やばいと思ったが性欲を抑えられなかった | ナノ

☆匿名様、梨紅様のリクエスト
トム臨R‐18
トムイザでお互いの匂いを嗅ぎあいっこをして、最終的にトムさんがかっこよくてふにゃふにゃになる臨也

※ネドヴェド……ネドヴェドとは、主に女性の内股から流れるネドヴェドした液体、もしくは「自然が生み出したマイナスイオン天然水」である。または、それを発生させるヴェッド(ベッド)の事である。詳しい背景は「ハス/キー&/メドレー」を参照のこと。[出典:○コ○コ大百科(仮)より]






背後から腰周りにどふっと大型の何かの突進を受け、田中トムはたたらを踏んで振り向いた。上体をひねって見てみると、肩ごしに、見覚えのある丸い黒髪の頭頂部が揺れる。トムはそれを認識すると、条件反射のように辺りを見回してから、辺りに自分の後輩である長身の男がいない事を確認した。そしてその彼の姿がない事にほっと胸をなで下ろすと、腰に『それ』をぶら下げたまま、蟹の様な伝い歩きで人影少ない露地裏に移動した。
とにかく彼に見つかったら面倒くさい事になる。トムは『それ』を壁に押し付けるような形で背後に隠すと、もぐもぐとくぐもった文句を言いだしたそれを包むために身体を反転させた。
「……なんだなんだ、どうした。寂しくなっちゃったかー?」
ぎゅ、と細腰を抱きしめるために向い合わせになると、大した身長差がない為その端正な顔が眼前に迫る。可愛い可愛い秘密の恋人が、まさか自分の後輩の天敵で極悪非道の折原臨也だとは誰も思うまい。トムは目を伏せている臨也の顔を見つめながらほくそ笑む。
顔を上げない臨也を不思議に思いながらも、恋人には滅法弱いトムはデレデレと表情を緩ませながら、抱き込んだ腰回りを撫でまわした。鼻腔を甘いソープの香りが擽る。恐らく家を出る前にシャワーでも浴びてきたのだろうと推測すると、トムの中の雄が堪らなくなる。内心を言ってしまえば、今食事を買いに離れている後輩達なんて放って、このまま壁づたいに歩いて行った数メートル先にあるホテルに連れこんでしまいたい。
そんな欲望と戦っていると、不意に臨也が顔を上げた。形の良い唇がにこっと、童話に出てくるチェシャ猫のように歪んでいる。
そんな悪戯っ子みたいな顔も可愛いぜ、と、言えなくもないが、この表情をしている時の臨也がどうしようもないのをトムは充分理解していた。また悪さでもして来たのか……と呆れ半分怒り半分デレ少々で開こうとした唇を奪われる。
「おーい、お前もしかして、酔ってる……?」
触れ合った咥内で微かなアルコールを感じ取り、首を傾げる。暗くてよく見えなかったが、見ると、ほんのり朱に染まった頬が艶めかしい。
「……よってない……。トムさんのにおいかぎにきた……」
すん、すん、と肩口の匂いを嗅がれ、忘れかけていた雄が再び鎌首をもたげ始めた。いやいや、流石にこんな所で昼間から青姦はまずいだろうと頭を振って邪念を振り払おうとするが、細い指がさっそくトムの中心をズボン越しに弄り始めているので気が散って仕方が無い。
「トムさんのにおいねえ……すきだなぁ……」
蕩けた物言いに推論が確証に変わる。
昼間も昼間、往来ではないにしろ街中で、何故に臨也は酔っぱらっているのか。謎は残るが仕方あるまい。据え膳食わぬは男の恥。悪戯に股間を刺激してくるおイタな子猫ちゃんに愛あるお仕置きタイムでもせねば。
「こら、」
トムが奇妙な使命感に萌え……もとい、燃えているのを知ってか知らずか、臨也は甘えるように擦り寄ってトムの首筋に顔を埋める。
「……ん、もっと、」
アレの時のような濡れた声に理性の糸が千切れる音がした。事に、トムは理性に関しては人並み外れて強固なものを持っていると自負している。それでなければ、あのような紙で作ったこよりのように脆弱な理性しか持ち合わせていない喧嘩人形の保護者など出来まい。
