BASARA成り代わり短編 | ナノ
錆びた魂魄再び巡る

時は現代。一度目の生と同じ時代・・・これにて三度目の生だ。
流石に慣れた赤ちゃん視点。視界に映るは紅葉のような小さい手。
喋ろうとすれば「あー、うー」と言葉にならぬ単語。
立てず歩けず走れずの体。碌に動けない状態はつまらない。
一度目の生は女子高生。普通の人生を歩めたと思う。最後は車に轢かれあまりにも呆気無かったが。
二度目の生は成り代わりを全うした。BASARAの真田幸村に成り戦国時代を生き抜いた。最後は東軍の徳川家康に殺されたが。
そして三度目の生。まだ分からないが現代風の景色。電化製品があるということは、少なくとも戦はやってないだろう。
これでもう血に濡れずとも済むのか。そう思えば安心する。
耐えられずに潰れる思いはもうこりごりだ。
もう戦わないでいいと知ったのに狂喜乱舞したのは内緒だ。
そしてもう一つ。今生の名前も真田××らしい。
由緒正しき家系だとか、住んでいる家も屋敷で金持ちだ。
・・・二度目の生と関連しているようにしか思えない。
もしくは縁か因果か・・・・・・分からないことを考えてもしょうがないな。
とにかく今回も豪勢に暮らせそうだ。
ただ躾が厳しくなりそうだけど二度目の生のおかげで突破できそう。

三度目の生だと確認してから早数年。保育園、幼稚園を難なくクリア。
あの年頃の子供は言動が支離滅裂だから合わせるのに苦労する・・・
ほとんど絵を描いたり遊具で遊んだりと交流はしなかったが。
遊びに誘われたりしたが丁寧にお断りした。
だって体力馬鹿の子供達と付き合ってたら身がもたないし。
そしてこの間小学校に入学。両親の顔の綻び具合ったら面白かった。
ニコニコと柔和な笑みで私の入学祝いをしてくれた。
真新しい黒のランドセルを買ってくれた。大切に使おうと思う。
そして新品の筆記用具やノート、教科書など色々買ってもらった。
まだ身体も精神も幼いばかりの子供達に囲まれた小学校。
一,二,三年は我慢するとして、成長してくるのは四年生ほどからだ。
以上これまでのダイジェスト。現在、小学三年生。


* * *


今は冬。外出するには厚着でマフラーを付けなければ耐えられぬ程の極寒。
まじさむい。この間雪とか降ってたよ。温暖化とか嘘だろと疑ってしまう。
冬休みを迎え、真面目に初日から宿題をしていた私に父は言った。

「××、今日はお客さんが来るよ」
「お客様でございますか?」

二度目の生の戦国武将だったころの癖が抜けない。
流石に語尾に『ござる』と付ける時代錯誤な口調は止めたが。
ござる口調はあまりにも現代じゃイタいので、現在は他人行儀な口調だ。
別に壁を作っているワケではない。鉛筆を置いて父に体ごと振り向く。
父・真田昌幸は温和な人間だ。
普段からニコニコと優しい笑みを携えた完璧人間。
仕事も出来て家庭に気を配れるパーフェクト父さん。
私にとっては勿体無いくらいの良い父親だ。

「そう、お客さんだよ。大事なお客さん。××にとってはね・・・どうなるか楽しみだ」
「?」

どういう意味か分からず首を傾げると、父は私の頭を撫でた。
父の撫で方は好きだ。
母は優しく包み込むような撫で方なら、父は頼もしく守ってくれるような撫で方だ。
胸の奥から湧き上がる嬉しさを素直に表情に出す。にまにまと顔が緩んだ。
疑問は拭えなかったが、父が撫でてくれるので良いとしよう。

「どうするかは××が決めればいい。私は一切口出しはしないから」
「?・・・分かりました」
素直に聞き入れれば、父は笑った。
「そのお客様は俺に御用があるのですか?」
「まぁね」

今度は流されずに答えてくれた。・・・しかし、どういうことだろうか?
お客様は私に用がある。
父のこの言い草じゃ私は相手と面識が無いようだ。そして好きにすればいいと。
何だ?家庭教師でも雇うのか?父の言うことは抽象的すぎて分からない。
お昼頃に来るから、と私の部屋から父は去っていった。
不可解な父の発言から数刻時間が経った。
算数の問題集を半分ほど終わらせる事が出来た。
そしてお昼は母の手作りの和食をいただきました。
美味しかったです。ごちそうさまでした。
食器を片付ける母を見つめる。目が合えばニコッと微笑まれた。
相変わらずお美しい方だ。その微笑すら女神のようで綺麗。
父も母も互いに結婚相手を間違えなかったようだ。
ジュース飲む?と聞かれ頷けば母はオレンジジュースを出してくれた。
しばらくすれば父がリビングに現れた。

「お客さんが来たよ。おいで××」
「ジュースはどうすれば・・・?」
「冷蔵庫に入れておけばいいわ。コップを貸して」
「はい」

半分以上ジュースが残ったコップを母に手渡す。
父に手をひかれながらも私は振り返る。
母は冷蔵庫にコップを入れてくれていた。

父に連れてこられたのは応接室代わりの和室。
昼に電気はつけない派の父のおかげでその部屋は薄暗かった。
なんか、電気を余分に使わない為なんだって。
あと薄暗い雰囲気が好きらしい。
初めはなんだそりゃと思ったが今では気にならなくなった。
父が先に部屋に入る。私は後から続いて入った。
部屋に居たのは、一人の老人と一人の少年だった。
奥に居る少年は薄暗くて顔がよく見えない。
シルエットだけで少年と判断したのだ。
初老の男は、私を見るなり微笑ましそうに笑った。

「大きくなられましたなぁ・・・××様」

今時様付けって!現代ですよ?二十一世紀ですよ?
時代錯誤な老人に吃驚する。
というか私、貴方のこと見覚えありませんが。
白い髭を蓄えた老人は座布団に座る父に向き直る。
父がちょいちょいと私を手招きした。
私は慌てて父の隣に敷かれた座布団に座った。

「わたしのこと、覚えておりませんか?」
「・・・申し訳ありません。その、覚えがない」

思わず老人から目を逸らした。
なんだか、気まずいのだ。
それでも構わないといった様子で、老人と父は朗らかに笑った。

「仕方ないよ。会ったのはもう随分と前なのだから」
「それでは改めて自己紹介を・・・勘吉と申します。以後お見知りおきを」
「勘吉さんですね。真田××といいます。よろしくお願いします」
互いにペコリと頭を下げた。
頃合を見計らっていた父は話題を切り上げる。
「さて・・・勘吉、その子がそうなのか?」
「ええ」

その子?奥に居る子供だろうかと視線を向ける。
相変わらず影に居るので顔が分からない。どんな表情をしているのか。
・・・今更だが、これは家庭教師といった雰囲気ではなさそうだ。
父の手が、私の肩にぽんと乗る。
何だろうと顔を上げれば父は真剣な表情をしていた。

「××、お前には新聞やテレビからの情報を与えているから世間がどのようなものか分かるね?」
「・・・はい。物騒な世の中となっています」
「そうだ。事件や事故にいつ巻き込まれるか分からない・・・被害者となるのは、いつだって立場や体が弱い者だ」
「女子供やご老人でございますか?」
「ああ」
父は頷く。ゆっくりと深く真意を確かめるように。
「××は、今年でいくつだ?」
「9才です」
「その年は何と判別される」
「・・・子供です」
「そう、子供だ。守られるべき立場の弱く脆い存在なんだ、お前は」

それとこの状況と何の関係が?
父の質問の意図が分からずモヤモヤする。何がしたいのだろうか。
父は真剣な声で、それでいて儚い笑みを浮かべた。

「ずっとお前を守ってやりたいと思う。たった一人の息子なんだ、可愛いし守りたい
 その気持ちは一生変わらないだろう。家内だって同じだ
 だが・・・そうも言ってはいられない 私も家内も忙しい
 ・・・だから、どうするべきかと考えた。そして一つの結論が生まれた」

「結論?」
父は私の疑問に答えず奥に居る少年を見据える。
真剣な目のまま、ぎらりと光る眼光で。
今までに見たことのない表情の父に思わず唾を飲み込んだ。

「勘吉、その子の様子はどうだ?」
「非常に使える人材かと。偶然にも××様と同い年です」
「そうか・・・」
父が、ゆっくりと私に振り向いた。
「お供をつけないか?××」
「・・・・・・おとも?」

あまりにも現代離れした言葉に、脳内で漢字変換が出来なかった。
お供?え?それ本気で言ってるんですか?
ちょおおおおお父上ぇええそれ過保護すぎませんか?
お供って、驚くしかできない。
いくら物騒な世の中といってもそこまでしなくても・・・
戦国乱世に比べりゃこれくらい平和なもんですって!
脳内がお祭り騒ぎです。
私の焦りと驚愕に見向きもしない父と勘吉さん。
えええ、マジ?真面目?本気?冗談?二人の顔を見比べて理解する。
(こ、この二人・・・・・・本気だ!)
未だに驚いている(というか引いている)私をスルーする二人。
妙な間のあと、老人が後ろに居る少年に向けて声を掛けた。

