「ずいぶん冷静じゃねえか」

自分の奥さんの不倫相手と鉢合わせしたってのによォ、と。
にやり、口の端をゆっくりと持ち上げながら、目の前の男は言った。

「……そういうあんたは、遠慮ってモンをしらねえのか」

すこし前から、ほかの男の気配が見え隠れしていることに気付いてはいたから、然程驚きはしなかった。
寝室に一本だけ落ちていた、うっすら銀色に光る髪を思い出して、なるほどこいつが、とぼんやり思った程度だ。
妻がほかの男と関係を持っていた、ということよりも、ただ見知らぬ男が自分の家に上がり込んでいることの方を不快に思う自分の薄情さを、ハッ、とちいさく鼻で笑った。

「しってたら不倫なんてしねえだろ?」
「ああ、そりゃそうだな」

しれっと言い放つ銀髪の男は、ちっとも悪びれる様子もなく、それどころか現状を楽しんでいるようにすら見える。

「なあ、」
「……ンだよ」

じっとりと意味ありげな視線を注がれて、どうしたものかと思案しながら問いかける。我が物顔で他人の家のダブルベッドに腰掛けるのは、名前すら知らない男だというのに。こいつの誘いに乗った先には何があるのかと、むくり。好奇心が頭をもたげる。

「アンタ、こっちの方はご無沙汰なんじゃねえの?」
「だったら、なんだ?」

締まりのない笑みと下卑たジェスチャー。あまりに陳腐なそれらが今は、ひどく魅力的に感じられる。

「奥さん戻ってくるまで相手してやるよ」
「偉そうに抜かしてンじゃねえぞ、不法侵入者が」
「そう言う割には乗り気じゃねえか」

常識だとかモラルだとかを飛び越えて、やすやすと忍び込んできたその男は、俺の左手を取ると、するり。躊躇いなく、薬指へと指を這わせた。

「おい、」
「こんな窮屈なモン外しちまえよ」

な?と、首を傾けて、至近距離にゆらりと迫る確信犯の目。

「……いいぜ、せっかくだから遊んでやるよ」

数年ぶりに枷を外して軽くなった左手を、ふわりと揺れる銀色に伸ばす。

ここにはいない彼女と選んだカーペットの上に、光沢を失いかけた結婚指輪が静かに落ちた。


不法




(11/11/16)
間男坂田と既婚者土方のふしだらなはじまり。笑
銀土結婚企画、happy*weddingさまへの提出作品です〜素敵な企画ありがとうございます!

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