柔らかい唇が耳の後ろに押し当てられ、ちゅっと軽いリップ音が響いた。
「とむさん、とむさん、ね、もっと、もっとぎゅってしてってばぁ……トムさんのにおいもっとかぎたいなぁ……」
ぺろりと首筋を這う湿った感触に背筋がざわつく。残り僅かな理性で周囲に意識を向けると、目立たない看板に記された『ご休憩』の文字が目に入った。隠された入口までほんの数メートル。明るい日の下でいちゃいちゃと絡みついてくる臨也を抱えてしけこみたい。据え膳食わぬは……トムの脳裏にそのような言葉が浮かんだが、ここで一つの問題にぶち当たる。
どちらかと言えば頭脳労働派であるトムは、決して力が強い方ではなかった。自分は果たして一七五センチ、体重五八キロの臨也を抱える事ができるのか。しかし、ここで諦めたら男の沽券に関わる。臨也の細腰を抱きかかえ、向かう先は『ご休憩』一択だ。身長差がほぼないため、抱き上げるのは難しいだろうと踏んでいたが、思ったよりも軽い身体は大人しくトムの腕の中に収まっている。……というよりも、トムの匂いを嗅ぐのに夢中になりすぎている、と言った方が正しい。半日歩き回って汗の匂いもするだろうが、当の臨也は全く気にする事なく首に腕を回して、くんくんと鼻を埋めている。


「ほれ臨也」
部屋に着き、臨也をしがみつかせたまま優しくベッドに導く。思考が鈍っているのかとろんとした顔でこちらを見ている姿が、ただでさえ童顔なのに、それをより一層幼く見せていて背徳的だった。
ごくりと生唾を飲み込み、身体を寄せる。すると、いとも簡単に臨也の体はベッドに倒れた。そのまま覆いかぶさるようにベッドに雪崩込み、首筋にすん、と鼻を近づけると、ソープと臨也の体臭が混ざった甘い香りが先ほどよりも少しだけ濃く感じられた。
首筋に顔を埋めながら、臨也のトレードマークであるファー付きの黒いコートを脱がせると、臨也が熱っぽい呼気を吐き出した。艶めかしく唸りながら、いやらしく肌に触れるトムの手から逃れるべく上体をくねらせる様が扇情的で、思わずゴクリと生唾を飲み込む。
臨也の熱が上がれば上がるほど、臨也の発する艶然とした空気が濃さを増して行き、心臓と、股間の中心部がずきずきと痛む。
「……ん、んん、ぃぁ、とむさ……」
耳元に掛かる微かなアルコール臭と、猫の子が哭くような甘えた声。薄いカットソーを捲り上げると、露わになった薄い腹と、連日連夜自分が弄りまくっているせいで、何もしなくとも既にチェリーピンクに熟れた乳首が目に入った。その匂いたつような甘さに堪えきれず、ぬろりとたっぷりの唾液を擦りつけるように舐めると、背を弓なりにしならせて臨也は喘ぐ。
「ひ、ん、あぁ……っ、は、とむさ……」
「ん、臨也、いーい匂いだなあ……お前」
舌先で桜桃を転がしながら、揶揄うように言ってやると臨也は泣きそうな顔でトム見た。
頬を赤く火照らせ、目尻に溢れんばかりの涙を湛えた姿は、この世の天使かと見紛うほどである。路地裏での仕返しと言わんばかりに可愛い、可愛い、と唱えながら首筋やら脇やらに鼻を埋めていると、臨也が発情している匂いがして、まるで脳髄がピンク色になってしまったかのようにえらく興奮した。
「やだ、やだ、とむさん、えっち、やだぁ……」
「なんだ、臨也はトムさんとえっちしたくねえって?」
「ちが、ちがう……ん、や、そ、じゃなくてぇ……ぁ、ぅ」
「いつも乳首こんなにしてるから恥ずかしい?」
「や、ちが、ちが、だめ、んん、ふぁぁ、ん」
悪戯にちゅっと強く吸ってやると、臨也の腰が反射的に跳ね上がる。その度に振りまかれるフェロモンピンクの洪水に飲まれそうだった。
