※なんとかPの団地ガールパロ
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ーーーーーーだるい
まるで身体の中に注ぎ込まれたねっとりと粘度のある生暖かい液体が、そのまま胎内で発酵してどろどろのヘドロのような形状になったかのようだった。酸素が届かなくてヘドロでぎっちり密室状態の下腹部がずんずん痛い。
そのせいなのか、息が苦しいような気持ちになって身動ぎをするとどろりとそれが太ももをつたってシーツにぼたりと落ちた……気がした。
しかし実際にはどんなに身動いでも股の間から何も出ることはなかった。残るのは不自然に固められた関節の、きちきちとした痛みと、内蔵を内側から擦られたひりひりとした痛みだけだ。
整然とした殺風景なワンルームには塵ひとつどころか、髪の毛一本すら見当たらない。それどころか据え置きの屑入れの中にも、丸めたティッシュはおろか使用済みのコンドームすら入っていなかった。
ーーーーそれほど自分には信用が無いのだろうか?
痕跡は塵ひとつ残さない、さすがプロの仕事だと臨也は思う。
「………いくらなんでも四木さんをDNA単位でどうこうしようとは思わないさ」
思ったことをあえて口に出すと、臨也は笑った。ーーーー最悪だ、気分が。穴は本人の思わぬ所にあいているものだ、とはよく言ったものだな。
(さしずめ俺は、ていのいいオナホールってところかな)
少々意味合いは異なるが、この自分が、まるでただの道具のように扱われていて、しかもその状況に甘んじていると思うと虫酸が走った。ーー冗談じゃない。
しかし、ぐちゃぐちゃに乱れたベッドや自分の身体の上の残滓は全て自分のものであるのも事実だった。
腕を伸ばすと縮こまった筋がずきずき痛んだ。微かに眉を潜めるが、我慢できないほどではない。横たわったまま携帯電話を手に取り、特定のアドレスを呼び出す。

『ーー愛人でもいいんです』

ーーまるで懇願しているかのような文面だと思った。だがしかし内心は違う。それは己に無いものへの嫉妬と羨望だった。それは恐らく中学時代、級友に対して味わった類いのものに近い。
どろどろと、発酵した白濁が腹の奥底で悪臭を放っているようでとても不快だった。
軋む半身を上げ、臨也はホテルの壁に凭れるように座った。
そしてベッドサイドに置かれたティッシュで身体にこびりついた残滓を拭う。未だひりひりと痛む孔や内蔵が、たっぷりと注がれたローションのお陰でまるで女の陰部のように濡れていてとても気持ちが悪かったが、それでも想像の中の白濁のように垂れてこないのはもっと気分が悪かった。
いっそローションでもいいから、痛み以外の痕跡が欲しい。ーーーーそうすれば目をつぶって、溢れんばかりの非日常を注がれたという錯覚をすることが出来たのに。
(そうしたら俺だってもっと気持ちよくなれた筈なのになぁ)
身体の上に乾いてこびりついた残滓をごしごしとティッシュで擦る。強く擦りすぎたのか赤く擦れた痕が白い肌に残って、まるでキスマークのようだとぼんやり思った。一応、気になる程の汚れは拭ったのだが、それでも全てすっきりとまではいかない。
シャワーに行けば良いのだろうが、気分ではなかった。
どうせチェックアウトまではまだ大分ある。それならば早々に出る必要も無いだろう…と、臨也はごろりと再びベッドに身体を埋めた。
それによって自動的に視界に入ってきた携帯電話を手繰り寄せてみるが、ディスプレイにメールの受信を知らせる表記はなかった。
(……無視、か)
普段ならば即刻返信が返ってくる筈だった。何故ならば、今自分が相手に連絡を取ったアドレスは仕事用のものである。
あの四木という男は、大層仕事に熱心だから取り引き相手からのメールを見ていない訳がない。
(俺とは違ってね)
ーー人に誇れるような仕事でもないくせに
確か一度、四木がどんな反応をするのかが気になって、そのようなことを口にした事があった。だがしかしその時も、いつものように腹の底がわからないような無表情のまま『折原さんには言われたくないですね』と言われたのだった。
全く奴は食えない男である。だが退屈はしない。……と、臨也は思う。
退屈は嫌いだ。人間は好きだが、観察対象として大した興味が沸かなくなればもうそれ以上のことは思わない。日常や平穏なんてもっての他だ。だから臨也はあえてそれをかき混ぜて、渦を作り、毒を一滴、もしくは到底調和し得ない色を一滴垂らす。
それによって彼らは一体どんな顔をするのだろうか、どんな反応をするのだろうか。泣き叫ぶ?絶望する?それとも何かに目覚める?怒り狂う?どちらにせよ、どれをとっても臨也には興味深く観察できる刺激と反応の結果である。
しかし奴はーーーー簡単には人間たる本性を見せたりしない。さすがはプロだと、まるでRPGのボスに挑む時のような興奮を携えて、ならば別の方法だと臨也は四木の袖を引いた。
(ぶち壊しになればいいよ。犬死には厭だけどね)
あの化け物とは違って、四木は臨也を苛つかせたりはしない。道徳だなんだという説教もせず、ただ淡々と、自らの利益を考えてそれだけのために動いている。ーーーーままならない。吹けば飛ぶ塵みたいな人生なんてもう飽き飽きした。壊して、作り替えて、俺と遊んでくださいよ。ねぇ、ねぇ四木さん。
ぼんやりとベッドの上で一人暇をもて余しながら、玩んでいた携帯電話をベッドの外に投げた。がたんと、随分大袈裟な音をたてて携帯電話が床に転がる。
(欠けたかな)
一瞬そんなことをふと思ったが、壊れていなければ構わないので放っておくことにした。
ーーーー日常とはかくも儚く、それでいて図太いのだ。
ふと今日が平日の昼間であったことを思い出し、臨也は心底つまらなさそうにぐったりと軋むスプリングに身を任せる。
ふとテレビでも観ようかと思いついたがリモコンまでの距離が面倒くさくてその気にならない。
なんとなく見つめていた携帯電話は沈黙を保ったまま、カーペットの上に転がっているし、何より朝のホテルの一室は酷く静かだった。
それはまるで、この状況こそ明らかな非日常であるのに、さも当たり前の日常であると主張しているかのようだった。
「ん」不意に体制を変えようと、太股を持ち上げた瞬間忘れかけていた違和感を思い出し鼻から音を持った吐息が洩れる。
ローションの滑りで内臓がどろどろのぐちゃぐちゃだ。ーー頭がちかちかする。
厭というほど丹念に解された括約筋が未だに異物を排出しようとひくひくと蠢いていた。臨也はそれに眉根を寄せて苦し気に息を吐く。酸素が濃くなりすぎて重くなったように、呼吸がし辛い。ベッドに顔を埋め、深呼吸をすると微かに自分の匂いに混ざった四木の匂いがしたような気がして、再び熱を帯びた溜め息を吐く。
(欲しいなぁ)
ーーーー自分ではない、違うものが欲しい。
とろんとした微睡みの中で臨也はぼんやりと思う。
(チェックアウトしたら、とりあえず新羅のところに行くか……)
内側から散々突き上げられたせいで下腹部がずんずん痛い。そこまで思考を巡らせた後、臨也はふっと意識を閉じた。