BASARA成り代わり短編 | ナノ
意地を張る意気地無し

猿飛佐助とは・・・真田幸村に仕え真田十勇士の一人とされている忍者。
だが、その存在は架空だとされている。
忍者ものの文学、講談などでは群を抜く知名度を持ったヒーローである。
そう記憶していた。
架空なんだと少し落胆するような気持ちになっていたあの頃。
しかし本来は実際に実在していたと後から分かったのだった。
なぜなら・・・その猿飛佐助に生まれかわったからだ
幼少期は似てる名前だなぁと暢気に思っていた。
けど、明らかに昔の家の造りや閉鎖的な雰囲気の村。
両親の部屋を幼心故に探ってしまったら苦無や手裏剣がわんさか出てきた。
そして、オレンジ色の地毛。これで瞬間的に理解してしまった。
戦国B/ASA/RAの猿飛佐助に成り代わってしまった。
最初は罪悪感が身を削ったがそれは昔の話・・・今は元気に過ごしてます。
・・・今まで忍として育ってきたからか感情が表に出なくなった。
ま、感情は捨てろと言われてきたけどそれは無理だろう師匠。
人間は人間である限り感情なんていくらでも湧くものだ。
顔には出ないようになったからセーフセーフ。
そして忍が必ず通る道。人殺しも、やるにはやった。
前世では平和そのもので殺したい程憎い人も居なかった。
当たり前だがやった事は無かった。
けれどこの時代は戦国乱世。甘い事は言ってられない。
初めての殺しに、私は自分が何をしているのか分からなくなった。
一晩中泣いたし胃液が出るほど吐いた。
二回目以降は慣れたのか何の抵抗も無かった。
私にはそれが酷く恐ろしいものに感じた。
里でも一人前になった時、長から真田軍に仕えろと命じられた。
就職先でも暗殺任務や汚い仕事をするんだろうなぁ・・・
これから訪れる未来に重い溜め息を吐いた。
漠然とそう思っていたが、予想外なことが起こったのだ。

「××!」
「何でしょう」
「某は団子が食べたい。買って参れ」

とまぁこんな感じに、ほのぼのとやっている。何故。
こう、忍って闇に生きるカッコイイ仕事だろう。それがこれだ。
弁丸様という真田昌幸様の子供のお付きの任務。
・・・なのだけれど、これ完全に子守りだろ。
何で忍がおつかいするの?!絶対おかしいだろ!
真田軍忍の使い方間違ってるよ!
そうは思うが主の命令は絶対。
忍のやる事では無いが団子買って来よう・・・かなり不本意だけど。
体が鈍らないように同僚の霧隠才蔵に鍛錬の相手をお願いしよう。
弁丸様に一礼して、その場から去った。
・・・いやぁ、忍が昼に外を歩くって違和感あるな。
目立つオレンジ色の髪は真っ黒に染めている。
町人の格好をして団子は買ったが変な気分。
じめじめとした場所で過ごしていたから明るい場所は苦手だ。
けれど、己の身の内に巣食う闇があるからか私はいつからか光を求めるようになった。
闇の婆娑羅者。これのおかげで仕事出来るようなものだ。
人を倒せば体力を吸収する力。忍にはもってこいの能力だ。
・・・くだらない考えは捨てよう。
なるべく早く帰れるよう、そして団子の形が崩れないように忍の要のスピード力で城へと戻った。


* * *


「猿飛××、ただいま戻りました」
弁丸様に近付くときは徐々に気配をだしてから。
じゃないとビックリしちゃうからね。
声をかければ弁丸様はクルリと振り返り向日葵のように明るく笑った。
・・・癒される。

「おお、待っていたぞ!」
「これを」

団子の包みを渡せば満足そうに頷き、傍を通った女中に茶を頼んでいた。
私下がっても良いかなぁと思っていれば、弁丸様は突然私の手を掴んで縁側へと座った。
えっ弁丸様、私汚い手なのに!お願いだから手を離してくれ。
そうは思ったが手を振り解くなんて罰せられる。

「ちょ、弁丸様・・・」
「××も座れ!某の隣にな」

勘弁して下さい。
弁丸様ほどの身分の人の隣に私みたいな足軽にも劣る地位の忍を座らせちゃ駄目でしょ!私罰せられるって!
命令に従わない私の様子に弁丸様は首を傾げた。

