くちゅくちゅと濡れた水音が響く。 臨也は頬を紅潮させながら手を前後に動かした。その度に水音と重たい感触と共にズルズルと引きずり出されるような快感が襲う。臨也はヘッドフォンを耳にかけた状態で、頬を紅潮させ恍惚の表情を浮かべた。ぽっかりと空いたままの口からはひっきりなしに荒い呼吸が漏れる。 「ん、ぁあ、ぁひ、ぁあ」 臨也はヘッドフォンに手を当てて耳に押し付けるようにして果てた。そのままぐずぐずとベッドに顔を押し付けて崩れ落ちると、びくびくと痙攣させながら身体を弛緩させた。大きなヘッドフォンがそのせいでずれ落ちる。 臨也ははぁはぁと荒い呼吸を繰り返しながら、蕩けきった表情でヘッドフォンに手をかけた。スピーカーからは囁くようなテレビの喘ぎ声と、荒い男性の吐息が洩れている。 『はぁ、はぁ……………っ』 「んんんっ、ふ」 臨也はうっとりとした様子でヘッドフォンを耳に当て、その音を拾っていた。 「……シズちゃん……シズちゃん……」 息を詰める音。臨也は一度果てて濡れた自分の性器への愛撫を強める。 「ァ、は、ん…………ッ!」 びくん、と臨也の身体がバネのように跳ね、同時に弄りすぎて赤くなった性器の先端から白濁が飛び出した。 『大概にしとけよ』 「…………」 携帯から伝わる声は明らかな合成音であったが、言われている言葉は本気の意を示していた。臨也はそれをわかっていてあえて黙る。 「……そんなことでわざわざ電話してきた訳じゃないだろ九十九屋……じゃあね。今度の情報は宜しく」 通話ボタンを容赦なく切り、臨也は携帯を部屋の隅に乱暴に投げた。デスクに戻り、机の上に置かれた機械とヘッドフォンを手に寝室に向かった。 臨也は端末にヘッドフォンの端子を挿入し、ベッドに俯せになって倒れこんだ。日中の為かヘッドフォンからは耳障りな雑音しか聞こえてこない。だがしかし、それでも臨也の息は徐々に上がっていく。 臨也は頬を紅潮させながらベッド下へ手を伸ばした。ベッド下の収納スペースから箱を手繰り寄せ、中から大きな黒いディルドとローションボトルを取り出した。 ディルドを前にして平静が崩されたのか、感極まったかのように臨也はディルドの先端をくわえる。そして目を瞑ってじゅるじゅるとディルドの先端や竿を愛しげに、まるで誰かのモノのように丁寧に舐めていく。 「んぶ、んン、ふ、ぅむむ、んむっん、シズちゃ……っん」 静雄のモノだと想像すると、ズボンの前が窮屈になってくる。もどかしさから臨也は足を擦り合わせながら腰を突き上げた。 そして一旦ディルドから口を離し、たどたどしい手付きでズボンの前を寛げる。 「…………、ッは」 ローションでべたべたにした指を使ってまだきつい後孔に一本挿入した。 「…………くぅ、あは、しぅ」 ぐちゃぐちゃと汚い音をたてて撹拌し、指が二本ばかり入った所でディルドを後孔に押し当てた。挿入時の圧迫感は一瞬で、太いディルドの竿はずぶずぶと臨也の胎内に呑み込まれていく。 「あっ、あっ、シズ、シズちゃんっんっ」 一旦腰を引いてから勢いをつけるようにしてずっぽりと根本までディルドを飲み込んだ。ヘッドホンからは絶えずノイズの音だけが響いていた。 「深いよぉぉ……んぁ、あぁっ」 そんな耳からの刺激にも感じ入るようにびくびくと体を震わせ、臨也は恍惚とシーツに顔を埋める。開きっぱなしの口からは絶えず涎がこぼれ落ち、シーツに染みを作っていく。 ◆◆◆ 『ふ……うぅ、もっとぉ……あっ、ひんっもっとしてぇっ!』 ズブズブと後孔からディルドを出し入れしながら頭を左右に振り、ひんひんと臨也は喘いでいた。 頭には大きなヘッドホンを装着している。そのコードの先に繋がった本体。あれは盗聴機だ。端末は平和島静雄の暮らす部屋に仕掛けてある。 九十九屋真一はPCのモニターごしに臨也の痴体を他人事のように観察しながら、温くなり始めたコーヒーを一口啜った。 『きらい…………っきらいぃ………っ!』 ズコズコと激しくディルドを出し入れしながら臨也は喚いていた。 酷く歪んでいる。歪んでいるが、臨也はああいった形でしか人を愛せないのだ。九十九屋はチャットを起動する。モニターには『九十九屋真一のターン!』という文字だけが踊っていた。 過去のログを追いながら横目でライブと書かれた映像に目をやる。 わざわざ盗聴までしている相手を嫌いだ嫌いだと言いながらも浅ましく腰を振る姿は酷く滑稽だった。 「楽しいか、折原」 誰も受けとる事の無い言葉をわざわざ口に出して呟き、九十九屋は冷めたえぐいコーヒーを飲み干す。 「馬鹿馬鹿しい」 かつて九十九屋が臨也としたやり取りのログで、九十九屋は臨也に数回忠告をしてきた。 ――闇を覗くものは決して闇に飲まれてはいけない。お前はそれを出来ているか? ――言えないならば代わりに言ってやろう。お前はそれができていない。人間が好きだと言いながら、お前は誰も愛せないんだ。 逃げたければいつでも逃げられるネットという仮想空間だからこそ時として人は本音を語る。そう問い詰めると、臨也は回線を切った。ネットワークの向こう側の人間がどんな顔をしているか、そんなの知った事ではない。 『嫌い……っきらいぃ……っだいっきらいぃ…………っ!!』 悲鳴のような声を上げて臨也は果てた。 後孔にディルドが突き刺さったまま、ぜいぜいと荒い呼吸を繰り返す。 九十九屋はリンクからダラーズの掲示板に飛び『平和島静雄出没注意報』と書かれたスレッドをクリックする。そこには今日の平和島静雄の動向が事細かに書かれていた。 現在は駅前のマック……見ると丁度昼飯時だった。九十九屋は立ち上がり、カップに温かなコーヒーを注いだ。ライブモニターは相変わらずぐったりと横たわる臨也を映している。 恐らく臨也はこの隠しカメラの存在に気が付いているだろう。あれだけの情報を処理し、立ち回っている男だ。それくらい気が付いて当たり前だろう。 しかし臨也はそれについてアクションを示してこない。わかっていてやっている。 「お前の恋心を知る人間は一人でいいって事か……」 九十九屋はそう呟いてまだ熱いコーヒーを啜った。 終 |