BASARA成り代わり短編 | ナノ
鷹は狡猾に爪を磨ぐ

※小早川が女の子でロリです※





ザアザアと吹き荒れる嵐。草木は揺れて不穏な音を醸し出している。
雨露が地上にある全てのものを打ち付ける。
遠くからゴロゴロと雷の音が聞こえた。
夏から秋に変わるこの季節、台風がやって来た。
まだ夕方なのに深夜のように暗い。
夏の今頃は真っ赤な夕日が沈んでいた時刻だ。
その見事な景色を見れないのは少々残念に思う。
それよりも、家臣が大事に育てている作物は大丈夫だろうか?
台風によって畑にあるものが傷付いていないか心配だ。
今年の作物は丈夫に育っているし台風対策も万全と言っていたが・・・
その農作物は私の為に作っているらしい。
こちら(戦国時代)の食べ物は皆美味しく、ふざけて鍋時間を作ってみたのが始まりだった。家臣達は私に美味しいものを食べてもらいたいと自分達で農作物を作り出した。
ビックリはしたが良い家臣に恵まれたものだ。
・・・さて、そろそろ読書は止めようかな。
続きが気になるが蝋燭が勿体無い。
資源が多い時代じゃないので、日々節約だ。
蝋燭に点いてある火を消そうとしたが、ふと歩きたくなった。
それにそろそろ夕餉の時間だ。
女中に運ばせるのも悪いし今日は自分から厨房に行こう。
辺りはもう真っ暗で、火が無いと足元も見えない状態だ。
夕餉を食べて一時間くらいしたら寝よう。
持つタイプの燭台に蝋燭を入れ替え、立ち上がった。

「××様!」

歩く先々で家臣達に頭を下げられながら厨房へと向かっていると、とある一人の家臣が慌てた様子で声を掛けてきた。
ここ、小早川軍は緩やかな時間が流れる場所。
戦とは縁が無いと豪語出来るくらいに他と比べれば平和な軍だ。
そんな穏やかな雰囲気漂うこの地に、このような緊迫感は珍しい。

「どうしたの?」

まさか畑が滅茶苦茶に・・・?!そんなの嫌だ、嫌だけど・・・
台風は自然に起こるものなんだ・・・残念だけど諦めるしかない。
そんな現代人染みた考えをよそに家臣は続ける。

「それが・・・怪しい者を捕らえたのです」
「怪しい者?」

こんな台風の時に?ご苦労なものだ。
それに金品や役立つ物など何も無いこの地に立ち寄るなんて。
随分と物好きな奴が潜り込んだんだな、と暢気に思った。

「その人は今どこに?」
「牢に入れようと、他の者が連れて行っております」
「ふうん」

考えてみる。
多分その人は、余程のことが無い限りは殺されないだろう。
でもこの家臣の様子からして・・・危険そうな存在っぽいな。
秋になろうとしている今、汗をこんなにも流しているのはおかしい。
ダラダラと汗を流し、まるでホラー映画を見た後のような顔面蒼白。
幽霊を直に見て来ましたといった姿だな、これは。
家臣をそこまで脅かす侵入者が気になってきた。
うーん、これは夕餉どころじゃないぞ!

「ねえ、その人に会わせて」
「なっ?!危険です××様!」
「もう決めたの。命令だよ」

ね?と首をコテンと傾げてみせた。
自分で言うのも何だが私の容姿は大人にとって相当な破壊力を誇る。
もちもちと柔らかそうなほっぺた。
栗色の髪は二つに結べており幼い印象を受ける。
大きな瞳はブルースカイ色。現在13歳。身長は低めで家臣は大人ばかり。
これが決め手だ。
上目遣いで(まぁ普段の目線でもそうなるが)お願いすれば大体聞いてくれる。
予想通り、その家臣は観念したように了承してくれた。
ほらみろ。やっぱりこうなった。
ついでに言えば、ここの家臣は皆母性や父性に目覚めている。
原因?もちろん私の所為だよ。
目覚めさせるつもりは無かったんだけどね・・・
今では立派な大所帯のようになった。皆部下で皆私の親みたいなもの。
そんなアットホーム感溢れる小早川軍、今日も私に弱いご様子。


