※静臨前提+新 新臨風味です。静雄は不在。 お勉強会にて(笑) 「ねえ新羅」 学生の夏の風物詩でもある課題を一緒にやらないか、と誘ったのは臨也である。 かしかし、と、シャープペンシルの頭を齧りながら、ふと臨也は思いついたように顔を上げた。 その様子を見て、新羅は露骨に眉を顰めて、臨也のその手を振り払うようにシャーペンを唇から離す。 「やめなさい。みっともない。よくない癖だよ」 臨也の手からシャーペンを取り上げ、新羅は溜息を吐いた。 取り上げられた瞬間、臨也は「あ」と抗議の声をあげる。 「勉強してたのに……」 「さっきから一行も進んでなかったじゃないか」 「今からやろうと思ったんだよ」 不服そうに唇を尖らせた臨也は、手持無沙汰に新羅の指先を弄る。ぱし、と、新羅はその手を払いのけ、再びノートに視線を落とした。 本当はたぶん、臨也は最初から課題なんてするつもりがないのだ。 『友人』と『夏の課題に興じる』雰囲気を味わってみたかっただけなのだろう。 「勉強しようって言ったのは臨也じゃないか」 そして横目で臨也を盗み見る。案の定参考書は閉じられたままだ。 「最近、新羅ってば俺のお母さんみたい」 くすくすと笑みを漏らしながら、臨也はごろりと机に突っ伏す。 「ドタチンがパパでえ……新羅がママ?」 「気色悪いこと言わないでくれる」 うげ、新羅は心底嫌そうに首を振った。それを見た臨也は再びくすくすと笑みを浮かべる。 どうせ夫婦認定されるのなら、あんな男男しい男ではなく、自分が恋慕の情を抱いている愛しいデュラハンにしてほしいと、新羅は心から思った。 「だってドタチン、最近かまってくれないんだもん」 つまんないよ、臨也は唇を尖らせて言った。 汗をかいた五〇〇ミリのペットボトルの水滴を、つ、と指でなぞって落とす。落ちた水滴でテーブルに絵を描くように指で伸ばしていると、不意に新羅はその手をとってティッシュで濡れた指とテーブルを拭った。 「君が面倒くさいだけじゃないの?」 ふふふ、と笑った新羅に、手を取られたままの臨也は頬を膨らませて抗議の意を示す。 「違うよ。ドタチン、最近彼女が出来たんだ」 参考書やノートの散らばったローテーブルに身を乗り出して、臨也はきっぱりと言い放つ。 ほう、新羅は意外そうに眼を丸くしてシャーペンを滑らせる手を止めた。 「驚天動地! 意外だね。やることやってたんだ」 「ドタチンはモテるよー」 「でも長続きしないんだろ?」 新羅の一言に、今度は臨也が意外そうに眼を丸くした。 「どうして?」 「君が邪魔をするから」 む、と口ごもった臨也に、新羅は声をあげて笑う。 「君は本当に門田君がお気に入りだねえ。全く、酷いファザコンなんだからさ。新しいママが気に入らないのは判るけど、パパの幸せもちゃんと考えてあげなさい」 「ファザコンってなんだよ」 臨也はむ、と頬を膨らませてペットボトルを手に取った。ぷし、と軽い音を立てて炭酸が抜けていく。 こくん、と臨也の喉が動き、温くなり始めて気の抜けたサイダーを嚥下した。 「臨也はさ、きっと疑似家族を求めてるんだよ。僕達に」 新羅は問題を解く手を一旦止め、シャーペンを机に置いた。そして両手を開いたり、閉じたりしながら、その様子を眺めている。 臨也もしばらくその様子をじっと眺めていたが、やがて飽きたのかごろりと新羅の膝に頭を乗せて仰向けに横たわった。 「ねえ新羅」 臨也は細い腕を伸ばし、そっと体温の低い手で新羅の眼鏡に触れる。 「なんだい?」 新羅は触れてきた臨也の手を握り、眼鏡から引き離すと、空いた方の手で臨也の頭を撫でた。 臨也はその緩慢な動きに、猫のように目を細めて腕の本的に新羅の手が好きなので何も言わない。 「ねぇ新羅、」 眠たそうに目を細めながら臨也は口を開いた。 「ん?」 「子供が欲しい」 「静雄君の?」 とろとろととろけたような口調で話す臨也の髪を撫でつつ、新羅も首を傾げる。 「なんでわかったの?」 それに臨也は吃驚したように身動ぐ。 「わかるよ。そうでなくてもわかりやすい君のことならね。でもいくら静雄君でもそれは難しいんじゃないかなぁ」 → |