私と不思議な妖精さん 第三話
 砂糖コーナーで私は現在、不審者の如くキョロキョロしている。
 なぜなら、棚に乗り移った妖精さんが氷砂糖とコーヒーシュガーをせっせと運ぼうとしているからだ!


【私と不思議な妖精さん 第三話】


 ……幸い午前十一時、この時間は人通りが少ない。プラス、通りすがりの主婦や職業不明な方々には見えていないようでホッとする。しかし、ぼーっとしてる暇はない。
「角砂糖じゃなくて、コレが欲しいの?」
 小声で話しかけた二人の目は無表情ながら、今までに無いほど輝いている。
 たしかに、氷砂糖もコーヒーシュガー(カラメルが入って琥珀がかった氷砂糖)も、角砂糖より綺麗だしついでにお高い。けど、コレの何にそんな惹かれるのだろう?
 試しにあえて無視して、角砂糖の袋を買い物かごに入れてみる。それを見ていたプリンは、案の定頬を膨らませた。リョウはというと、私の挙動なんて一切気にせず、一生懸命小さな体で棚からコーヒーシュガーを引っ張り出そうとしている。ほんとにこの子ったらおっとりさんね。
「わかったわかった」
 お小遣いそんなにないんだけど、砂糖が買えないほど切迫しているわけではない。周りに見えていないことをいいことに、コーヒーシュガーの袋をりょうごと持って、かごに入れる。続いて氷砂糖を入れようとしたら、ぱっと手を離したプリンが、げ、っとした。すると、プリンの身体をほのかな光が包んだ。
「えっど、どしたの?!」
 驚きながらも何とか声を絞って聞いてみると、プリンはため息をついた。光は蛍のように明滅を繰り返しながら、だんだんと強くなっていく。
 続いて私に二、三度手を振った後、なんと棚から何も無い空間にダイブした。
「うわわっ!」
 あわてて受け止めようとした私であるが、私の手にプリンがぶつかることはなかった。
 プリンは、何も無い空間に突如出現した……というか、プリンが飛び込んだ先にできた黒い穴に入った。腰のところで一度つっかえ、ふりふりとお尻を振って身体を押し込み、そしてキランとメルヘンな音を立てて消えてしまったのだ。
「……えっ」
 妖精さんの不思議な瞬間を見た気がして、感慨深いんだか不気味なんだかよくわからない気持ちになる。
「いなくなっちゃった.……って」
 がさごそと音がすると思ったら、買い物かごの中でリョウがコーヒーシュガーの袋を開けようと奮闘していた。
「こら、リョウっ、だめだってー!」
 どこの聞き分けの無い子供だよ!
 着物の銀帯をつまむと、もうすぐコーヒーシュガーが食べられると幸せ気分っぽかったリョウは、トートバッグに入れられるくらいになって、ワンテンポ遅れてガーンとした。
「家に帰るまでお砂糖は無し。わかった?」
 人差し指を立ててめっとすると、リョウはおっとり、しかし残念そうにこくりんとうなずいた。聞き分けはいいらしい。
 トートバッグのふちに腕をかけて、かごのなかの砂糖を見ているリョウは、心なしかうっとりしているようにみえる。なんだかんだで小さくて丸いモノには目が無い私は、周囲の目線なんて気にせずにやにやしっぱなしなのであった。


 一通りの買い物をすませ、レジに並んでいると、ふとガラケーのバイブが鳴った。開くとメールが一件、さっちゃんだ。
 件名も文面も無し。添付物も無し。でもメールを送ってくるということは。
 長年の付き合いで用件は分かっている。画面の時計を確認すると、十一時は三〇分であった。ちょうど講義が終わったタイミング。
「喫茶店だな」
 原稿あるんだけど、今日は昼食含めてのゆったりタイムを取ってしんぜようではないか。夜までやれば終わるに違いない。
「お会計三,二三〇円でございます〜」
 砂糖、何気に高い……と思いながら、幸せそうなリョウを見て、財布を嬉々として開ける自分がいることもたしかなのであった。



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あとがき

 今回は短めです。プリンもりょうも可愛いけど、かわいさうまく表現できているかしら……?


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