夢見がち
※土銀+ほんのり高銀
澱んだ灰色を背景に、不意に重なる面影。思わず縋るように伸ばした手を握り返すのは仄かな、けれどやさしい体温で。それが冷え切った劣情の残骸に再び火を灯す。そうして、また足元を見失う。
『 た か す ぎ 』
唇からこぼれおちる、その一歩手前で覚醒。そうだ、あいつはもう居ない。
耳元から始まって、からだの隅々にまで落とされる囁きは、記憶の奥深くに捩じ込んだ其れよりも幾らか甘くて。呼び掛ける声の心地よさに、よろめくふりして寄りかかる。ごめんな、なんて形だけの謝罪は紡げずに、キスひとつでごまかした。
「なに考えてんだ」
「ん…ふ、ひじ、」
「俺だけ見てろ」
恥ずかしげもなく言い放ち、おれを捉えるふたつの光は性格そのままにまっすぐだ。それが疎ましい反面、羨ましくもあった。焦がれてもいた。
こいつなら、未だ振り切れずにいる長くて深い夢の底から、おれを夜明けまで連れ出してくれそうな気がして。
「んん、それは土方くんの努力次第だなあ」
「……上等だ」
ふざけた調子で言ってやれば、ほら。予想通りの返答だ。うん、まあせいぜい頑張ってくれ。簡単にはいかないことくらい、承知の上で言ってんだろ?
できるなら今度は、終わらない夢が見てみたい。見せてくれると信じてみたい。
そんな馬鹿げたことを考えられるくらいには、お前はおれを掬い上げてるよ。
そうだなあ、今すぐにとはいかないけれど、いつか。
いつかは、こいつだけ見て生きてられたらいいかもなあ、なんて。ほんの一瞬、頭を過ぎった淡い未来にちいさく笑った。
fin.
(10/06/01)
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