――ああ、なんでこうなった。

情報屋・折原臨也は心の底から後悔した。
今回は完全に侮っていた。

この世には、やっていいことと悪いことがあるのだ。
臨也は、そんな世間一般的な常識を心の底から痛感して、身をもって体感していた。

「あ゛、あ゛、ぅ、」

ギャグボールを噛まされた口からひっきりなしに唾液が零れ、後ろ手に革の拘束具でギチギチに縛られた状態では意味のある言葉を吐き出すこともできない。
口から顎を伝う透明で粘りを帯びた唾液は、臨也が転がされている真っ赤なソファーに赤黒い染みをつけていた。
ヴヴヴ、と低く唸るモーター音と共に、臨也の腰がぴくぴくと跳ねる。

――どうしてこうなった!

臨也は、働かない頭を必死に動かし、狭いソファーから転がり落ちてしまわぬように悶えた。

「あ゛ぅ、ふ、ふー……っん゛っ」

直腸で震えるバイブの先にはかわいらしいウインクをしたピンクのウサギのキャラクターの顔が覗いており、それは臨也の肛門からぴょっこりと顔を出してぶるぶると震えている。
そのバイブを落とさないように臨也の足はぴったりと閉じられ、これもまた腕と同じ拘束具で束ねられていた。

「――あら、いいザマね」

突如、部屋の入り口からかけられた聞きなれた女の声に臨也はびくんと反応を示す。
どうにかこうにか首を動かし、やっとのことで声のした先に視線を向けた臨也は、出来る限り余裕な表情を取り繕うと目を細める。
部屋の入り口に立っていた女――それは臨也の秘書である、矢霧波江は、そんな臨也の様子をコーヒーを片手に不機嫌そうに眺めた。

「ずいぶんと楽しんでるじゃないの」

そして臨也の傍まで歩み寄ると、臨也の肛門から覗くウサギを掴み、ぐりぐりと動かす。

「――――……ッ!!」

数度動かされた後、臨也の身体が大きく痙攣し、びくびくと震えた。
波江はその様子をつまらなさそうに眺め、真っ赤になった臨也のペニスを空いた手でなぞる。
根本を革のベルトで固く締められ、尿道には一切の先走りも許さないと言わんばかりに細い尿道用のバイブが突き刺さっていた。こちらにも飛び出したバイブの先に、バネで繋がったひょうきんなカエルのキャラクターの顔が取り付けられていてバイブが振動して臨也の身体が動く度にカエルの顔がゆらゆらと揺れる。
このウサギとカエルの玩具は、波江がどこからか持ってきたものだ。
まるで子供の玩具のような淫具に辱しめられ、臨也の羞恥はマックスにまで高まっている。

「よりにもよって私の誠二にちょっかいを出そうとするなんて……」

波江は何やらブツブツと呟きながら臨也の真っ赤なペニスを踏みつけた。

「ふう゛うぅっ?!?!」

波江愛用の恐竜スリッパで何度もペニス踏みつけられ、圧迫と激痛で臨也は目を白黒させながら悶える。
両目からはぼろぼろと涙がひっきりなしに零れ落ち、喉元からはひゅうひゅうと掠れた吐息が洩れた。

「――――……ぃぎっ?!ひっあ゛ぎ、んふ、ひ」
「痛いの?それはよかったわね。私があんたのきったないペニスをわざわざ踏んであげてるんだから感謝なさい」

臨也は激痛に苛まれながら確実に後悔していた。

「次に誠二に変なちょっかいを出したらあんたの尻に切り取った平和島静雄のペニスを突っ込んで肛門を縫い付けてやるから。それともあんたの踏まれて喜ぶその変態ペニスにモーター入れてセルフアナニーでもいいんじゃないかしら?」
「……あぐ、くぅぅ」

こんなことなら本当にあんなことやらなければよかった……!
悪気は無かったのだ。
ただ臨也は、自分の所有する首を波江の唯一にして絶対の愛を捧げる弟・矢霧誠二に近付けてみようと自宅に招いただけで。
どうなるか気になった。渡す気は更々なかったが、あの誠二に盲目的な愛を向ける女二人がどういった反応をするのかみてみたかった。
波江のなよやかな手が臨也の頬を撫で、一層強い振動が直腸と尿道を刺激する。

「ふぎ、いっ……ふうぅぅう゛?!?!」


尿道が擦られて小さな穴がびりびりと電流が走ったように痛い。
しかし直腸で暴れまわるバイブがぐりぐりと前立腺を刺激してきもちがいい。
臨也はびくびくと腰を揺らしながら、ひ、ひ、と浅い呼吸を繰り返した。

