シ ロ ッ プ
すきだ、
すきだ、
馬鹿のひとつ覚えのように、何度となく繰り返される。
「お前、そればっか言ってて飽きない?」
最初こそくすぐったかったそれも、度を越せば徐々に鬱陶しいものになってくる。
それをわざと態度で示してやっても、やっぱりこいつは繰り返す。そろそろ呆れを通り越して、感心の域に突入しそうだ。
「飽きねえな」
「…ああ、そ」
さらりと返されて、なんだかもうどうでもよくなった。
ひとつ、またひとつ、口づけのように落とされるそれは、いちいち正面から受け止めるには重すぎるけれど、すべて聞き流してしまうには惜しいくらいの心地よさがある。
その心地よさに寄りかかって、ばかだなあこいつ、なんて思う瞬間が実のところは嫌いじゃない。
ぎゅう、と抱きしめる体はおれと大差ないのに、凭れ掛かっても窮屈でないのは、こいつの思いの深さだとでもいうんだろうか。
「あー、あのさ」
「ん?」
「いや、なんていうか……こんくらいが丁度いいなあと」
「何の話だ」
「おれを好きすぎるお前のしょうもなさがいいってこと」
「はあ?」
「褒めてんだよ」
あいにく、おれはこいつみたいに真っ直ぐな性分じゃあないから、思ったことを何でもかんでもストレートに伝えることはしない。
そのかわり、というわけでもないけれど、訝しげな眉間にそうっと唇を降らせてやった。
「なっ、おま、」
途端にぶわりと上昇した体温が見てとれて、ああ、飽きないなあ。と思った。
「ぷぷ、なんで今更こんなんで照れてんだよ」
「…るせえ」
「さっきまで惜しげもなくすきすき言ってたクセにぃ」
「黙れこっち見んな」
「ほんっと不意打ちに弱いよねえ多串くん」
「笑ってんじゃねえよクソ天パ!しね!」
こんなしょうもないお前とのやり取りに、どれだけ救われているんだろう。小馬鹿にしているように見えるかもしれないけど、その中に混ぜ込んだ、お前にしか見せてない部分もあるって気付いているか?
お互いが抱える思いがまったく同じ分量でなくちゃあいけない、なんてことはないんだろう。お前の持つそれが、おれには重すぎるくらいが心地いい。深すぎるくらいが、ちょうどいい。だから、お前から抜け出せない。なんてことは、この先も口にするつもりはないけれど。ね。
fin.
(10/05/23)
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