「あ、あ、」
動物みたいな鳴き声が車内に響いて、車体がギシギシと揺れる。大きな大きな男の性器が臨也の中を犯していた。車内が狭いせいで、男の息が臨也の頬や耳や肌に直に当たる。臨也はそれすら感じ入ってびくびく震えた。視界がホワイトアウトしていて、もう何が何だかわからない。臨也はそれが怖くてたまらない。それを男に伝えようと口を開くと、あーだのうーだのという獣じみた呻き声しか出てこなかった。もうやめて、お兄ちゃん、こわい、こわいよう、臨也は子供に戻って泣きじゃくった。助けてよう、お父さん、お父さん、訳がわからない。父にそっくりな男が父に見えて、また臨也の性器が立ち上がる。幼い臨也のまだ未熟な性器を弄りながら男は笑っていた。大人になって、臨也の性器に毛が生えそ
ろってからも男は笑った。
「外は、汚い、もの、が……ッ、いっぱいなん、だッ、だから、臨也は、お兄ちゃんのいう事、よく聞いて、お兄ちゃんの綺麗なミルクだけ……ッ飲むんだよ、」
ずるりと性器が抜かれ、熱い迸りが尻にかかった。むわ、と濃い雄の匂いが車内に充満する。
「九瑠璃ちゃんと舞流ちゃんも可愛いけど、やっぱり、お兄ちゃんは、臨也が一番だからね、あんしんして、臨也は明日から俺の家に住もうね。兄さんにも言っておいたから。心配しないで、臨也は俺の家に住みたいって言ったから。がっこうももう行かなくていいよ、今日、変な物、食べちゃったでしょ、いざやは天使なんだから、そんなもの」
飲んじゃダメ。
男はにっこりと笑みを浮かべて、再び臨也の中に侵入した。なんでこいつが知ってるんだという叫びは、引き攣れた悲鳴になって車内に響く。なんでこんなに騒いでるのに誰も気が付かないんだろう、外は日常なのに、臨也はひたすら悲鳴を上げ続けた。
なんでなんで、疑問符ばかりが頭に浮かぶ。おっさん、俺は天使じゃないんだよ、なんでわかないの、もう訳が分からない。熱で下半身がどろどろにとろけて、男と混ざり合って肩甲骨がメキメキと音をたてて形が変わる。こんなもの全部幻覚に決まっているけど、妙にリアリティがあってリズミカルに突き上げてくる振動が腹を圧迫して臨也は吐いた。門田に貰った卵焼きも、桃味のタブレットもみんなみんな出る。
殆ど液体のそれをげぇげぇ吐き出しながら、臨也はギリギリの所で睨んだ。

「あ、たま、お、かし……じゃな、の……っ?」

身体が溶けてぐずぐずになってもう口しか残っていないと思った瞬間、まだ溶けてない喉と溶けかけの脳みそが完全に溶けきる前に、臨也は声を振り絞った。熱くて熱くてたまらない。焦点の定まらない目で天井を見上げていると、雨が降ってきた。もう訳が分からない。
ぐっちゃぐっちゃと粘液を捏ね回すように気持ちいいのが酷く酷く続いて、頭痛が警告のようにガンガンと鳴り響いていた。これ以上逆らったら、もう完全にアウトだ。がっこうにもいけないし、ドタチンにも、しんらにも、しずちゃんにもあえない、くるりとまいるはなにもしらなくて、じいちゃん、ばあちゃんも、とうさん、かあさんも、しずちゃんはどうでもいいけど、なんで、なんで誰もしらない、男が突然無言になって臨也は泣いた。もう訳が分からない。わからない。なんでお前がしってんの。
「いざやはてんしなんだ、判るだろう、だからね、いいこにしてて、きもちいいだろ、きもちいいの、すきだよね、小さいころから臨也は気持ちいいの好きだもんね、ここなんて、ほら、むかしっからずっぽり銜え込んで、えっちだねえ、気持ちいいねえ」
火の塊かと思える程熱い塊が身体を串刺しにしてきて、息が詰まる。その瞬間、また首筋にチクリと痛みが走った。視界も真っ白になる。ふわふわして、とても気持ちがよかった。
吐瀉物の中に顔を埋めて、臨也は無くなっていく自我を客観的に見つめた。
――――莫迦だなあ。口に出さなければよかったのに。
口に出さなければ今までのままでいられたかもしれないのにね。
――――でももう、遅いよね。基本的に。
突き上げがどんどん激しくなっていき、臨也の腹がびりびりと痺れ始めていた。腹どころではない。受け入れている穴の淵も、みんなビリビリと痺れている。こりゃ、ちとやべえな、臨也はそこで意思と自我を放棄した。
「いざやはかわいいなあ」





(バカな子は、)


- ナノ -