「あの頃、か…」
女王の城を出て家までの帰り道。
エミリアの一言をロウは思い出す。
(そうか女王は昔のダイヤを知っていたんだっけな。でもあの頃の事はあまり表に出したくない)
特にダイヤには思い出して欲しくないんだ。
「…。様子でも見に行くかな」
立ち止まり行く方向をダイヤの家に変えてロウは歩き出した。
ふと空を見ると薄暗い雲が空を覆っていた。一雨来るかもしれない。
急ぐか、とロウはぽつりと言い足を速めた。
***
「何、何なの、あなた。いやっやめてっ!ヒッ!うああああっ!」
「…」
目の前で倒れた女からは興味を無くし手の中でふわふわと浮いている薄く光る球体に視線を移す。
綺麗。何度見ても綺麗だ。
でも…
「違ウ…こんなのじゃなイ。次ダ…」
次の獲物を探すため、その人物はその場から消えた。
***
「ゆーれい?」
「らしいぞ。白い髪色の長髪の幽霊が徘徊しているって噂」
「ふーん。白髪の長髪なぁ…」
「ちょ、ダイヤ。ウチの事やと思ったやろ。言っとくけど断じてちゃうからな」
別の日。ダイヤ、ロウ、メアリーの三人はリンゴ狩りへと来ていた。今日は遠出しているのでちょっとしたピクニック感覚だ。
お茶菓アップルパイ用のリンゴをもぎながら今巷を騒がしている噂話に花を咲かせていた。
「大体その噂話どっから出てきたん」
「チェシャとアリスからだ」
「へーでもさその話デマじゃないの?」
こういった噂話は嘘が多い。尾ひれが付いていって大袈裟になっているだけかもしれない。
デマと言い放ったダイヤを作業が一段落したメアリーがニヤニヤしながら見た。
「そんなこと言って実は怖いんちゃうん〜?」
「はあ!?そんなことないし?!」
「声裏返っとんで」
「強がってるダイヤ可愛い…!」
「うるさい!あとロウ黙れ」
「ハイハイ。ちなみにロウそのユーレイさんは何処で出とん?」
「確か人気のない場所だったぞ?例えばこことかに出るって」
「…はい?」
コイツ今なんて言った?
ここに出る?
「ロウ今なんて?」
「え?ここが幽霊の目撃現場」
「お前それ先に言えよぉおおお!」
「明るいから大丈夫だと思うけどなぁ」
「アンタの天然加減にはもうよう言わんわ」
頭を抱えながら叫ぶダイヤ。よく分かっていない風に小首を傾げるロウ。そんな二人を呆れながら見つめるメアリー。
「帰ろう!ボクの家でお茶しよ!そうしよう!」
「でもまだリンゴが、」
「リンゴなんてどうでもいい!」
「あーもうダイヤ慌てすぎや。落ちつきや…」
ダイヤはクワッと目を見開き捲し立てる。必死に平常心を保とうとしているが怖いのがバレバレだ。
若干震えているように見えるが武者震いだ!と一括された。
ガサッ
「!」
突然森の茂みから音がなる。その場が静まり返り三人はぎこちなくそちらの方を向いた。
(え?何今の音、何かいる?)
(いるな)
(…盗賊だよね!)
(いやでもここらの賊はトランプ兵達に連行されとったで)
(メアリー現実を言わないで!)
アイコンタクトの嵐である。
そんなこんなしていると茂みの物音は大きくなっていき、バッと橙色の何かが飛び出してきた。
それは…
「じゃじゃーん!呼ばれてないけどおれ参上っす!決まったっすか?決まってるっすか?ロウさんにダイヤっちにメアリーの姐さんお久しぶりっすー」
「「「…」」」
「実はさっき三人を見かけて驚かそうと後をつけてきたンすよねー。どうっす?驚いたっすか?あれ、何で黙ってるンすか?何で武器取り出してるンすか。ちょ、怖いっすよ三人共!ここは落ち着いて話をするっ」
暗転。