シュガーレス


※銀土前提



「俺ァ生徒に手ェ出す趣味はねえんだよ」

だから早く、服着てこっから出ていけ。


視線は寄越さないまま、つめたい声だけが放り出された。
何事もなかったかのように俺の精一杯を片腕で押し返して起き上がったおおきな体からは、苦い大人の香りがした。
少しでも近付きたくて同じ香りを纏っても、近付いたような気がするだけで、滑稽な背伸びにしか見えないことは知っていたけれど。それでも。

「年の差なんかどうしようもねえじゃねえか」
「ああ、だから潔く諦めろっつってんの」
「納得いかねえ、」
「とりあえずその貧相な体をしまえ」

俺のことなんか碌に見てもいないくせに。見ようともしないくせに。
今、俺がどんな顔して銀八のことを見てるのか、それだけでも知ってほしかった。
ぐい、と押しつけるように渡された制服を破り捨ててしまいたくなる。できるなら、生徒という肩書きも一緒に。

「オイ、聞いてんのか…って、」

握りしめたシャツの裾が白くぼやける。はっと驚いたような声色に、咄嗟に抱いたのはささやかな期待。

「なに泣いてんだよ、ホント面倒な奴だな、お前」

けれど続けて降ってきた言葉であっけなく突き落とされる。その容赦なさに怯む声帯。なにか言い返したいのに、なにも言えない。
こんな真似がしたかったんじゃない。そんな言葉を聞きたかったんじゃない、

「俺はな、いくら好きな奴相手だからってホイホイ体を差し出すような安い奴は嫌いなんだよ」
「……ッ、」
「わかったら早く出てけ。でなきゃもう家には上げねえからな」

ぴしゃり、扉を閉めるように追い打ちをかけて、早く、と目で促す。(あ、やっとこっち見た)
どうしてこんな男がいいんだろう、せり上がる“面倒”な感情を、ぐ、と堪えて背を向けた。玄関を飛び出して、そのまま駆け出そうとした、ら。

「う、わ」

ドアの前に立っていた誰かに勢いよくぶつかった。聞き覚えのある声。いやな予感を抱えながら顔を上げる。

「ひ、じかた」
「先生と呼べ…って、お前、どうした」
「なんでもねえよ」
「銀八に何かされたのか」

するりと出てきた名前に、ああそうか、と瞬時に悟った。

「坂田先生、じゃねえのかよ」
「あ、」
「…とんだ反面教師だなァ」

よりにもよって、大嫌いな担任だ。その横を、なけなしの強がりで笑い飛ばしてすり抜けた。
震えた語尾に気付いたらしいそいつが、高杉、と叫ぶのが聞こえる。耳障りなそれをかき消したくて、年季の入ったアパートの階段を駆け下りれば、ぎしり。軋む音に重なる心臓の音。それを引き金にして、見慣れた景色が徐々にピントを外れていく。

「……寒ィ、」

羽織っただけのシャツをぎゅ、と寄せたら、わずかに残るあいつの匂いがふわりと舞って、また心臓が悲鳴を上げた。



fin.
(10/05/14)

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -