あれから1ヶ月がたった。
情報屋・折原臨也は困惑していた。
(…………見つからない!!)
とある筋では世界的に有名な情報屋の全力を持ってしてもあのウサギの置物が見つからない。
物が見つからないだけならばまだいい。
置物の消息がそのまま途絶えているとは一体どういうことだろうか。
臨也は回転椅子の上に体育座りをしながらガリガリと爪を噛んだ。
もしあれが静雄の手に渡ったらと思うと、おちおち眠ってもいられない。そのお陰でこの1ヶ月酷い寝不足である。
「うー」
目の下に隈を作りながら臨也は唸る。
どうしよう、どうしようどうしようどうしようどうしよう……

ぐるぐる悶々とチャットを巡り、考えに考えた末にある人物に辿り着いた。
素早くお気に入りに登録されたあるアドレスにアクセスする。

――折原臨也復活!!


九十九屋真一【おや?】
九十九屋真一【珍しいな折原。探し物か?】
折原臨也【相変わらずストーキング癖は治らないのか。その内通報されろ】

次々と表示される文字に臨也は露骨に嫌な顔をしてキーを打った。

折原臨也【ウサギのおきm】
九十九屋真一【残念ながらそれなら遅かったな】
折原臨也【どこにあった!?】
九十九屋真一【残念ながら最初から敵の手中ってことだよ】
折原臨也【?】
九十九屋真一【まぁ確認してみろ】

臨也の書き込みより早く表示された言葉に、臨也は愕然とした。
「う、嘘だろぉ……?」
肩の力が抜けてしまい、目には思わず涙が滲む。
その瞬間、文字列が画面にパッと表示される。

九十九屋真一【結婚おめでとう。平和島臨也君】
九十九屋真一【引き出物に写真つきタオルはやめろよ】

―――折原臨也死亡!!


プツンとパソコンの電源を落とし、臨也はぱったりと緊張の糸を切ったかのように机に倒れた。
「最悪だぁぁぁぁぁぁ」
情けなく口から漏れた言葉が頭中を反芻している。
「あーっ!やだやだやだやだ!いーやーだー」
ばたばたと手足をばたつかせ、どうにかこうにか逃れる術を思案した。
「あ!」
そうか、海外に高跳びしてしまえばいいのだ!
そうとなったら今すぐ飛行機を手配して、イタリアならば匿ってくれる知り合いがいるから一番早い便で高跳びしてしまおうと部屋を飛び出した。
「なーみーえー!俺高跳びするからチケット手配してー波江ー……あれ?」
ボストンバックにパスポートと通帳と首を突っ込み、先ほどから空気と化していた秘書を呼ぶ。
「波江さーん、波江ー」
キョロキョロと辺りを見渡すがそれらしき姿は見当たらない。
不思議に思って波江のデスクを見ると何やら書き置きが残っている。


――誠二と約束があるから帰る


言いたいことは山ほどあるのだが、今それを気にしても仕方がない。
荷物を抱え、臨也はとりあえず帰ってくるかわからない自宅を後にした。




――――成田空港

イタリア行きの便にまんまと乗り込んだ臨也は1人にやにやとほくそ笑みながら窓から空港を見下ろしていた。
(けけけ、シズちゃんのぶわぁーかっ俺がそう簡単に捕まるかっての)
さて、不安材料も取り除かれたし一眠りでもしよう……と、臨也はアイマスクを装着してブランケットに包まる。
「…すみません」
同時に、おずおずと遠慮がちな声に呼ばれブランケットから微かに顔を出す。
「隣かな? どーぞぉー」
隣を促すように右手を出し、隣の席を指差す。
「どーもぉー」

瞬間、
ガッチリとその手を掴まれる。

「!?」

慌てて空いた手でアイマスクを外すと、逆行で照らされた金色毛虫の姿があった。
(いやこれは金色毛虫じゃない!)

「いーざーやーくーんーよぉぉ」
「ヒッ」

目が合った瞬間ニヤリ、と不敵かつ凶悪に笑っ大魔人と見覚えのある目付きの悪いウサギの置物の姿に、臨也は戦いた。
瞬時に逃げようと身体を捩るが、その抵抗も虚しく重い右ストレートが臨也の腹を直撃し、臨也の意識はそこで途切れた。




つづく!!