ここはやはり頑張って臨也をホテルに連行した甲斐があったとほくそ笑む。そんなトムの頭からは「勤務中」の三文字はとうに消え去っていた。そんな事より優先すべきは雄の本能。男は下半身で生きているのだ。顔を真っ赤にしてアンアン喘いでいる恋人を前にして、中途半端では帰れない。
すっかり唾液まみれにした乳首は赤みを増して、ぴくぴくと震えている。元は綺麗なベビーピンクだったのになあ、と囁くと、臨也が恥ずかしそうに顔を背けた。毎日弄るものだから、日に日に赤みが増していき、今では何もせずともいやらしい桜桃色になった。その事について責任は感じているが後悔は全くしていない。
顔を隠そうとする腕を持ち上げ、たくし上げたカットソーを完全に剥ぐと、アルコールと羞恥でほんのり染まった身体がくねる。こりゃたまらんと抱きつくと、テントを張った臨也の股間が腹に当たった。
「勃っちゃったんだ?」
先ほど臨也がしたように、ズボン越しの先端を指先でなぞるように動かすと、臨也はいやいやと首を振った。先をせがむように腰をあげるので、わざと勿体ぶってゆっくりとズボンを脱がしてやる。
「んぅ、んん、やだぁ……な、んで……ぇ……?」
「んー、臨也がかわいいから」
「ひゃ」
ついでに、形よく窪んだ臍をぬるぬると舐めてみると、臨也の尻がびくんと飛び上がる。こんなに感度が良くて、日常生活に支障はないのだろうかと思わなくもないが、こうしたのは全てトム自身による、毎夜に及ぶ愛の営みのせいなのだから笑いが止まらない。付き合い始めて二週間、それから毎日毎日飽きもせず何度も何度も突き上げて果ててぐちゃぐちゃになって眠りにつく日々は幸せそのものだ。精力維持のための黒酢と卵黄の健康食品も毎日欠かさず飲んでいる。おかげで元気ハツラツ、後輩には「トムさん、最近元気っすね」とまで言われた。機嫌が良すぎて思わず、お前の幼馴染はいい具合だよとうっかり口を滑らせそうになったほどだ。
耳の後ろも綺麗に舐めながら臨也の匂いを隅から隅まで嗅ぐ。それだけで射精しそうになるのをぐっと堪えて、トムの下で小さく縮こまろうとする身体を愛撫した。
「とむさん、とむさ、も、だめ、ほしい、がまんできない、んっ」
トムが開くまでもなく、自らかぱりと足を広げた臨也は、ぐすぐすと涙交じりに訴える。そして男にしては白魚のようになよやかな手で、自分の性器を持ち上げ、とろとろと先走りを零すそれを擦り上げた。
「ひゃぁ、あう、ぁひ」
左手は口元に当て、もどかしい悲鳴を堪えるように唇を弄んでいるが、もう右手ではゆっくりとぎこちなく手を上下にスライドさせ、時折、親指と人差し指亀頭を揉むように愛撫している。とろとろのカウパーがにじみ出る尿道も、自分の人差し指でぐりぐりと苛めはじめる姿は淫蕩で、臨也の隠しきれないMっ気を曝け出していた。
「やべぇわ……お前ホント、マジで可愛い」
ひくひくと息づく後孔付近も、ほんのりと桃色に染まっていて、その淫靡さに思わずトムは生唾を飲み込む。いつも後輩達に見せているような生意気さは影を潜め、年より幼く見える整った童顔を彩る紅い眼は淫欲にどろりと溶けている。そのギャップが何とも言えない背徳感を醸し出していて堪らない。上半身で臨也の身体を抑えながら、目一杯手を伸ばして備え付けのローションのパックを手に取った。ちゅっ、ちゅっと音を立てて、臨也の見た目より柔らかい頬や額に口付ける。おぼつかない手つきでローションを片手にぶちまけると、人差し指と中指を合わせて、微かに開閉を繰り返すそこへ宛がった。
「う、ぅぅぅ、んん」
