BASARA成り代わり短編 | ナノ
百万を風靡した者

今は、桜の花びらが降る季節。
高校の入学式の日、桜舞い散る中佇む三成は神仏の類のように美しかった。
三成は戦国の世に生きた三成と同じ姿形をしていた。
白銀に輝く髪、吸い込まれそうな金色の瞳
整った顔立ち、雪のように白く抜けそうな肌
人目を引く容姿をしている三成を私はすぐに見つけられた。
それが先程の出来事。何年も諦めずに探し続けて良かったと心底思った。
何を話そう。いや、まず私は三成に名を叫ばれ殺されるのかな。
まず始めにどうやって話しかけよう。あの透明な瞳で睨まれるのだろうか。
(また会えて本当に嬉しい、嗚呼相変わらずお前は凛とした魂なのだな)
人目も気にせず駆け寄り腕を引き寄せれば・・・・・・

「誰だ貴様は」

掴んだ手をパシリと叩き落された。
三成に逢えた歓喜に笑みが零れた顔のまま、私は何をされたか理解出来なかった。ピシ、と何かがずれる音が聞こえた気がした。
(誰だって・・・?)
振り解かれた手がズキズキと痛むと同時に胸の奥が疼く。
刃を突きつけられたかのような痛みに思わず顔を顰めてしまう。
不愉快そうに顰められた眉。
私に触れられた腕を不快そうに見つめている。
ムッと唇を突き出している様子は子供らしいなと思った。
知らぬ不審人物を・・・敵を見るかのような鋭い視線が私を射抜く。
明らかに私のことを覚えていない顔だ。
覚えていたのなら、今頃私の首を絞めに掛かっているだろう。
三成は私のことをこれっぽっちも覚えていなかった。

「私のことを誰かと勘違いしているだろう・・・人違いだ。分かったならさっさと去れ」
「あ、いや・・・」

勘違いでも人違いでもない
私が逢いたかったのは間違いなくお前なんだ
三成・・・・・・なんだ

「まだ何かあるのか?」

白けた視線。誰だと問う目・・・
前世でも向けられたことのない、ある意味一番辛い目だった。

「おぉい石田! 早く教室行こうぜ!」
「長曾我部・・・」

懐かしい声。
三成が振り返ったように私も反射的に視線を向ける。
そこには前世の親友が居た。
(元親・・・!)
吃驚した表情をする私に対し元親はこちらに軽く会釈した。
彼も三成と同じく私を知らぬ顔で・・・・・・
二人共私を覚えていないということが分かる。
そうか、元親も覚えていないのか・・・苦い思いが胸に広がった。

「ほら、遅れちまうぞ」
「ああ」

何事も無かったかのように歩き出す三成。
こちらに目もくれず前へ進む三成の背をぼんやりと見つめた。
元親は「あいつ知り合いか?」とマイペースに歩く三成に問い掛けていたが「知らん」と一言三成は切り捨てた。
小さくなり、やがて点となっていく二人の姿を目に焼き付ける。
二人が覚えていないのも無理はない・・・か。
それもそうだ、覚えていても嫌な記憶しかないだろうな。

同じ志を抱いた友人を私はこの手で殺した
美しいその人は悪鬼と化し復讐を糧に生きた生涯は悲惨そのもの
その人の神も同胞も仲間も希望すら私は己の拳で断ち切った
彼は言った「貴様に永遠の呪いをくれてやる、歓喜しろ」と。
その呪いは私が何もかも忘れられぬもの。
私が犯した罪を未来永劫忘れぬ呪い。
彼は全てを忘却し、そうして傷付いた魂を守った。
私は彼の呪いの通り何も忘れられずに今も生きている。

共に戦場を駆けた親友を私はこの手で殺した
親友は何かを勘違いして怒りや憎悪に身を任せていた
言葉も通じなかった。かと言って諦めれば私の夢は叶わない
皆が望む泰平の世。穏やかで平和な世が永久に続けばいいと
己の強欲だけで大切な親友の全てを奪ってしまった
彼は言った「俺はてめぇを忘れてやる。来世もその次も、欠片も思い出しはしない」と。
その告げられた言の葉は実現された。
先程の態度から分かる通り、鬼と名乗る彼は私を微塵も覚えていない。
彼は私を忘れ去り今生を精一杯謳歌して楽しそうに笑っていた。
それはとても素晴らしいことなのだろう。
私は自分のしたことはよく理解している・・・つもりだ。
野望のため、絆を掲げる者として友を何人も葬った。
一方では絆を結び一方では絆を断ち切った
それが正解だとも間違いだとも思わない。
しかし人殺しは罪だと認知している。
それを忘れることも出来ないだろう。
割り切ったつもりだけど、私はまだ迷っていたのだな・・・
胸が、こんなにも締め付けられるとは。
悲しくて哀しくて涙が溢れそうになった。
ズギズギと軋む心の音を耳が拾う。

彼らは幸せそうにしていた。前世では得られた筈の幸せを。
私が奪った分までの幸せを噛み締めて。
笑っていたんだ。あの三成までもが。
三成の顔に笑みを浮かべられなかった自分・・・
三成を楽しませ笑わせられる元親・・・
どちらが良いのか火を見ずとも明らかだ。
二人は笑ってたんだ。
私を忘れて、憎しみも憤りも前世で捨てて・・・
今生でたくさんたくさん笑う。
そこに私の入る隙は無い。

「・・・・・・参ったなぁ・・・」

金色を身に纏った太陽・徳川××は空を仰ぎ見る。
空はどこまでも透き通る綺麗な青、蒼、藍。
その大きな瞳は哀しみの感情に左右されぬ強さを持っていた。
涙も何も浮かびはしない。
けれど今にも居なくなってしまうかのような儚さが滲み出ていた。
いっそ壊れてしまえばいいと思わせるほどの痛々しい姿が桜の花弁に埋れる。

グラグラと揺れる感情に比例し、××は三成と元親が去った方角をいつまでも未練がましく見詰めていた。


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