※ツイッター診断メーカーネタ。静雄の日!

【静雄の飼い方】1.お腹が空くと暴れて攻撃してきます。 2.強がるのは構って欲しい証拠です。 3.噛み付いてきたら愛情不足です。餌で機嫌を取るか捨てるかして下さい。 http://shindanmaker.com/190349




「おいノミ蟲、俺を飼え」
「お断りします」
不遜な態度で玄関に立つバーデン服の大男を一瞥し、臨也はバタンと戸を締めた。チェーンを掛け、内鍵も全て締める。
「なんなのシズちゃん。久々に顔見せたと思ったら早速それ?何を企んでるの?」
「企む」など、自分の専売特許だが、臨也は背中で扉を押さえ、両手で耳を塞いだ。
数日姿を見せないと思ったらこれだ。臨也は嫌々と頭を振る。ドンドンと戸を叩く音と、よく聞こえないけれど、聞き捨てならない中傷が聞こえるが全て無視しようと決め込む。
「今日は流されないからな……!」
そう決意してドアノブをぎゅっと握った。
しかしささやかな臨也の抵抗などさして気にも留めないようにグシャ、とまるでアルミホイルを潰すかのような音を立てて扉が開き、チェーンがバキンと音を立てて落ちる。
そして現れた長身の男は臨也を見下ろしながら、憮然として言う。
「メシ」
「は!?」
扉が外開きのせいでバランスを崩して倒れた臨也を跨いで、静雄は部屋に上がり込む。臨也はその場に踞ったまま呆然と静雄を見た。
なんなんだこの非常識バーテン男。お前に食わせる飯なんざあるわけないだろう。あっ勝手に鍋の蓋開けるなよ。それは波江につくってもらった俺のビーフシチュー!臨也の背中に静雄の足が降りてきて「ふぎゃ」言いたい言葉がくぐもった音に消える。
いくら街中では対等にやりあっているとは言われていても、なんの武器も無い状態で静雄とタイマンを張れるほど臨也は強くない。
「何しに来たんだよ……本当に……もう」
自分が池袋に行くと烈火の如く怒り狂う癖に、静雄はしょっちゅう臨也の自宅を訪ねてくる。そして顔を見るなり「むしゃくしゃしたから殴らせろ」だの「死ね」だのと好きなだけ臨也を罵って帰っていくのだ。
(挙げ句の果てには、ぬ、抜け……とか)
そして数日前、いつものように臨也の自宅を訪ねてきた静雄は代わり映えの無い不遜な態度で臨也にそう言ったのだ。
流石にいくら臨也とは言えど同性に面と向かってそんな事を言われた事は無かった。確かに経験が無くはない。というか、なりゆきで数回静雄と事に至った事もある。そもそも、臨也の周囲の人間は大抵臨也の事を遠巻きに見ていたので、直接的にそのような事を言う人間がいなかったのだ。

やらせろ、でも、付き合え、でも無く『抜け』。
……ショックだった。
普段あれだけ人を陥れている人間が言えた義理はないが、流石の臨也でも数日間池袋に近寄れないくらいには傷付いた。

しかも、静雄が我が物顔で食べているシチューは、元々臨也が後で食べようと取っておいたものだ。しかしここでそれを主張しても虚しいだけだ。臨也は全てを諦めてソファに四肢を投げ出した。


