休日だというのに、あいつは朝早くからベッドを抜け出して何をしているのやら。キッチンの物音を聞きながら、ぼんやりと思う。
けれど二度寝の誘惑に勝てる筈もなく、そのまま微睡みの中に意識を沈めた。

「いい加減起きやがれ、万年ニートが」

ふたたび目を覚ますと、呆れたような視線と声を投げかけられた。
ちらりと見遣った土方の口元には、緩やかなカーブ。どうやら機嫌はそこそこ良いらしい。

「オメーがしつけぇから俺の睡眠時間が減ったんだろ?この万年発情期が」
「……いいからとっとと起きろよ、朝メシ冷めちまうだろ」
「あ?」

これはなんとまあ、珍しいこともあるもんだ。休日の朝なんて、大抵コーヒー一杯で済ませるくせに。

「ほらよ」

重い瞼と腰をのっそりと上げて向かったキッチンのテーブルの上、土方が差し出したのは小豆たっぷりの小倉トースト。
ぐるぐると上にとぐろを巻いて乗っているものは、色合いから察するにホイップクリームのようで、ほっと胸を撫で下ろした。

「なに、これ土方くんがつくったの?」
「……おう」
「ふうん、」
「……ンだよ」
「いや?…まさかコレ、中にマヨ隠してたりしないよね?」
「食ってみりゃ分かるだろーが」

警戒してなかなか手を伸ばさない俺に焦れたのか、土方はそう言いながら半ば強引に俺の口にトーストを押し込んできた。

「ちょ、…ッ!」

文句を言おうにも言えるはずがなく、もがもがと間抜けな音を立てながら咀嚼するのが精一杯だ。

(……それにしても、これ、)

口の中に広がるのは、香ばしいパンと甘い小豆、なめらかなクリーム。危惧していた酸味が訪れることはなく、とても俺好みの(つまりは土方の苦手な)味で、噛み締めるたびに頬が緩む。

「うまいか」
「ンないっぺんに食わせられたら味わう暇もねーよ」
「……あ、」

なにかに気付いたらしい土方に、どうした、と尋ねようとすると。

ぺろり、ぬるい舌先が頬に触れた。

「ついてんぞ、みっともねえ」
「……うっわ、ねぶる(なめる)なよ変態」
「さっきはこんな甘ェの食うヤツの気がしれねえと思ったが、案外いけるもんだな」

舐め取った小豆とクリームをゆっくりと味わいながら、にやり。土方がたちの悪い笑みを浮かべて言う。
見覚えのあるそれに、ぞわりと嫌な予感が背筋に走った。

「おい……オメーいま何考えた、」
「テメェが想像したのと同じじゃねえか?」

そう言いながら立ち上がった土方の手が、余ったらしいクリームの入ったボウルに伸びる。ああやっぱり、と予想通りの展開にため息をひとつ。

「食いモンだだくさ(無駄)にすんじゃねーよ、たぁけ(バカ)が」

吐き捨てるように告げたはずの声は、思いがけず愉しげに響いて。俺もこいつも大概だなァと内心つぶやきながら、べたつく舌先を絡ませた。


(11/11/08)
土銀方言企画、47の愛さまへの提出作品です
銀ちゃん絶対小倉トーストすきだよ…食べさせてあげたいですというかむしろ銀ちゃんごと食べたいです土方くんちょっとそこどいて!!

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