ぬるりと難なく入ったそこは、熱く柔らかくトムの指を締め付けている。掻き混ぜるようにぐるりと回せば、臨也が悲鳴を上げた。二週間苛め続けたしこりも、指の腹で押しては和らげ、和らげては揉み込むといった動作で探ってやると、狭いそこを更に狭くして快感を逃がすように左右に首を振った。性器を弄る手は止めず、空いた方の手では、血の気がなくなりって白くなる程シーツを握っている。それでも許さず孔を広げるように指を動かしていると、唐突に臨也の背がびくびくとしなり、硬直したあと弛緩した。臨也が達したのだという事は、薄い腹に飛び散った肌よりも白い粘液の飛沫と速い呼吸で理解した。
全身の筋肉が弛緩した事で、後孔が急に緩まる。そして、動くだけでも大変だったそこが自由自在にぐちゃぐちゃと撹拌できるようになったところで、そろそろ頃合いだと指を引き抜いた。
くぱ、と口を開けて待っているそこは、まるで最初からトムの雄を飲み込むためだけに生まれてきたようだ。早く早くと焦る気持ちを落ち着けて、出来るだけの冷静さを装ってベルトを寛げた。口元は笑みの形を作っているが、目元は笑えていない。この淫乱な身体を一刻も早く味わいたいばかりに暴走しそうな理性に、落ち着け落ち着けと念じるあまり、額に汗が一筋伝った。
「はぁ、……は、ふっ……」
漸く呼吸が整い始めた臨也が、潤んだ瞳でトムを見上げた。額に張付いた黒髪を払いのけ、露わになった額に再び口付ける。唇を離した直後、ぼんやりとした瞳がトムの煤竹色の瞳とぶつかり、その数秒後に臨也はへにゃりと笑みを浮かべた。トムの顔を身近に認識して安心したのか、へにゃへにゃと笑みを浮かべながら首を伸ばしてトムの首筋に顔を埋める。そして、匂いを嗅ぐように鼻を寄せる為の吐息が肌に当たった。その瞬間、トムの中では箍が外れる音がした。
汗で滑る手で下着をずらすと、バキバキに勃起しきった性器が勢いよく飛び出してくる。その姿はまるで性欲旺盛な十代の少年のようで年甲斐もないと思えなくもないが、恋人のこの痴態を前に、こうならない方が男としてどうかしていると思った。手早くゴムを装着すると、張り裂けんばかりに育ったペニスが早く入れたいと叫んでいるようだった。本当はこのまま生で思う存分貪りつくしたいところだがセーフティセックスは愛する恋人の為でもある。そこは大人の余裕を発揮して、臨也の膝裏を担ぎ上げ僅かに腰を浮かせると、赤みがかった蕾がぴくぴくとトムの来訪を待っていた。
腰をずらし、ぴとりと亀頭をそこに宛がう。ぴくんと揺れた身体に愛しさが募り、臨也の頬にキスを落とした。小刻みに揺らしながら徐々に体重を落としていくと、臨也の胎内に赤黒くグロテスクなそれが、ず、ず、ず、と飲み込まれていった。速くなる呼吸、臨也が大きく口を開けて喘いでいた。その唇を衝動のままに貪りたいと思ったが、受け身の臨也にとってこの体勢や状態はさぞかし苦しかろう。そう思うと出来なかった。顔や頭に口付けながら根元まで埋め込む。
柔らかいけれど、触れ合っていないところなど隙間もないと言わんばかりに雄をぴっちりと締め付ける心地よい感覚は、得も言われぬ幸福感を生み出した。奥まで埋め込んでから一旦一息吐き、そしてゆっくりと引き抜く。
「ひぁ、ぁあ、あっ、あー……っ」
これ以上は抜け落ちてしまうという寸でのところで止め、カリを引っ掛けた状態で静止し、臨也の顔を見る。紅潮した頬と喘ぐ吐息、堪らない、といった表情に、股間がより硬くなる。そして、静かに静かに、トムの陰毛が臨也の尻に押し付けられるほど腰を奥までしっかり埋め、内壁を擦るよう小刻みに揺らす。すると、そのリズムに合わせて開きっぱなしの口から、あん、あん、と小さな声を漏らした。ぐっと腰をグラインドさせた後、唐突に強く奥まで突くと、内部がふるふると痙攣してペニスを締め付けた。
「なあ、きもちいいか?きもちいい?」