「どうした?早くせぬか」
「私のような者が弁丸様の隣には座れません」
「何故だ」
だから身分の差がさぁあああ!!
分かってて言ってんなら小悪魔弁丸って呼ぶぞ!
本音は微塵も表に出さずに無表情でサラリと宥める。
「私が忍だからでございます」
「同じ人間ではないか。自分を卑下するような事を言うな」
「いえ、ですから・・・」

勉学しただろ多分。忍はどの者よりも身分が低い。
草とか言われてるからね。
虐げられて辛いとかは思った事は無いけどね。
丁度タイミング良く女中が茶を持って来た。
その子は不穏な空気に気付いたのかそそくさとその場を去って行く。
助けてくれたって良いのに・・・
何故かお茶が2個だが弁丸様はそんなに飲むのか?
そんなに喉渇いてたんだな。
弁丸様は私の手をパッと離してくれた。
彼は力強いから結構痛かったから放してくれて助かった。
チラリと手首を見れば赤くなっていた。
弁丸様は団子の包みを開けて、一本取り出すと私に団子の先を向けた。

「やる」
「・・・・・・ありがとうございます」

鋭い眼光で言われちゃ敵わない。
どこでキレたんだと思いながら受け取れば弁丸様はお茶も渡してきた。
私はとりあえず受け取る・・・この人は何がしたいんだろう。
というか受け取りはしたもののこれはどうしたら?食せば良いのだろうか?
でも忍は人の作ったものは食べれないんだけど。
そういう事も分かってないよね弁丸様って。
弁丸様が団子も食べずに私をじっと見つめてきた。
アレ?大好物の団子があるのにどうしたんだ?
地面に膝をついていれば、弁丸様は自分の隣をバンバンと叩いた。
床痛むから止めて。壊したりしたら直すの面倒でしょ。

「座れ」
「・・・あの、」
「座れ」
「・・・・・・・・・」

どうしようこの人。
弁丸様は、今から人を殺しに行きますというほど目をギラギラとさせて私を睨んでいる。

「身分や地位など某にとったら小さきこと。嫌だと申すなら、こう言ってやろう。某の命令だ、座れ」

と、再度床をバンと叩く弁丸様。
子供がやっちゃいけないような目をしてる。怖い。
この人本当に強引だよね。
まぁそこが子供らしくて良いけどそれって職権乱用ですよ。
内心溜め息を吐きながら「御意」と先に言ってから弁丸様の隣に座った。

「・・・・・・××」
「何でしょうか」
「何故そのように離れているのだ」

いやぁ、だってさ・・・
私にとっちゃ弁丸様は触れたらいけない存在ですから。
お隣同士ぴったりくっ付くのは弁丸様が汚れちゃいそうで嫌だ。
本心を言う訳にはいかないので限りなく無表情で弁丸様を見ていれば、弁丸様は苦虫を噛み潰したような顔をして私との距離を詰めて来た。
逃げようにも今度は腕を組まれて振り解けない。
ガチガチに体を固まらせていると弁丸様はもそもそと団子を食べ始めた。
え、放置?
いや、体くっ付いてるから放置じゃないんだけど
え?何コレ?どういうこと?
両方の手でお茶と団子を持っていれば、弁丸様は口を開いた。

「某は××の身分に対しての思いなどどうでも良い」
どうでもって・・・酷いな。
「××が真田に居る以上、ここに慣れてもらうぞ。真田は忍を忍として扱わぬ。人として接するからな」

(・・・・・・・・・)
この状況、幸せなのか不幸なのか。
忍として15年生きてきた所為か、人として扱われるのは正直辛い。
どう反応したら良いのか分からないし胸の奥がむずむずして痒くなる。
胸の内で色々葛藤していれば、弁丸様が自身の頭をこてりと私の体に預けてきた。
信じられない思いで弁丸様を見る。
弁丸様は意地の悪い顔でニタリと笑った。
(・・・人として、で良いのだろうか)
手に持っていた団子と茶をじっと凝視した。
忍は人の作ったものは食べられない。
弁丸様に貰った団子。
けど、忍は・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私は、パクリと団子を口に含んだ。
もちもち食べていれば団子の風味ある味が広がり、私の枯れた心に雨が降る感覚が染み渡った。
弁丸様は満足そうな顔をして団子を食べる作業に戻っていた。
ああ、こういうの久しぶり。
心が安らぐ感覚が私には心地良かった。


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