「もうめんどいけん、とっとと終わらすでー」
光の粒子が飛んできた方を見るとそこにはメアリー。粒子はどうやら彼女から出ているらしい。
幻想的な光景にアリスが目を奪われていると
「アンタらに悪夢見せたるわ」
口端を上げメアリーは手を高く上げるとパチンと指を鳴らす。
すると周りの木の枝や蔦が意思を持ったように動きだし残りの盗賊達に絡まって拘束をしていく。
「うわぁああ?!なんだこりゃあ!?」
「畜生!離せ!」
「何?何が起こっているの?」
「メアリーさんの幻覚なの」
「幻覚?」
目の前で起こる状況にアリスは驚く。
守るように抱き締めていたキャンディの言葉に視線を彼女へと移した。
桃色の瞳と目が合う。
「そうなの。メアリーさんは夢魔だから。わたし達に掛けてる訳じゃないからよーく見るとわかるの、ほら」
「…あ」
キャンディに促されアリスは目を擦って見直すとそこにはただ盗賊達が倒れているだけだった。中にはまだ幻覚の中なのか叫んでいる者も。
メアリーはいっちょ上がりといった風に手をはらっている。
「本当。メアリーさんって凄いのね…」
「うふふダイヤとロウさんも凄いの」
盗賊全員を片付け終わり安全だと確認するとアリスは抱き締めていたキャンディを離した。
…少し名残惜しいのは秘密だ。
「助けてくれてありがとう。わたし【黄】の眠りネズミのキャンディ。えーっと」
「アリス。【青】のアリスよ」
「あなたが噂の青色さんなの?」
「(噂のってどんな噂なのかしら…)うん。キャンディちゃんも原色の住人さんなのね」
「お?片付いたか?」
キャンディが驚いているとチェシャがひょこりと出てきた。
ダイヤ達が盗賊と戦闘を開始したくらいから姿が見当たらなかったがどこに行っていたのか。
「チェシャくんどこに行ってたの?皆大変だったのよ?」
「わりーわりー!ちょっとトランプ兵団に鳩を飛ばしててな。盗賊共を引っ捕らえて貰おうってな」
「なるほどね」
「それにアイツらなら大丈夫だったろ?」
「ダイヤちゃん達カッコ良かったわ」
「チェシャの出る幕なんて無かったの」
「キャンディうるせーよ」
***
「畜生…あのガキ共覚えとけよ…」
「つべこべ言わずさっさと歩け!」
「イテテテ!ちょ、こっち怪我人!」
「知るかぁああ!!!」
チェシャが飛ばした鳩により現場へと数分でトランプ兵数人とタクトが到着し盗賊達は拘束され連行される。
悪態づく盗賊に対して赤黒い髪の片耳に「A」のイヤリングを着けたトランプ兵が叫び、早く進めと言わんばかりに盗賊の背中に足蹴りを食らわした。
「おいワン。それまでにしとけ」
「はい隊長!」
足蹴りを辞めタクトにキラキラとした視線を向ける。
個性的なメンツが揃うトランプ兵団、副隊長トランプAのワン。彼は悪を許さず弱きを守る正義感の塊でそのせいかよく熱くなって空回りしやすい熱血兵である。
「そいつら城に連れて行っとけ。ここの後片付けは俺がしておく」
「イエッサー!」
ザッと敬礼をするとワンは盗賊達を拘束している縄を引っ張り半ば強引に連行していった。
それを確認しタクトはダイヤ達を見る。
「さて…猫から鳩が飛んできたから何事かと思ったが。全くお前達は本当に無茶な事をするな」
「みんな無事だったから別にいいじゃんか!」
「あーわかったわかった。大したもんだ。あとじゃじゃ馬娘!」
噛み付くダイヤを宥めつつタクトは思い出したようにアリスに視線を移す。
じゃじゃ馬って私?とアリスはチェシャに聞くが答えてくれない。
タクトは懐からあるものを取り出しアリスへと投げる。
慌てて両手で受け止めて見るとそこには青みがかった透明のケースに入った
「トランプ?」
「ビットとエミリアからだ。お前も帽子屋達からこの国の治安について聞いただろ?セラミックスで出来たトランプ。武器を使い慣れていないお前の為に作った物だ。護身用に持っておけ」
「…はいっ!ビットくんとエミリアさまにありがとうって伝えて下さい!」
「ああ。じゃあ俺はまた警備に戻るがお前達気をつけて帰れよ」
「「「はーい」」」
タクトがその場を立ち去りその場にはダイヤ達のみが残る。
きゅるる…
「ん?」
「ごっごめんね、わたしの…お腹の音なの。お腹減っちゃって…」
静かになったその場に響く場違いな音。音の元凶、キャンディは顔を真っ赤にしている。
朝から走って逃げ回ってたんだから仕方がないだろう。
顔を見合わすと
「…またボクの家でお茶の続きする?」
ダイヤの提案に全員で頷いた。
…。
アレ?ココハ?
何故こンナ所ニ?
何も思イ出せナイ、ソレに…
私は一体ダレだ?
ーーー朽ち果てた遺跡の奥深くで目覚めた彼はそう小さく呟いた。