※軽く病み静雄、電波、クスコ、フィスト、和姦



「シズちゃん、それなぁに」
臨也は、静雄の手に握られた見慣れぬそれを指差して訊ねた。ペンチのようなグリップの先が、鳥の長いくちばしのようになっている。
シャワーを浴びたばかりの静雄は髪や身体から湯気をたてながら、指されたそれを見た。そして少し考える素振りを見せ、臨也の傍らに手を着く。
何も言わないまま唇を合わせ、歯列をなぞり、互いの唾液を交換するように舌を絡めた。臨也はそれを受容するよう、静雄の背に手を伸ばし抱き締める。
暫くそんな事を続けていただろうか。漸く唇を離した時には、血色の悪い二人の唇が充血して濡れた赤色に染まっていた。
臨也も静雄も互いの合意の上で、何度もこのような行為を重ねてきたが、そこにはよくある恋物語というものは無かった。静雄も臨也も、求められるまま寝て、気が済むまで寄り添い合う。そんな関係が、もう4年、続いている。
ちゅ、ちゅ、と首筋をなぞり、前開きの臨也の服を削ぎ落とすように脱がし、ぺたぺたと薄い腹や小さな突起、窪んだ臍に触れた。静雄が足りないものを求めるように臨也の身体中を触り、臨也はそれに抵抗するそぶりもなく静雄の好きなようにさせている。
出会ったのは8年前だから、高校時代は全くそういう素振りもなかった筈だ。
静雄とこういった行為をする時だけ、臨也は静雄が行う全てを拒まない。静雄もまた、臨也の全てを暴くよう優しく触れる。
学舎を出て、臨也が変わったように静雄も色々あったのだろう。成り行きだった。
「ん、んん」
忍び込んだ存在に、臨也の腰が艶かしく揺れた。細く長く、節くれだったそれが臨也の内部をバラバラに動き回る。上気した頬に臨也は愛しげに口付けた。
静雄は臨也の両足を左右に広げ、ローションボトルを手にした。
そして静雄はベッドサイドから黒い布を引き出し、臨也の両目を覆うとベッドの端に臨也の両足を括り付け、両手首を一纏めに縛った。
「手前んなか、見てみたいと思った」
触りながら、たどたどしく言う静雄は「恥ずかしいから」と最後に付け加えた。抵抗はされたくないし見られるのは気恥ずかしいといったところだろうか。臨也は「いいよ」と頷いた。素直に頷く臨也に、静雄はほっと息を吐く。
たらりと垂らしたローションの滑りを借りて、鳥のくちばしの先端をひたりとそこに宛てる。「つめたい」と、臨也の脚がぴくりと震えた。
ぬるり、大した抵抗もなく根元まで滑り込んだそれを固定し、静雄は一旦手を止めた。「いざや」掠れて熱を帯びた声で臨也を呼び、唇で頬に触れる。見たい、見たい、中を、全部。熱っぽい息を吐く薄開きの唇が濡れていた。
くぱ、グリップをゆっくり握り締めていくと、粘液にまみれた鮮やかな桃色の恥肉が露呈される。開かれた事がわかったのか、動きに対応するようにひくりと内部が蠢いた。静雄はくちばしを開いたまま、グリップを固定し、よく見える位置に腰を落とす。
「見えた。くぱって、糸引いてる」
「……っ、そ……? 」
「きれいなピンク色してて、濡れてて、すげぇひくひくゆってる、やらしい」
「……ん、」
ボソボソと呟くような静雄の言葉に反応しているのか、臨也のそこがびくびくと震える。勃ちあがったものは既にカウパーをひっきりなしに垂らし、シーツを汚していた。
「触っていいか?」
静雄の問いに、臨也はこくこくと首を上下に振る。
ローションでべたべたになった温かい指先がぬるりと内部に侵入してくる。丸い爪と指の間が、少し膨らんだ性感帯をかりかりと引っ掻き、くぐもった吐息が漏れた。
「な、もっと、奥触りたい」
臨也は「うん」と、声にならない声で頷き、繋がれた足でシーツを蹴りながら顔を逸らす。
ぐち、と粘液が空気に触れる厭な音をたて、糸を引くそれを閉ざされた視界の中で感じながら、体温で温まった無機質なくちばしが臨也の身体の中から抜けていった。
臨也の呼吸に合わせてぱくぱくと開閉する穴を見て、静雄は熱に浮かされながらごくりと生唾を飲み込んだ。
「は、ぁぅ、ん」
ずぶり、ずぶり、と指が増やされる。穴の入り口の皺が全て伸びきり、臨也の丸まった爪先がベッドサイドの柱を蹴った。
銀色のくちばしは粘液の細い糸を紡ぎながら、ベッドの下にゴトン、と落とされた。早急に這わされた静雄の指は既に4本、根元まで臨也の中に飲み込まれている。
「すげ……ヌルヌル、狭い」
