たわごと、うわごと



※幽←静前提


隙をついて差し込んだ舌先で、喉の奥に潜んだ情欲を引き摺り出して弄ぶ。すると、ぼんやり蕩けるように、鋭さを失っていく瞳。なんて容易い。
この愚直さが可愛くて堪らないんだよねえ、と内心呟いて、お馴染みのバーテン服に手を掛ける。わざとらしい所作で剥ぎ取るように胸元を暴けば、ぷちん。透明のボタンがひとつ、ふたつ、宙を舞った。
その音にハッとしたように瞠目する彼に、あーあ、一瞬にして興醒めだ。

「臨也…てっめえ…幽から貰った服を…!」
「そんな怒んないでよシズちゃん、まだまだ同じ服何枚もあるんでしょ?こーんなブラコンの喧嘩人形のために愛しい愛しい幽くんが買ってくれた服がさあ」
「このっ…!」
「おっと、ベッド投げ飛ばすなんて無粋なことは止めてね?まあシズちゃんが床でしたいっていうなら別に構わないけど」

自分の口からこぼれ出る戯言を他人事のように流しながら、するりと奪ったYシャツにナイフを滑らせる。小気味良い音を立てながら単なる布切れと化していくそれを見た彼が、俺を引き倒す直前、くしゃりとその表情を歪めたのを確認したら、心の底が一層冷えていくのを感じた。

いつだって、容赦なくぶつけられる怒りと憎しみの合間に彼が見せる僅かな隙は、すべて彼の弟のため。些か豊かすぎる彼の感情に翳りを負わせる、唯一の。その存在を彼の言動の端々から感じ取るたびに湧き上がる居心地の悪さには、もうとっくに慣れてしまったというのに。

解っている。どう足掻いてみても、彼の心が俺だけに向くことはない。だからそんな無駄なことは初めからしない。ちらつかせるのは即席の、暇潰しにもならないようなその場限りの劣情だけで十分だ。だって、思惑通りにならないからこそ、彼に惹かれたのだから。

……だから、

「ねえシズちゃん」
「……ンだ、よ、っ」

「たまには、俺のために傷ついてみせてよ」

白く溶けていく意識の中で落とした言葉には、意味なんてないんだって。

(わかって、くれるよね?)



fin.
(10/06/15)

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