「佐助」

・・・・・・さ、すけ・・・?
瞼の裏で迷彩が飛び交った。
二度目の生。私に生涯仕えてくれた、ひとりの忍。
残して逝ってしまった私の傍にいてくれた忍。
橙色の心優しい不器用な私だけの忍。
私が今生で最も驚いたであろうこの瞬間。
奥で静に呼吸していた少年が一歩前に出る。
日陰となっていた場所から移動した少年の顔が見えた。
柔らかな日光に包まれる少年。顔がハッキリと識別できた。
「・・・・・・っ!!!」
ハッと息を詰める。上手く呼吸が出来なかった。
驚く私に父と勘吉さんが不思議そうにしていた。
目を見開く私に、少年は口を開いた。

「・・・猿飛佐助と申します。××様のお傍に生涯お仕えしたい所存です」
「・・・・・・・・・・・・」

橙色の髪の毛。雪のように白い肌。狐のように細い目。
整った顔立ちはどこからどう見ても佐助だった。
絶句してしまう。
佐助だ。私だけの忍。ずっと傍にいてくれた佐助。
あの日、夏の暑い日、残していってしまった佐助。
呆然としていれば、父が私に言う。

「いるか、いらないか。それは××が決めればいい」

朝のあの台詞はそういうことだったのか。
お供をつけるとはこのことだったのか。
待ってくれているのは本当に口出しする気は無いのだろう。
次に発言するのは私だけになった。しん、と部屋に沈黙が訪れる。
ふら、と座布団から立ち上がり佐助と名乗る少年に近付いた。
少年は脈絡のない行動の私に臆することなく私を見つめる。
無表情だがその目には歓喜のような色が宿っていた。
・・・まさか、記憶が・・・?

「佐助と言ったな」
「・・・っはい」
「真田源次郎××という名に覚えはあるか」
「はい」
「紅蓮の鬼や虎の若子といった呼び名に憶えはあるか」
「・・・はい」

「・・・っでは、甘味好きで大食いだったのは・・・いつもお館様と殴り合いしていたのは・・・・・・おぼえは、あるか・・・?」
「はい・・・全て憶えてます」

この言葉が決定打だった。

「父上・・・決めました」
「言ってごらん」

佐助の手を取って握る。嫌がる素振りもせず佐助も握り返してくれた。
私はそれだけで嬉しかった。涙が零れないよう耐えるのだけで精一杯だ。

「要ります。俺には佐助が必要です」
「そうみたいだね、当人達にしか分からないようなこと言ってたし」

それにツッコまない父は優しい人だ。父には感謝する。
こうして佐助に再び会える機会を与えてくださったのだから。
父は佐助に優しい微笑みを向ける。
ぎくりと佐助は体を強張らせたが手を強く握れば緊張が霧散した。

「頼まれてくれるね?佐助」
「はい。この命に代えても・・・今度こそ××様を守り通すと誓います」

ジャパニーズ土下座。
佐助は私の手を自分の手から丁寧に剥がし、父に向かって土下座をした。
昔の習慣だ。真面目な時によくやっていた動作。
でも、一つだけ言いたいことがある。

「命に代えられては困る。己の命と俺の命、二つとも守ってもらわねば」
「・・・分かりましたよ、××様」

ふたりで一緒に笑った。
ふたり共、涙が零れそうだった。

勘吉が帰り、父がどこかへ出掛けた瞬間。
佐助はタックルと言ってもいいほどの強烈な抱擁をしてきた。
勢いづき過ぎ!鳩尾にダイレクトに来たぞ佐助ぇ!

「××様っ・・・ずっと、ずっと会いたかった・・・ッ」

文句を言おうと顔を上げれば佐助は泣いていた。
こんなにボロボロと泣く姿は初めて見る。
忍が感情をむき出しにすることはない。
しかし・・・こうして忍ではない人生を迎え感情が表に出るようになったのか。
これを見て文句を言う気にはなれなかった。

「佐助・・・」
「申し訳ございません・・・ごめん××様っ・・・あの時貴方を守れず・・・俺だけがおめおめと生き残った!」

私と同い年の佐助。私よりも少し背の高い佐助。
佐助は、ぐすぐすと嗚咽を漏らす。佐助の橙色の髪を撫でた。

「謝るのは俺の方だ・・・残して逝ってすまない・・・」
「××様・・・!」

出来るだけ優しく佐助の顔を私の肩に押し当てる。
多分泣き顔は見られたくないだろう。
ぎゅう、と更に私を抱き締める力が強くなった。
私もそれに応えようと、佐助の背をぽんぽんと撫でる。
何か・・・相方がこんなに泣いてると、こちらも泣く気にはなれないな・・・
宥めるのはいつも佐助なのに今日は立場逆転だ。
佐助が泣き止むまで、私達は抱き締め合っていた。



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