4本の指が狭い内部を解すようにバラバラに動かされ、臨也は両足を突っ張り、仰け反った。静雄はそんな臨也の更に内部、いつもの行為では届かない、まだ多分、誰も、恐らく臨也自身ですら触った事のないような地点を目指して手をすぼめ、力を込めた。
「ぃ……っ、ひ……あ、あ、……!」
どぷん、という擬音が正しく似合う具合に、それが入る。ひ、ひ、と臨也が過呼吸じみた妙な呼吸を繰り返している。力を込めすぎて白くなった爪先がガツン、と括られた布を蹴り、口を開けたまま喉を反らせた。
「……入った。せま、でもやわっけぇ」
「もっと奥、」と言われたので、臨也は頷く。
「い、よ……っ、も、んん、くるし、」
「臨也、壊れそう。でも手首まで入った。なか、結構広いな」
「ん、ん、ん、も、ちょっと……?」
「うん。いま真ん中辺まで入ってる。なか、ヌルヌルで熱い。臨也、ぎゅうぎゅうだな。苦しい?」
「ちょっと……。いりぐち、ひりひりして、さけちゃいそ……ぉ、なか、へん、し、ちゃ、が、さわって、る、の」
「うん、すげぇ。臨也の入り口、めっちゃ拡がって、俺の手食ってるみてぇ」
確かめるように内部にぺたぺたと触れ、静雄は更に深くまで触ろうと手を伸ばした。
静雄が手を動かすと、性感帯が擦れ、臨也の目の前がスパークしたように真っ白になる。
「おれ、おれのなか、ぁい、ひ、し、ちゃん、しずちゃ、しぃちゃん」
思わず腰を引こうとしてしまうが、足が繋がれているため、逃げられない。
「いざやのなか、やべぇ。いつも俺、ここに入ってんの。信じらんねぇ。穴、臨也、穴があいてる」
「し、ちゃん、しぅちゃ、ん」
余裕なく「シズちゃん」と繰り返す臨也に、静雄の中の理性らしきものが消えていく。壊れるかも、優しくしないと、と、頭の中にはあるのに行動が伴わない。
肘まで埋め込み、静雄は「穴があいてる」と、うわ言のように呟いていた。
臨也が首を振ったせいで取れかかった目隠しが首元に落ち、臨也の相貌を静雄の瞳が捉える。
ばちん、と、まるでその状態が元から決まっていたもののように噛み合い、静雄はゆっくりとそれを引き抜いた。段々細くなっていくそれに負担が減ったのか、臨也の身体が徐々に弛緩していく。粘膜に触れていた腕が外気に触れてひんやりと冷たい。
「んぅ……!」
手のひらが引き抜かれ、臨也が跳ねる。
それが完全に抜けた臨也のそこは、締まりきれずにひくひくと収縮を繰り返していた。薄い腹には白く濁った液体が飛び散っている。静雄の下着の中もいつの間にか放っていたらしい自身の精でぐちゃぐちゃになっていた。
静雄はそれを放心気味に眺めてから、臨也の上に覆い被さるように抱いた。
「穴、あいてんな。手前の、締まりきれなくてぱくぱくしてる。金魚みてぇ」
その肩口でストロークを味わいながら、縛られた手首をもぞもぞと動かした。「外して」と言うと、片手で外される。そして自由になった両手を静雄の背に回した。
「うん、あいてるよ。あのね、君にも」
「俺にも?」
「うん」
「同じか?」
「残念ながらね」
静雄は顔を上げて臨也を見た。
臨也は疲労で力が入らない身体を静雄に預けきり、眠そうに瞬きをしていた。そして「足も」と、足の指を動かしながら催促する。やっと解放された足で、だるそうに静雄と体勢を入れ換えた。静雄に臨也が覆い被さるようにしてしがみつく。
「俺もお前と同じ、穴、あいてんの」
まるで「信じられない」とでも言いたげな静雄に、臨也は頷いた。
「うん」
「うそじゃないよ」と付け加える。
それから静雄は、納得したように頷いた。
「……そか」
「うん」
同じなのか、そうか、臨也の耳にそんな静雄の一人言が落ちてくる。低い声が耳に心地好い。
「でも俺は、化けモンだよな」
ぽつりと呟かれた言葉に、臨也は身体を静雄に擦り寄せながら応えた。
「俺は人でなしだけどね」
シズちゃんは化け物だけど。
繰り返し言われ、静雄は目をしばたかせた。そして、ああこいつは人でなしだったと納得する。そして「同じ」だと納得する。
滑って温かい狭くて柔らかいあれは、正しく臨也で、自分にもこいつにもあんな優しげなものがあるのだと、大層驚いた。
「もっかいしたいの?」
思わず臨也を抱く手が強まると、臨也は目を開け、首を傾げる。静雄がこくりと頷くと、臨也は「いいよ」と足を開いた。
「次はちゃんとシズちゃんの、ね」
優しげに口付け、静雄と臨也は解け合うようにベッドに沈んだ。