ぎゅっぎゅっと小刻みに締め付ける肉壁の強さに、臨也が感じ入っていることが分かり、トムはにやりと意地悪く笑む。それから、敏感な耳介にわざと湿った息を吹きかけるようにして尋ねた。耳孔に湿った熱い吐息が吹きかけられたことに驚いたのか、臨也は子猫のような鳴き声を上げてかぶりを振った。そこをすかさずペニスで突いてやり、もっと鳴き声を上げさせるようにより責め立てる。
「やっやっ、ぁぅ、はぁ、ん、ぁあ……あん……っ!きもち、……っきもちいい……っ!」
前立腺を執拗に責め立てられ、臨也は感極まったように気持ちいいと叫ぶ。そして自分の性器を弄って遊んでいた右手を退かせ、両腕を首に回させると、上半身同士を密着させるように臨也が抱きついてきた。足を絡ませ、更に深く繋がろうとせんばかりに、ぎゅっと腰を固定する。
「あん、ぁっ、ん、ひぁぁっ、とむさ、とむさぁん……っ」
グラインドしながら臨也の最深部を目指して穿つ。きゅうきゅうと締まる恥肉が、トムの一部を離すまいと必死に食んでいるようで愛おしい。粘着音と肌同士が触れ合うパンパンという音。臨也のストイックな外見からは想像できないほど下品で卑猥で可愛らしい。
「にゃぁっあん、ひあっ、くぅぅぅん、ふ、ゃ……あっ……!」
奥で熱が弾け、ゴムの中にどぷどぷと白濁が注がれる。放出した温度が冷めるまで、臨也の身体に乗っかったまま、トムは息を吐いた。「良かった……」と呟いてしまうほどの充実感に、口元が歪む。
暫くしてゆっくりと身体を起こし、蕾に埋まったままの萎んだ陰茎をずるりと抜くと、ゴムの口を固く縛って備え付けのゴミ箱に放り込んだ。それから、放心している臨也を見下ろしてみると、トムが中で暴れている間に随分と果てていたらしい。腹回りをどろどろに汚し、虚ろな目が空を彷徨っていた。
涙と汗と涎でべとべとに汚れてもなお美しさの衰えない顔に唇を当てると、事後の余韻で敏感になった身体がぴくぴくと跳ねた。そんな霰もない痴態に、再び雄がムクムクと首を擡げてくる。しかし、ぐったりと横たわる姿は疲れ切っているようにも見えた。擡げ始めた欲望は、とりあえず夜まで取っておこうと腹の奥にしまい込み、トムは臨也の額にキスをした。


結局流されるままにセックスしてしまったが、何故臨也が昼間から酒を飲み、トムの元に襲来したのかは謎のままである。理由を訊こうにも、シーツの海に身を沈めた臨也は、既にすやすやと規則正しい寝息を立てていて出来なさそうだった。汗でぺたりとしているものの、さらさらの黒髪を撫でていると、身に余るほどの幸福感に笑みが浮かぶ。後輩には悪いが、トムにとって臨也は世界で一番可愛い恋人以外の何者でもないのだ。いくらトムの面倒見が良かろうと、殴られるのがわかっていて天敵同士引き合わせられるほどお人よしではない。
「まあ俺はどっちの味方も全面的にはしてやれないけどな……っと」
子供のような邪気のない寝顔を見つめながら、呟く。このまま飼い殺してやりたいが、気ままな猫は飼い猫になっても気ままだろうなと諦める。
トムはしぶしぶベットから降りると、脱ぎ散らかした下着を穿き、眠ってしまった臨也の身体を拭き清めるためにバスルームに向かった。皺くちゃになってしまったスーツを一瞥し、置き去りにされた後輩たちが今頃自分を必死に探しているのだろうと思う。
絞ったタオルで白い肌を拭いてから、綺麗なシーツに臨也を寝かせてやった。それから臨也の服を拾い集め、綺麗に畳んで椅子に置く。その上にメモの走り書きを乗せ、部屋を出た。ああ見えて寂しがり屋な情報屋のことだ。一人で置いて帰ることに罪悪感がないわけではない。本音を言えばラブホテルのフリータイム終了ギリギリまでべたべたいちゃいちゃネドヴェドしたい。……が。
射精して熱から冷めた脳がそろそろ現実的な警告を発している。不在着信のランプをチカチカと点灯させる携帯電話が目に入り、嘆息が漏れた。時刻を見るのが怖い。
