※銀高/現代



「おめでとさん」

(え、)

「お前、今日誕生日だろ?」



ドォン、派手な音を立てながら、夜空を彩る大輪の花。祭りの会場から少し離れた河川敷は人もまばらで、半ば強引に俺を連れ出したその男は、穴場なんだ、と得意気に笑った。
コンビニで買い込んだ酒とつまみを片手にしつつ、他愛もない話で時間は過ぎる。程よく酔いが回った頃、ふと隣に目をやると、ぱちりと視線がぶつかった。今更これ位で動揺することはないけれど、続けて放たれた言葉にあっけなく心は跳ねる。誕生日。まさか、こいつが覚えていようとは。

「…へェ、銀時のくせによく覚えてたじゃねえか」
「ンだとテメー、せっかく人が祝ってやろうと…」
「おう、ありがとよ」

そういえば、こいつに礼なんざロクに言ったことがなかったかもしれない。拍子抜け、といった面を晒すそいつを見ながらぼんやり思う。

「…なんかそう素直に返されると調子狂うんですけど」
「クク、悪くねえだろ?」
「…まあ、な」

ドン、ドォン。クライマックスに向けて、空が一層にぎわい始める。つられて高まる鼓動と期待。なんだか、今なら言える気がした。軽口の裏に隠し続けた「好き」の二文字。上気する頬も、流し込んだアルコールの所為にできる今ならば。

「銀時ィ」
「あ?」

「   」

口にすると同時に、ひときわ大きな音が響いた。一瞬の静寂の後に、ふわり。背景で咲く花火よりずっと、きれいな笑顔がそこにあった。ずっと焦がれていたそれが、今は俺だけに向けられている。確実にかき消されたであろう俺の言葉は、それでもちゃんと、銀時に届いていたらしい。

もう、これだけで十分だ。そう思えるほど慎ましくはない。ひとつ手に入れたなら、またひとつ。欲しい欲しいと求める声は限度を知らない。気付けば縋るように腕を伸ばして、焦れた唇を押しつけていた。

「プレゼント、ありがたく頂戴しとくぜ」
「なっ…お前なあ、」

勝手に奪っといて何言ってんだ、と呆れるようにぼやいたそいつの頬が思いの外あかく染まっていたことを、フィナーレが照らした瞬間に知る。それはアルコールの所為だけじゃないと、自惚れが確信に変わるまで、大して時間はかからなかった。



ダブルアニバーサリー





(10/08/10)
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