片田舎の小さな村にある教会
私はそこで神様に人々の心を届ける手伝いをしている。
私たちは人々に聖女と呼ばれ、神父様のお手伝いをするのが役目だ。清らかな処女だけが聖女となる。彼女たちはやがて期を迎え結婚をすると同時にその役を離れるのだ。
しかし私はもう清らかな身ではない。
それでもまだ聖女と人々に呼ばれる私は、彼ら人間どころか神をも裏切っている最低な女だ。
でも、きっと彼は私よりももっと最低な人間なのだろう。

だって......


□□□


真っ暗な夜道、身を貫く恐怖に耐えて一歩一歩前へ進む。
向かうのは人々が神へ思いを捧げる場所。よりによってこの神聖な場所で私は人々を裏切る。
この先で私を待つ彼に、私は今晩もまた抱かれるのだ。彼の手が肌を滑る感覚を思いだし立ちすくむ。思い出すだけでも恐ろしく、そして気持ち悪い。
その最中私は他の誰でもない自分の心を必死に神へ伝える。
怖い。たすけて、お願いです。こわい......
それでも助けが現れたことはない。だから今晩も彼の元へ向かわなければ。
「神父様、お待たせいたしました。」
彼に逆らえば、私には他に行くあてなどないのだから。



「神父様?」
いつものように私を部屋へと引き込む手は何故だか現れない。もう一度呼びかけるも返事すらない。
少し早足で奥へと進むとその理由はすぐにわかった。
彼はもうこの世にはいないのだ。
流れ出た地の水溜りの中心で、彼は何者かにその身を喰われている。
彼を喰う影は、私の存在に気付きゆっくり立ち上がった。そうして今まで喰らいついていた肉になど目もくれず、私の方へと近づいてくる。
人間にも似た姿だが、大きな角と牙そして人間の背には無い真っ黒な羽根が、その影が何者であるかを物語っている。
悪魔だ
きっと罰が当たったのだ。人々をだまし続けた私の心を神様が聞いてくださる筈もない。私たちのお迎えは悪魔がぴったりだ。
一歩一歩ゆっくりと近づく悪魔に、私は逃げるどころか後退ることもできず、ただ影でよく見えないその顔を見上げていた。
「......っ」
目の前までやってきた悪魔は、大きく手を広げる。嗚呼、これで私は死んでしまうのだ。それでも体は動かない。せめてと、目をぎゅっと瞑り、うつむき顔をそらす。
しかし、私の身を襲ったのは恐れていた衝撃ではなく、温かな体温。
「よかった。逃げましょう?」
悪魔は私を抱きしめ、そうして耳元でささやいた。


その声は、優しい若い男の声だった。



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