「う、ぅうぅ、」

しゃくりあげながら臨也は明らかに生理的ではない涙を流す。ぐりぐりと性感帯を刺激され、痛みとも快楽ともつかない衝撃が全身を駆け巡る。
ギャグボールを噛まされた口がびりびりと痺れて、もうまともな思考さえ構築出来ない。
視界の端にちらちらと見えるウサギとカエルが臨也の羞恥心を煽る。
限界を感じて、臨也は痙攣しながら波江を哀願の意を込めて見た。

「ふ、う゛、うぅー……っふ、!!!」

しかし波江はそんな臨也を嘲笑するように口端を歪めると、ガクガクと震える臨也の膝裏を抑え、小刻みにバイブするウサギの頭を掴んで一気にピストン運動を開始した。

「は……ッヒィ……!」
「まだ駄目よ。まだまだ……」
波江は常軌を逸した眼でぶつぶつと呟きながら力任せに臨也のアナルを犯す。
ぐちゃぐちゃとローションが泡立つ不快な水音と共に、臨也のくぐもった悲鳴が響いた。

「誠二はあの『女』に会ったの?」
「は、ひぎ……っ?!」

バシン、と白い臀部を力一杯叩き、波江は問いかける。
スパンキングで臀部が赤く腫れ上がり、臨也は痛みと性器を擦りあげられる快楽で悲鳴をあげる。そして必死に首を左右に振った。

「う゛ぅっ、ぁぅ、ふー……っ、ふー……っ……ひぎっ?!」

更にバシン、と臀部を叩かれ、臨也は涎をたらしながらびくびくと身体を痙攣させて果てた。
しかし、尿道バイブと革の高速具で射精する事がかなわない臨也のぺニスは、ただピクピクと震えるだけでなんの白濁も吐き出してはいなかった。
いわゆるドライオーガズムを迎えたらしき、臨也の赤い相貌の焦点は既に合っておらず、はひはひと浅く息づいて尻を上に突き出した格好で弛緩している。

「ちゃんと口で説明なさい。わかるわよね?誠二はこの部屋に来たの?」


九瑠璃と舞流から買った情報では彼女の愛しい弟が既にこのマンションに足を踏み入れたのかまではわからなかったのだろう。
波江は、放心状態の臨也の髪を掴みあげ、乱暴にその口からギャグボールを取り外した。

「あ、む゛…………〜〜ッか、はっ!!!」
「さぁ言いなさい。誠二はこの部屋に来たの?」
「〜〜ッ!!」

過剰に分泌された唾液が器官に入ってしまったらしく、ごほごほと咳き込む臨也を気にすることなく波江はソファーに乗り上げ、ストッキングごしの膝で臨也のぺニスを押し潰すように圧迫した。

「あひっ?!ひぁっあ、あ、あぁあ!!や、やぁっやぇてぇぇ!いら、いらぃ、いひゃぁ……っぃ、なみ、ひ、」
「来たの?」
「ひゃぅ、ひきっ」
「言いなさい」
「い゛あぁぁ……」

喘ぎ続ける臨也を見て呆れたのか、波江は踏みつけたぺニスから足を退ける。
ようやく無くなった刺激に、臨也がほっと息を吐いて身震いしたのも束の間に、自由にならない腕を掴まれ冷たいフローリングに落とされた。
バイブの入った下半身を咄嗟に庇うようにして横向きに倒れた臨也は、衝撃に目をつぶる。

「…………、っ!!!」
「言いなさい」

床に挟まった耳が痛い。ぺニスが痛い。直腸の違和感が止まない。でもきもちいい。きもちいい。
とっくに臨也の中からはこの行為をしている者が自分の秘書だと言う意識は無くなっており、ただぼろぼろと流れる涙もそのままに臨也は頭を振った。

「きてな……っ、きてな、いっ……ぁひ、で、す、あ、ぅぅ」
「嘘でしょう」
「ほ……んと……ひゃぅ」
「本当に?」
「き、きてないぃ……っ!きてないよぉ……!ほんとにきてないからぁ……!もぅや、ゃ、やだ……っ抜いてよぉぉ……」

