それはある日、門田京平の家に届けられた一通の手紙から始まった話である。 「゛入籍しました。平和島……臨也″?」 ハガキにプリントされていたのは高校時代の同級生である仏頂面の情報屋と、並んで立っている何故か真顔の自動喧嘩人形の姿。 「………………?」 確かに二人とも面識はある。だから結婚報告の葉書がきてもなんら不思議ではない。 いやだがしかし、門田の記憶の中では二人とも男だった筈だ。 「……どうやって結婚したんだ……?」 門田の疑問は誰にも聞かれることなく儚く消えた。 ゛どうやって結婚したんだ(゜゜;)\(--;) とかwww そこには決してつっこむな(^□^)″ 手紙の最後にはおまけのように前述の言葉が添えられている。 だがしかし、性別云々の話はともかく、あの二人がくっつくことによって池袋に平和が訪れるのならば、これ以上めでたい事はないだろう。 門田は首を傾げながらもとりあえず携帯電話を手に取った。 ++++++ ――――来良総合病院 「なんでなんでなんでなんでなんでっ!?」 来良総合病院の一室で、ヒステリックに叫ぶのは情報屋の折原臨也である。 「なんっ、で、俺、が!!シズちゃんと……ッ!!げほげほ」 新婚家庭だと言うのに既に満身創痍の状態でベッドに横たわる臨也は、興奮のあまり激しく咳き込みながら訴えた。 「やだ……ッ!!俺婚約破棄したい!!新羅やだ助けてよ!」 その友人である岸谷新羅は、暴れ回る臨也と、とてつもなく目付きの悪いウサギの置物を交互に冷めた目で見やり、情けなく首を横に振る。 「無理に決まってるだろ?いいじゃないか、幸せになりなよ臨也」 「無理!!ぜっっっっったい無理だから!!」 「いやさ、それ以前に結婚してわずか数日で、肋骨4本に両足大腿骨の圧迫骨折に更に肩、股関節脱臼とか何したの?」 呆れ半分、好奇半分といった様子で尋ねてくる新羅に、臨也はぐっと言葉を飲み込む。 「いやぶっちゃけ、このまま俺、童貞シズちゃんに付き合ってたら殺されちゃう気がするんだよね……物理的に」 「へぇー静雄って童貞だったんだね」 全く的外れな回答をしてくる新羅に、軽い殺意を覚えながら臨也は時計を見る。 午後5時29分。……そろそろ奴が来る時間である。 デジタル時計がきっかり30分を告げたのと同時にガラリ、と開けられた病室の扉。 臨也ははぁ……と大きな溜め息をついた。 「……お帰り、シズちゃん」 「おぅ」 若干頬を赤らめ、茶色の紙袋を片手で抱えた金髪でイケメンな池袋の自動喧嘩人形の姿がそこにはあった。 静雄はいつものように病室の隅にある椅子を引き寄せ、ベットの傍らにドカリと座る。 「今日はずいぶん早いね」 臨也がげっそりと静雄に尋ねると、静雄は頬を赤らめて答える。 「いや……トムさんが新婚は早く帰んなきゃなんねぇとか言ってくれてよ」 「なにそれさむっ!!」 その言葉に臨也は、自分の両腕を抱えるようにして震え上がった。 新羅はその様子を見て、やれやれと肩を竦めると、立ち上がって荷物をまとめ始めた。 「なぁんだ。意外と仲良しじゃないか。心配して損したよ」 「えっ」 そしてにっこりと笑い、臨也の頭を片手でぽむぽむと叩く。 「せっかくの夫婦水入らずに水を注しちゃいけないね。……私は帰るよ」 「えっやだ、帰んないでよ。まだ面会時間あるしさ。ていうか夫婦水入らずとか新羅殺す」 「病院の面会時間はあっても、早くしないと私とセルティの面会時間が迫っているからね」 新羅は気障ったらしく言うと「セェールティーィィィィ!!!」と叫びながら白衣を翻して病室を去っていった。 その瞬間、病室にさぁっと静けさの波が訪れる。 「どうでもいいけどよ……」 その後ろ姿を眺めながら沈黙していた静雄が不意に呟いた。 「?」 「あいつ、あの格好でよく院内に入れたな……」 二人取り残された病室で、ポツリと静雄が言った言葉に、臨也は心の底から肯定した。 この男はあの化け物じみた怪力と、異様なまでのキレやすさがなければ意外にもかなりの常識人である。 (だからってぜっっっっったい化け物なんかにほだされるもんか!) 臨也がそう悶々としていると、静雄は、おもむろに紙袋からリンゴを取り出して剥き始めると、かわいらしいうさちゃんリンゴにして皿に並べた。 これは臨也が静雄と籍をいれた後に知ったのだが、静雄の中でリンゴは必ずうさちゃんにしないとならないという自分ルールがあるらしい。しかもそれは平和島家では常識なのだという。 (カワイイ……!とか思ってないんだから!) 大きな骨ばった手でしょりしょりと器用にリンゴを剥く姿にキュン、としたのはたぶん何かの間違いである。 「ん」 出来たリンゴを静雄が臨也の口元に差し出す。 半ば条件反射と化したあーんで臨也は溜め息を吐きながらもリンゴにかじりつき、目付きの悪いウサギの置物を睨み付ける。 (こいつさえ無ければ……!) そして心の底から2ヶ月前の自分を呪った。 つづく!! |