********* 「返信くれないんですか?」 粟楠会の事務所でニコニコと屈託のない笑顔で臨也は四木にそう切り出した。 まるで今まで大人が噛んでいたガムと同じものをもらえなかった子供のようだと思う。しかし、軽い言葉とそれに孕んだ意味のギャップが大きすぎて真意が判らない笑みでもあった。 「ーーなんのことですか?」 四木は臨也を尻目に、ぱらぱらと書類を捲る。 「いやだなぁ。はぐらかさないでくださいよ」 ーーわかってるくせに。と、臨也は屈託のない笑顔から、精悍な笑みへと表情を変えた。 「さて、何のことやら」 「四木さん」 ふっと声音が変わったことに気付き、四木は顔を上げる。 赤い双眸の奥の射るような光を捕らえ、四木はじっと臨也を見た。 「何か?」 液体化してしまいそうなほど圧縮されて濃度が高くなった四木の威圧感などおくびにも出さず、臨也は四木を黙って見つめた後、柔らかく微笑んだ。 「気持ちよくして、下さいよ」 ーーまた、あの時みたいに。 臨也は音もなくそう言うと、四木のデスク下にしゃがみこむ。 ジジジ…と上唇と下唇で器用にチャックの金具を挟み、下に下にとゆっくり下げた。そしてグレイのボクサーパンツに手をかける。「手を、使うんですか?」 「……っ」 頭上から降ってきた言葉に、臨也は小さく息を詰める。パンツに伸ばした手を引っ込め、おずおずと四木の股間に顔を寄せた。 鼻腔に四木の匂いが広がり、眉を寄せる。だがしかし、軽口や文句を吐くための舌は痺れたように縮こまって思うような言葉は出てこなかい。ただ漏れそうになる意味のない母音を押さえようと口をつぐんだ。 溜まった生唾をごくりと飲み下し、止めた息をゆっくりと吐き出しながらパンツのゴムに前歯を引っかけて引きずるように下ろす。 「……ふっ」 ーーーー苦しい。だがしかし息が詰まったようで空気が吸い込めない。 膝を落としぺたんとその場に座り込んで、上半身ごと四木の下着を下ろすが、履いたままのスラックスが邪魔で思うように動かせない。仕方なく臨也はパンツから口を離し、頭を上げた。 は、は、と浅づく呼吸の為、声を出すのが億劫だったので視線をさ迷わせながら四木を見た。しかし四木は自分の持ってきた書類をぱらぱらと捲っていて、こちらを見ようともしていない。 「……ね、」 せめて四木の意識を自分の方へ向けようと、臨也は頭をぐりぐりと四木の足に押し付ける。 「……ねぇってば」 絞り出した声でようやく四木と呼ぶが、四木は一瞬だけ臨也に視線を寄越したきり動かない。 焦れた臨也は寛げたスラックスの腰部分を噛みつくようにくわえ、ずり下げようと身体を動かす。 (……犬みたいだ) ふとそんなことが頭を過り、羞恥がじんわりと脳内を犯していった。阿呆のようにスラックスをくわえた唇の両端からは、絶えず分泌され続けていた唾液が溢れそうになっている。 「動きましょうか?」 ようやく四木の放った言葉に、臨也はスラックスをくわえたままこくりと頷いた。 (早く言えよ) 「……ん……」 臨也は、四木が微かに腰を上げた隙に頭を振りながらスラックスを引きずり下ろす。しかし、中々上手く下ろすことが出来ずにスラックスは四木の鼠径部部分まで下ろされて止まった。そして今度は四木のパンツに噛みつく。苦しさに思わず四木を見上げると視線がぶつかった。 「こちらも?」 わざとらしく聞かれ、臨也は内心で悪態吐きながらもこくりと頷く。 スラックスと同じように鼠径部までパンツもずり下げ、やっと四木の股間から顔を離しほっと息を吐いた。 むき出しになった四木の性器が視界に入り、小さく息を詰める。そして両手を四木の膝の上に置き、萎えたペニスに舌を這わせた。 微かにむんとした汗と性の匂いが鼻につき、顔をしかめる。だがいつまでもこうしてぺろぺろと嘗めているわけにもいかない。溜まってきた唾液をごくりと嚥下し、意を決して臨也はかぷりと四木の性器を口にくわえた。口に広がるしょっぱいようなえぐいような不思議な味に生理的な吐き気を催すが、なるべくそれを意識の根底に沈め込みくちゅくちゅとまだ柔らかいままのペニスを咥内で転がした。 「ん……む」 大振りの飴玉よりもかなり大きいそれは口に含むというよりもくわえてしゃぶると言った方が正しい。萎えたペニスを唇と下顎で支え、吸い付くように奥までのみ込むと、不可抗力で声が鼻から抜ける。舌で亀頭の感触を確かめるように舌の根本を使って舐めると、下顎で完全に支えずとも自力でゆるゆると先ほどよりも幾分か起ち上がり始めた。 空いた両手を四木の膝に置き、慣れない舌さばきでペニスを刺激する。フェラなんて生まれて初めての体験だった。ーー最も、普通の人生を送っていれば一生する機会など無かっただろう。第一、人生経験と称して裏社会に顔を出し始めたのもここ数年間での話だった。いくらやくざと取引していると言っっても所詮は臨也はまだ高校に上がったばかりの餓鬼である。アダルトビデオや本での知識を総動員して、見よう見まねで舌を動かしてみるが、四木の表情は変わらない。 「…………ん、む」 悪戯に漏れる、溜め息の延長線沿いの声が羞恥を煽る。 続 |