悠遊陥楽ショコラティエ



「なァんでそんなに食べられるのォ?」

見てるだけで胸焼けしそう、とぼやいて顔を顰める荒北をよそに、新開は机の上にこんもりと積まれた色とりどりのプレゼントの山を黙々と消費してゆく。

「次から次へとさァ、」

ひとつ口にするたびに、美味いなコレ、なんて 言うけれど。次のひとつを味わえば、もう前の ひとつなんて、すっかりなかったことになっているようで。すべてを平等に愛でることはつまり、どれにも執着しないのと同じこと。ロードから降りれば一途さの欠片も見あたらない、それが荒北から見た新開の本質だ。だからこそ、 この男の傍は居心地がいい。たったひとりにだけ真っ直ぐに向けられる感情は、重くて怠くて面倒なだけ。とはいえ、自分など居なくても十分に満足だと言わんばかりのこの態度は癪に障る。

「おっと、」

ぱさり、乾いた音を立ててメルヘンチックな柄の包みが落ちる。緩慢な動作でそれに伸びた新開の手をぐい、と引き寄せれば、靖友も食うか?だなんてとぼけた素振りでへらりと笑う。柔く緩くさりげなく、人当たりのよさを以てシャットアウト。誰も奥底に踏み込ませようとしない排他的なこの顔が、荒北は嫌いで仕方がない。だから、早く剥ぎ取ってしまおうと。

「バッカじゃナァイ?」

吐き捨てるように言うが早いか、ゆるやかに笑んだままの唇に噛み付いた。痛みに怯むその一瞬に付け込んで、するりと這わせて抉じ開ける。なぞって絡めて引き寄せて、ころり。どろどろに溶けた一粒を、舌から舌へと転がして。ひと通り弄んだ後、満足気に口元を拭う荒北に、苦笑しながら新開が言う。

「なかなか強烈だな、これ」

舌先にとろけるアーモンドプラリネとダークチョコレート。それに纏わりつくようなウィスキーの誘惑が香って。

「もっとスゴいの喰わせてあげよっかァ?」
「そりゃ楽しみだな」
「等価交換でよろしくゥ」
「はいはい」

見計らったようにじんわりと全身を巡り出した熱に、あっさりと新開は白旗を上げる。抜き取られたネクタイの在りかを目の端で追いながら、暴いた肌に散らばるくすんだ赤色を揶揄することは忘れずに。

ぴちゃり、くちゅりと艶めく音が響く中、テーブルに取り残された手付かずのチョコレートがひっそりと溶けていく。


(12/02/16)
大遅刻ですがハッピーバレンタイン!
診断メーカーが落とした爆弾に触発されました。
【新開】プラリネ。博愛主義者。飽き性。一途さの欠片もない。全体的に緩い性格。ボンボンの人とは相性がいい。
【初期北】ボンボン。妙な色気があり大人っぽい。誘い上手。少々浮気性。クーベルチュールの人が苦手。プラリネの人とは相性がいい。

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