなチェシャ」
大きな溜め息を吐き脱力したように椅子にもたれ掛かったチェシャにロウは労いのアップルティーを出してやる。
わりぃ、と言い疲れたように少しずつ飲むチェシャに余程難航しているのだろうと思う。
チェシャが今調べているのは例の事件だ。
ハートの女王は使える人員は全て使って調査と警備をしている。
そこで日頃から森を見回っているチェシャにも要請が来た。
「ったく、草の根掻き分けて捜してんのに犯人の証拠の一つも出てきやしねぇ」
「でもまだ被害は出てるんだよな?」
「ああ。もう訳わかんねー」
「なぁ、それなんやけど」
ロウとチェシャの話をふわふわと浮きながらマシュマロを食べながら聞いていたメアリーが急に話に入ってくる。
二人はメアリーの方に向き、どうしたんだといった表情で彼女を見た。
「ウチが思うに、その事件の犯人と噂の幽霊って同一人物やないの?」
「んなバカな」
「そんじゃチェシャ。アンタ説明出来るん?国総出で捜査しとるってのに、こんなにも手掛かりが掴めとらんのやで?」
「そりゃ…そうだけどよ」
「ほら見てみ」
空中で足を組み、指をこちらにビシッと指すメアリーにチェシャはしどろもどろする。
もしかしたら…と心の中にあったのかもしれない。でもそれはとてもじゃないが確証はないのだ。
そんなメアリーとチェシャのやり取りを眺めていたロウは玄関から聞こえてくる騒がしい音に気付いた。
「ロウくんお邪魔しまーすっ!」
バーン!と大袈裟に扉を開いたのはアリス。
ノックと呼び鈴無しで勝手に入ってくるのにはもう慣れた。
「アリス」
「やっほー。あれ?ロウくん、ダイヤちゃんは?こっちに来てるんじゃ無いの?」
「ダイヤ?」
アリスの言葉にロウは首を傾げた。
何でダイヤ?
話を詳しく聞くと午前中に街でダイヤと会い別れた。その後数時間してからダイヤの家に行ったら誰も居なかったので、もしかしたらロウの家に行ったのかと思い来たのだという。
「材料を集めに行くって言ってたけど」
「ダイヤ、いつもなら俺と行くのに…。ちょっと探してくる」
「えっ」
「それに今物騒なんだから急いで行ってくるな!」
「ちょっちょっと!」
呼び止めようとするアリスにロウは目もくれず出ていってしまう。
ダイヤの事だから大丈夫だと思うのだが…って、ん?
「…待って!ロウくん!!」
忘れていた。
「あなたの方が迷子になるわ!!!」
ロウの方向音痴を。
「チェシャくん、メアリーさん!来て早々だけどロウくんを追っ掛けて来るわ!」
「アイツ何仕事増やそうとしてんだ!」
「ロウはダイヤの事になると前が見えなくなるけんねーウチらも行くで!」
「ロウくんー!」
***
走る。走る。走る。
ダイヤがどこに行ったのか分からない。
とりあえず一度ダイヤの家を目指すことにした。もしかしたら戻ってきているかも。
近道である脇道に入ると道の先に白い人物が立っていた。
見たことのない、住人。
(…誰だ?)
記憶を探ってみても思い出せない。すれ違ったこともないのだろうか。
走る速度を落とし、その人物の前で止まる。このまま突っ切りたかったが道の真ん中に立っているため出来なかった。
「…あの、そこ退いてくれないか?この先に行きたいんだ」
「…」
無反応。ただただ、こちらを見ている。
薄気味悪いなこの人、とロウは頭を掻いた。
「あっ居たわ!」
「やっと追い付いたわぁ。アンタ意外と走るの速いな〜」
「手間かけさせんなよ、って誰だよソイツ」
後から追い付いてきたアリス、メアリー、チェシャの三人は道の邪魔をしている人物に気づき不思議そうに相手を見る。
「ロウくんの知り合い?」
「いや」
「見るからに怪しい奴だな。オイ名乗れよ」
「フッ、フフッ」
「あ゛?」
チェシャは凄み詰め寄ろうとすると笑い出した相手。
「何笑ってんだよ」
「ああ、これは失礼しましタ。こんなにも素敵な色が集まっていて、なんてツいているんだろうト」
「…は?」
すっとんきょうな声を上げるチェシャ、目を丸くするロウ達。
「申し遅れましタ。原色の皆サン、初めましテ。私はカラーレス。貴方達とは逆の存在。無色の住人デス」
カラーレスは服の裾を持ち優雅に頭を下げて見せた。