帰れるかとの問いにビットは答えず沈黙が続き嫌な間があく。アリスはその間が居心地が悪く感じビットの名を呼ぶ。
「ビットくん?どうしたの?」
「すみません」
「え」
「今は帰れるとは僕の口から言えません」
「それってどういう」
「昨日女王の城で説明した通り色の国と異世界を繋ぐゲート、兎の穴ですが…それは二つあります。神出鬼没に現れる入り口の穴に女王の城で管理をされている出口の穴。その二つがここの所ずっと異世界と繋がらず閉じています」
「閉じているって、現に私は兎の穴を通ってこの国に来たのよ?」
「それにはとても驚きました。兎の穴が機能することがなかったはずなのになぜ突然兎の穴が開き、また閉じてしまったのか。全くわかりません。次いつ開くのかも…」
「そんな…」
突如突きつけられた事実に困惑する。
これから一体どうすればいいのかわからない。
私は―
黙ってしまったアリスにビットはワタワタと慌て、アリスの手を握った。
「大丈夫です!必ず僕が原因を突き止めて見せます!必ず元の世界に戻れるようにして見せますから!」
彼にしては珍しく必死になって励ましてくれる姿に思わずクスリと笑う。
「ビットくんありがとう。あと、ちょっとだけ手痛いかな」
「…。あっすみません!」
我に帰ると今の現状を改めて把握したビットはばっと手を離す。無意識に握った様でその顔は真っ赤。
落ち着きなくズレてもいない眼鏡のフレームを直すビットはそれはもう焦っている。
アリスは自分の頬を叩いた。
全く関係ないのにビットは自分のために頑張ってくれるんだ。
くよくよしてどうする!
「うん!ビットくんのお陰で元気が出たわ!前向きに考えるっ!」
「いえどういたしまして」
「元気になったらお腹減っちゃった」
「食べ物ですか…あいにくニンジンスティックしかありませんが食べますか?」
「いや大丈夫よ(やっぱりそこのところ兎なのね…)」
しみじみそう感じているとビットはダイヤの名前を上げた。
彼女なら常にお茶会をしているから運が良ければ何かにありつけるだろうと。
ちょうど会いたいなとも思っていたし今この世界での知り合いはダイヤ達しかいない。アリスは頷くとビットの家を後にした。
そして現在に至る。
「…ふーん。何か大変な事になったね」
「まあね」
一通り出来事を聞いたダイヤの言葉にアリスは苦笑いをこぼした。
本当にアリスはこの世界に来てから散々な目にしかあっていない気がする。
「でもね、私諦めない。ビットくんも協力してくれるんだもの。絶対に帰る方法を見つけてみせるわ!」
「アリス。わかった。暫くはこっちの住人になるわけだしボクにも何か出来る事があったら言ってよ」
「ありがとうっダイヤちゃん!」
またアリスに抱きつかれるが今度はダイヤは甘んじて受け入れた。知らない土地に来て心細い中、こうして協力者が現れて心底嬉しいのだ。
恥ずかしいけど今は特別。
「うふふ帰れるまでの間この国の可愛い女の子達を堪能しまくるんだから―!」
「まさかそっちが本当の狙い!?前言撤回だ離せ!」
ぎゃーぎゃーと騒がしくなってきた時、部屋の扉が開いた。
入ってきたのはいつもの二人。
「ダイヤ何か騒がしいけど大丈…ってアリス?!ってダイヤぁあああ!」
「やっほーロウくん。今日からこの国でお世話になります!」
「え〜なになにどういう事なん?」
「あっメアリーさん!」
「いいから、早く、離せぇえええ!」
アリスに昨日と同様に捕まっているダイヤを見てロウは絶叫し、メアリーは興味深々に聞いてくる。
堪忍袋の緒が切れたダイヤの叫びがその場に響く。
その声は森にも響いており木の上でのんびりとしていたチェシャの耳にも届いた。
つい遠い目になる。
本当にどえらい奴が来たものだ。
まあ暫くは退屈はしないか。
その考えは間違えではないだろう。