「おいで」

手招くかわりに目線で合図。睨み返したところで、瞳の奥に滲む欲の色までは誤魔化せはしない。

「ほら、早く」

無造作に置かれたライターに伸びた手を捕まえる。
明確な意図をもってするりと撫でれば、導火線に火を灯すのは容易いことだ。

「…その気になった?」

返ってきたのは舌打ちがひとつ。形だけでも抵抗を見せないと気が済まないらしい頑固なプライドを崩すべく、薄い唇に噛み付いた。





「う、…ア、あッ!」

時間が経つにつれて大胆さを増す水音と、ぶつかり合う肌の音がぐちゃりと絡み付いて聴覚を犯していく。それに加えてこの声だ。

「ハ、たまんね、」
「んァ、だ…まれ、ッ」
「自分の出した声で余計に感じてりゃ世話ねえなあ」

ねえ土方くん?と笑ってやれば、熱で潤んだ瞳が悔しげな色を映し出す。覗き込んだ先に居るのは自分ひとりだけで、なんともいえない優越感に包まれる。思わず上がった口角に、びくり。期待にふるえたその反応、見逃してなんかやるものか。

「じ、らすな…ッ!」

ゆらゆらと波間をたゆたうようなセックスじゃあ物足りないと、しどけない唇が訴える。畳み掛けるように落ちたしずくは、まるで甘美な毒のよう。掬い取った舌の先からじわじわと、理性を欲に塗り替えてゆく。

「了解、っと」

倫理観だの世間体だの、所詮はつくりものの「正しさ」なんて、本能の前じゃあ何の役にも立ちゃしない。ならばそんな重いだけの荷物は捨て去ってしまえばいい。
忍び寄る背徳感を心地好いスリルにすり替えたら、藻掻いて縺れて溺れてみようか。取り返しがつかないほどに激しく、深く、どこまでも。

ぎしり、夜が軋む音に紛れて、あいしているよと呟いた。




本能はを選んだ



(10/10/03)
title by ミシェル

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