もはやそれは哀願だった。
ぐりぐりと押し付けられる波江の足の下で嗚咽を洩らす。

「……ぅ、ぇ、」

不意に頭を圧迫していたものが離れていき、顔中から流れる分泌物でぐちゃぐちゃなのにも関わらず臨也は顔をあげた。
見ると、先ほどまで般若のような顔をして自分を責め立てていた波江は、今や別人のように安堵の表情で臨也から離れていく。

「ならいいわ」
「あ……ぇ?」

急すぎる展開についていけず、臨也はぽかんと口を開けたまま離れていく波江の姿を目で追った。
――まさか終わりだろうか?こんな中途半端な状態で?
先程までの責め苦も忘れ、臨也の額に冷や汗が浮かぶ。

「……ぅ、あ、なみ、」

しかしそんな臨也の心中も知らず、てきぱきと帰り支度を始めた波江に、本格的に臨也は焦り始めた。
必死に身体を捩り、波江に少しでも近付こうと蠢く。しかしその衝撃で尻に埋まったバイブがいいところに当たり、びくんっと臨也の身体が跳ねた。

「な、あひっ、うあ゛、にゃみ、に、あ゛あ゛あ゛、いか、な……っ、いっちゃ、い、だ、あぁぁ……ーッ!!」

ごり、ごり、と容赦なく前立腺を虐めてくるそれにくわえ、ぺニスの小さな穴が食んでいるカエルのバイブの圧迫感が臨也を責め立てた。
特に尿道バイブは、臨也が勃起すればするほど穴に食い込み、その存在を主張している。

「せ……っ、あっぁあうあ゛、せめ、て、これ…………っ、これ、ぇ……あ!ん……っ!とってぇぇ……とってよぉ……、ぃきッ!」

泣きながらフローリングに這いつくばって震える臨也を波江は冷たく見下ろし、やがて大きな溜め息を吐いてから視線を会わせるようにしゃがみこんだ。
はっはっ、と余裕の無い表情で犬のような浅い呼吸を繰り返す口元からは、飲み込みきれない唾液がひっきりなしに流れて唾液の水溜まりを作っている。

「カエルさんは気に入らなかったかしら?」

しゃがみこんだ波江のタイトスカートの間からは、ストッキングに覆われた形のいい太ももとその奥が覗いているのだが、臨也にその事について何か思う余裕は無かった。
波江は片頬を着き、その様子を無表情で眺めている。
臨也はこくこくと頷き、痛みを生んでいる元のバイブを睨んだ。

「これ……ッ、や、あ゛ッ!、ぅあ、あ、?!?!」

一向に動いてくれない波江に痺れを切らした臨也が、もう一度バイブについて懇願しようとした時だった。
波江の手がカエルに伸ばされ、バネのついた首の部分をデコピンでピンッと弾く。
瞬間、電撃が走ったかのような凄まじい衝撃がぺニスに走り、臨也は声もなく仰け反った。

「嘘。カエルさんだってきもちいいでしょう?」

悪魔のような微笑みで子供に言い聞かせるような口調で囁かれ、臨也はぎくりと震える。
何をされるのだろうかという得体のしれない不安と恐怖で臨也はひっきりなしに流れる涙もそのままに、嫌々と首を振った。
しかし波江は、そんな臨也を見もせずに携帯を取り出す。

「……あぁ、そう、もういいわ。今すぐお願い。場所は前に言った住所よ」
「…………?」

なんの会話をしているのか、臨也には理解できない。
だがしかし、不意に嫌な予感がして、臨也は即座に逃げようと身体を捩った。
しかし拘束具でギチギチに縛られた身体は自由にはならず、身体を動かした振動が勃起したぺニスを揺らして、臨也は悲鳴をあげる。

「にゃみ……っ!ぃう、ぁあ゛ん、ぁひ、ゃ、」

波江はそんな臨也を一瞥して立ち上がり、そして非情に言い放った。

「誠二にちょっかいを出したお仕置きよ。存分に楽しんで、二度とこんなことが無いようにね」

死刑宣告をされた囚人のような気持ちで臨也は絶望に着き落とされる。
波江は鞄を持つと、5時ぴったりにタイムカードを押し、部屋を後にする。
残された臨也は腰をくねらせ、必死にこれから行われるであろう『それ』から逃げようと身体を動かした。
しかしその僅か数分後に訪れた見ず知らずの男たちを前に臨也は逃げられないことを知り、再び思った。


――どうしてこうなった!


侮ってはいけない。
人にはやっていいこととやってはならないことがあるのだ、と、世間一般常識的には至極当たり前の事を、太ももを伝う大量の白濁の感触を感じながら臨也は痛感した。




オワリ