賢者になった頭に冷水のシャワーを浴びたトムは、平和に眠る恋人を置いて、狼狽える喧嘩人形の元へ喧騒の町に戻るのであった。





トムが部屋を出てから数時間後、臨也は頭痛と全身の鈍痛を感じながら、むくりと起き上がった。
平日の昼間から共に燃え上がった恋人は既にいない。くん、と辺りの空気を吸い込むと、微かに残る濃密な精の香りと、トムの香水の残り香がした気がした。それと同時に、自分の息や身体からアルコールの香りが漂う。
(えーと、あれから俺、どうしたんだっけか……)
臨也は記憶の糸を手繰り寄せるよう、首を傾げた。
(ああそうだった)
そして今朝の記憶にたどり着き、ぽんと拳を手のひらの上で叩く。

朝、取引した相手にアルコール入りの薬物を飲まされて、命からがら逃げてきてのはいい。裏社会に成通した人物が、まさか粟楠の赤鬼のシマで非合法の薬物を使うとは思っていなかったのだ。可能性として、取引相手自身が、合法ハーブくらいはやっているかもしれない、という予測を全くしていなかったわけではないが、それを自分に使うことは予想していなかった。
そもそも、相手が知って得するような情報を自分は持っていないし、妙な因縁も買ってなかった筈である。
そう考えていた時点で、臨也はかなりの油断をしていた。その上、連日連夜、意外にも精力絶倫な恋人とのセックス三昧で少々気が抜けていたのかもしれない。
一瞬、よそ見をしていた間に羽交い絞めにされ、口の中にはアルコールで溶かした薬物を流し込まれた。
気づいた瞬間、咄嗟に吐き出し、用意しておいた逃走ルートを用いて池袋の繁華街まで逃げたものの、到着した頃には全身が怠くて怠くて仕方がなくなっていた。
薬物のせいかアルコールのせいかは分からないが、視界、嗅覚、触覚、聴覚といった五感が全て敏感になってしまっていて歩くのもままならない。街中に染み渡る匂いも音も、不快で堪らず、漸く見知った人間を見つけた時には思わず体当たりするように抱きついてしまったのである。
それがちょうど静雄不在時のトムだったことは偶然なのか必然なのか。愛する相手の匂いに包まれて、安心したのと同時に昨夜の熱が燻って、ああ朝ちゃんとシャワー浴びて色々綺麗にしておいてよかったなあと心底思ったことを思い出す。
本当は取引が終わったら静雄を罠に嵌めて、厄介払いができたところでトムに会いに行こうと考えていたのだが、それが少々早まっただけだ。
気がついたら一発ヤっていて、目が覚めたらこのような状況である。
仕事の邪魔をしてしまったことには罪悪感を覚えるが、ぐっすり眠ったぶん薬も抜けていて、頭は比較的すっきりしていた。元々そこまで強い薬ではなかったのかもしれない。
(それにしても、なんで薬なんて盛られたんだろう)
もう一度頭の中を整理してみるが、それでもやはり、彼に有益な情報は一切持っていない。
記憶力は秀でている方だし、事前に下調べもした筈なので、その辺りにぬかりはないはずだった。
「うーん……?」
首を傾げ、唸ってみるが、思いつく可能性は見当たらなかった。
他人に薬物を強制摂取させる趣味でもあったのだろうか……と、若干的外れな検討もしてみるが、そのような面白い趣味を持つ人間が周りにいて、臨也が放っておくわけがない。
結局、取引相手の真意はわからぬまま、臨也はベッドから立ち上がった。その弾みで、後孔の淵付近がぴりりと痛む。それが、恋人との情交の証であることを再認識し、自分の下腹部がずむ、と熱くなるような気がして微笑んだ。
(トムさんてばほんと、見かけによらないよね)
腹を撫で、また今夜、この先をトムが触れるのだと考えながら、上機嫌で臨也はバスルームに向かったのだった。