※高土のような土高のような/同棲してます



「どこ行ってたんだよ」

高杉が朝帰りなんて珍しくも何ともない。けれど、今日は酒と女の匂いが一段と酷く、つい非難するような声が出た。

「…あァ?」

すると、返ってきたのは唸るような低音。どうやら、随分と機嫌を悪くしているようだ。厄介極まりない。触らぬ高杉に祟りなし、だ。

「あー…悪かったな、詮索するようなこと言って」
「……おい、」
「とりあえずシャワーでも浴び、っ、!」

俺が言い終わるのも待てないせっかちな腕に胸倉を掴まれて、鋭い眼光と至近距離で衝突。目を逸らすことを許さないとでも言うようなそれに、一瞬にして射抜かれる。

「てめえ…本当に忘れてやがったのか」

ところが、続けて降ってきたのはそんな視線にそぐわない、拗ねた響きの混じる声。

「忘れ…って、何をだよ」
「……誕生日」
「は、誰の」
「…っ、もういい!」

言うが早いか、思い切り投げつけられた何かが顔に直撃。

「いって…てめ、なにしやがんだ!」

俺の叫びは、勢いよく閉まったドアの音にかき消された。ぽつり、足元でつめたく光るのはこの部屋の鍵だ。すこし光沢の薄れかけたそれを拾って顔を上げると、目の前のカレンダーに控え目についた○印に気が付いた。8月10日。

(ああそうか、昨日は)

ようやくあいつの不機嫌の理由を悟れば、それの原因でありながら更に追い討ちをかけた自分の言動に湧き上がる後悔と焦り。とはいえ今更、それらをリセットすることはかなわないわけで。

さて、どうしたものか。煙草3本分の時間を経て漸く踏み出した足は、ドアを開けたところで一旦停止を余儀なくされた。その一歩先に、飛び出したとばかり思っていた男がいたからだ。足元に大量の吸殻をばら撒いて、膝に顔を埋めている。その表情は窺えなくとも、不貞腐れているのは一目瞭然だった。

「……悪かった」
「…やっと思い出したかよ」
「ああ、おめでとう」
「遅えんだよ、馬鹿」

やっとこちらを向いたその顔は、思いのほか幼くて。不敵に歪ませた唇で、巧みに主導権を奪い去る見慣れた顔からは想像し難いそれが、なんだかひどく、いとおしい。

「意外にかわいいとこあるよな、お前」
「あァ?馬鹿にしてんのか?」
「いや、褒めてんだよ」

言いながら口の端をゆるりと持ち上げてみる。こいつの十八番は、なかなかどうして気分が良い。
そのまま悪態ばかりつく唇を塞いで、その奥に潜む意地っ張りな舌先をどうにかこうにか誘い出せば、数秒前までの諍いはどこへやら。漂うのは酒と煙草と、甘ったるい女の香り。やたらと鼻につくそれごと、ぴちゃり。品の無い音で奪い取る。

早朝のマンションの廊下で男二人、いったい何をしているのか、と。脳内にかろうじて残った冷静な自分がため息を吐く。どうか誰も通らないようにと切実な願いを抱きつつ、絡める腕に力を込めた。




インスタント和平協定




(10/08/10)
悪気なく誕生日をスルーされてやけくそになった高杉くん
拗ねる彼を書いてみたかった
土方が思いほか男前になってどうしようかと思った

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