一通り食べ終わり、満足したらしく大人しくなった静雄は食器をシンクで軽く流し、真っ直ぐに臨也の座るソファに歩み寄ってくる。
臨也は警戒感でビクリと肩を震わせ、身を固めた。静雄と距離を置くようにソファの端に体を詰める。いつでも逃げ出せるように体勢を整えた。
そんな臨也の行動を静雄は意味深に目を細めて見やり、どかりとソファに腰掛ける。
静雄の体重で軋んだスプリングに臨也はビク、と更に距離を広げるように座る。
「また俺に、ぬ、抜けとか言いに来たの……?」
「あん?」
「何の罰ゲームかしらないけどそんなに溜まってるならさ、風俗行きなよ。俺、そう言うの、ほんとに、まじむり」
好きでもないのに……と、最もらしいうぶな台詞をごにょごにょと口走り、臨也は目を背けた。
「あー……言わねえよ」
それだけ言うと静雄はぽりぽりと困ったように頭を掻き、「つーか……」と続ける。
「別にそういうつもりできたわけじゃ無ぇし」
「?」
首を傾げる臨也に、静雄は何故か照れながら言った。
「幽がペットは癒されるとか言うからよ、手前もストレスが溜まってっからあんな性格なのかと思ったんだよ。かわいくねぇし、ヤってる時はまぁかわいいけどよ」
静雄曰く、幽が穏やかなのはペットを飼っていてストレスが軽減されているからではないだろうか。ならば臨也もペットを飼えば穏やかになるのではないか……しかし、いくら犬猫とはいえあんな外道に育てられて万が一虐待なんかがあったら大変だ。自分は忙しい上に金銭的余裕もないから動物は飼えない、しかも力加減を間違えたら怖い。苦肉の策として自分が臨也の疑似ペットになればいい……という滅茶苦茶な論理展開からきた発言であったらしい。
「ペットは基本自由だろ」
先程のビーフシチュー強奪も以上の理由だという。
やはりこの論理がどこかおかしい事に気が付いているのか静雄も罰が悪そうに言った。
「……じゃあ、あの、ぬ、抜けって言うのは?」
「ああ? 抜けとは言って無えじゃねーか。俺は“抜きに来た”っつったんだよ」
“抜け”と“抜きに来た”では一体どこがどう違うのだろう。
「同じじゃん!」
「違えだろうが」
吠えた臨也を一喝し、静雄は再び独自の論理を展開し始める。
「ヤらせろじゃ露骨過ぎるだろ」
静雄も他人に対しては、臨也の事をとても非難出来ないような滅茶苦茶な論理を並べ立てている。臨也はその矛盾した状況に意義を唱えたくなった。
しかしどちらにせよ静雄が体目当てにやって来たのは違う事無い事実だ。
「同じじゃん!」
それによって臨也が傷付いたのもまた事実である。臨也も静雄に対して大概酷い事をしていると思うのだがそれは一先ず棚に上げておいた。
「もういい。シズちゃんが出てかないなら俺が出てく。飼う? ペット? 馬鹿じゃないの? ペットごっこなら一人でやりなよ」
「待てっつの。一人じゃできねえだろ」
出ていこうと動き出した瞬間、腕をがっしりと掴まれ突っ込みどころがいまいち違う事を言われる。
「俺と手前、このままじゃ不味いんだよ。いつまでこんな意味わかんねえ関係続けてくんだ?」
両腕を掴まれ、静雄と向かい合わせになる。視線も捕まった。
「関係? 何それ。どうせシズちゃんは俺の事セフレ位にしか思ってないんだろ。手加減必要無いし俺、便利だもんね!傷付かないし?」
本当はこの関係がセフレ以下だと言う事も分かっている。だからこそ何もかもかなぐり捨てるように臨也は吐き捨てた。
「ペットなら俺の言う事聞けよ!」
涙こそ出ないが、気持ちはもういっぱいいっぱいだった。静雄の手を振り払うような気持ちで思いっきり身動ぐ。
「……わかった」
「………………っ!?」
結局振り払う事は出来ず、臨也の体は静雄にホールドされた。
ぎゅっと抱き締められ、煙草の苦い匂いが鼻腔を覆い尽くす。
「譲歩する。言う事聞いてやる。だから手前は取り敢えず俺を飼え。俺が手前を変えてやる」
ソファのひじ掛けに押し付けるように抱き締められた為、臨也に静雄の体重が掛かっていた。温かい重みで身動きは少しも取れず、臨也の手が空を触る。
「拒否ったら逃げたって事だからな。逃げんのか?」
耳元で挑発するように囁かれ、一気に頭に血が昇る。
「やれるもんならやってみろよこの駄犬……っ」




かくして静雄は臨也のペットとなったわけである。
期間は未定。仕事は両立。その他も未定。
ルールはひとつ、撤回は無効だ。