「ご免なさいっす」
茂みから出てきたのは顔馴染みの三月兎リエヴルだった。
リエヴルは正座で座り目の前で仁王立ちでまだ怒りオーラを出しているダイヤに謝罪の言葉を口にした。
その後ろではロウとメアリーがシートを広げて休憩が出来るように用意している。
リンゴ狩りは粗方終わったらしい。
「リエヴルさ。もーちょっと空気読んで出てきてくんない?」
「中々難しい事言うっすねダイヤっち!まあまあ良いじゃないっすか。たまにはこんなのも」
ヘラっと笑いながら言うリエヴルに、コイツ反省してない、もう一発殴ろうかなと最近手が先に出る様になってきたダイヤが考えていると。
「リエヴル」
「!!!本当に申し訳ありませんでしたっす!」
ロウが声を発する。するとリエヴルは凄い速さで頭を下げた。うっすらと汗を流している。
リエヴルはロウの事を尊敬しているらしい(ロウはあまり気にしていないが)だから年下でもあるロウの事をさん付けで呼び、頭が上がらないようだ。
理由はよく分からないがどこかの噂では、昔ロウにフルボッコにされたとかなんとか。
と言うわけでリエヴルにとってロウの一言は鶴の一言と同様である。
「リエヴルなんかに少しでも驚かされたなんてちょっと腹立ったわウチ」
「あざっす!姐さん!」
「誉めてへんよ?」
「ボクも拍子抜けしたよ。もう」
「アンタはよかったやないの。怖い気持ち吹っ飛んだやろ」
「まあ」
「…もう少し見たかったかも」
「…ロウさん、任せてくださいっす!またやりますから」
こそこそとロウとリエヴルは次の作戦会議をする。ダイヤは気がつかない。その変わりにメアリーは気付いていたがあえて口を出さなかった。
おもしろそうと思ったことは内緒だ。
帰る前にピクニック感覚でお茶会とばかりに先程広げたシートの上に座って各々お茶を堪能する。
「そういや皆さん、こんな話ご存じっすか?」
「幽霊話なら殺す」
「ダイヤっち怖いっす。違うっすよ」
手を振って否定するリエヴルに、じゃあなんだよとダイヤは視線を向けた。
お茶を飲みほし、指を立てるとリエヴルは彼にしては真面目な顔付きで話始めた。
「今変な事件が起こってるみたいっす」
「…色が抜かれるですって?」
トランプ兵の報告を受けたエミリアは眉を潜めた。
エミリアが座る玉座の前に並ぶトランプ兵のエイト、ナイン、テンは報告を続けた。その内容はあまりにも奇妙な物だった。
「ではでは続けさせて頂きますっ!」
「現在の、被害者、は、六人」
「皆、色を抜かれているようです」
「前例が無い事件ですっ!被害者は重体ではありますが今のところ死者は出ていないのですっ!」
「被害者は、農民、貴族、ウミガメモドキ、ドードー鳥、公爵夫妻、」
「以上です」
「そうか。お前達ご苦労だった。下がっていいぞ」
「「「はっ!」」」
隣で控えていたタクトが下がる様に指示を出すとトランプ兵の三人は敬礼をし、謁見の間から出ていった。
タクトは玉座のエミリアを見上げるが彼女はまだ顔をしかめたままだ。
「これがクロッカが言っていた悪い事、災厄だと言うの…?」
「始まってしまったか、」
「っ、タクト。大至急犯人の調査を!またビットに色を抜かれた住民達の処置を調べさせなさい!」
「ああ!」
軽く会釈をするとタクトは足早に出ていった。
エミリアは力なく背もたれに 寄り掛かると息をはいた。不安に胸が騒ぐ。
これ以上大きな騒ぎになる前に止めないと。
「エミリア」
「!あらクロッカ来ていたの」
突然響き渡った聞き慣れた声にエミリアが顔を上げるとそこにはクロッカがいた。
なんとかいつもの様に振る舞おうとするが近づいてきたクロッカから頭を撫でられる。
「ちょ、ちょっとクロッカ?何を」
「も〜人には昔みたいに接しろなんて言うくせに、自分はそうじゃないってどういう事?」
「ワタクシそんなこと、」
「じゃあ昔みたいに不安な事は不安だって言いなよ。女王だからって高飛車に振る舞う必要ないよ?」
「!」
昔からクロッカは自分が無理していると必ず気づいてくれてよく話を聞いてくれた。こんなときにだけお姉さんぽくて。
もう、本当にズルい。ワタクシの大切な友人。
「…貴方には感謝しきれませんわクロッカ。気持ちが楽になりました」
「どう致しまして〜。全くタクトはいつもエミリアと一緒に居るのに気づかないなんてさぁ。後で説教だわ」
「うふふ。そうですわね」
その頃噂の騎士はくしゃみをしていたそうな。