* * *


念の為に侵入者には手枷と足枷を付けるらしい。
そこまでしなくてもと思ったが、この時代では普通で・・・
なら良いかと簡単に納得。
侵入者は私の部屋に通しておけと言っておいた。
とりあえず夕餉を先に頂きたいんだ。
そろそろ7時くらいになるんだし、いい加減お腹も空くというもの。
当初の目的、厨房へと出向き貰った夕餉を急ぎながら食べた。
若干気分が悪くなりつつも、お茶を持って自室に向かう。
ちなみに侵入者へのお茶は無い。
平和に話をして害が無さそうなら解放しようっと。
家臣達は甘いやら何やら言いそうだが無視だ無視。
無駄な命は散らしたくないしね。
やがて自室の扉の前へと到着。部屋の中に人の気配があるのが分かる。
それはひとつ。
家臣は邪魔をするなと言ってあるので、それを守ってくれたのだろう。
万が一があったとしても懐に短刀があるので大丈夫。
お気楽思考のまま私は声を掛けずに部屋に入った。
・・・絶句。よもや、こんな別嬪がこの世に居たとは驚きだ。
まず目に入ったのは、その銀髪。
三成くんで慣れているが侵入者の髪は七夕に見る天の川のように綺麗だ。
顔の造形は美形と言うよりは美人と称した方がしっくりくる。
憂いを帯びた銀灰色の瞳は物悲しそうに伏せられていた。
侵入者と目が合う。
もっとその目が見たいと思い侵入者に近付いて覗き込んだ。

「こんばんは」

・・・外面が美しい者は、声も美しいらしい。
涼しげな声色はこれからの季節にぴったりだ。
歌うように楽しげに弾んだ声は心地が良い。
オマケのように笑みを模った唇は、まさに繊麗・・・返事した方が良いか。

「うん、こんばんは」

この人、随分と細っこいなぁ。
あまり食べてないのか骨が浮き出そうな程痩せている。
・・・そういえばこの人、何だか顔色が悪い。
あまり外出しない私ですら健康的に見えるくらいにこの人は肌が白い。
雪のように白い肌とはこのことを言うんだなぁ。
よくよく観察してみれば、綺麗な銀髪は水に濡れていた。
拷問・・・水責めでもされたのだろうか?と思って、その長い髪を一束摘み上げ、くんくんと匂ってみる。
・・・・・・雨の匂いだ。じめじめと鼻につく陰の臭い。
この台風の中わざわざここに来たのか。本当にご苦労様だ。

「この嵐の中、大変だったでしょ?このままじゃ風邪ひいちゃうね、ちょっと待ってて」

自室にある手拭いを手に取る。
まだ未使用のそれは、ふかふかで手触りが良い。
これなら水分をよく吸い取るだろう。
再度侵入者の目の前に居座る。
そして声を掛けずにわしゃわしゃと髪を丁寧に拭いた。

「・・・っ」
「あー、動かないでよ。拭いてるだけなんだから大人しくしてて」
「・・・・・・、はい・・・」

侵入者が僅かに動く度に、枷がチャラチャラと音が出る。
互いに沈黙。
私は特に気にせず、ただ黙々と髪を拭き続けた。
しばらくすれば侵入者の髪は乾いてくる。
これくらいで良いか、と手拭いを元の位置に戻した。
侵入者は戸惑ったように口を開く。

「・・・あの、」
「何も言わなくていいよ。こっちが聞きたい事だけ答えてくれれば良いから」
素直に口を閉じる侵入者。
うん、良い子良い子。
それじゃ幾つか質問させてもらおうか。
「お名前言える?」
「・・・・・・」
だんまり、か。
「ああ、別に正体が知りたいとか、そういうのじゃないよ。ただ君を呼ぶ時に名前が無いと不便かなぁって思っただけ。君が言いたくないならどうでもいいや」

じゃ、次ね。
私は侵入者が自由に動けないのを良いことに侵入者の綺麗な髪をナデナデと優しく撫でた。
彼はビックリとした様子で目を大きく見開いている。
そんな姿が妙におかしくて、こみ上げる笑いを隠さず出してみた。
クスクスと自分の笑い声が漏れる。

「君がここに来た理由は・・・・・・聞かなくていいか。じゃあこれで最後ね。君は生きたい?死にたい?選ばせてあげる」

ニッコリと私は笑ってみせる。これはただの気まぐれだ。
この侵入者のことは、私が歩きたいと思わなければ私に知らされずに処理されていた命なんだ。
つまりこれは何かの縁。
なら問答無用と斬り捨てるよりも選択肢を与えてみたい。
そうして、この美人で異彩を放つ人物の中身を見てみたい。
時間が緩やかに流れ過ぎて時が止まったような錯覚に陥る小早川軍。
たまにはこんな余興も悪くは無いだろう。
侵入者がどちらかを選び、そしてつまらない事を口走れば・・・
即、懐にある短刀であの世へと送ってあげよう。
無駄な命は散らしたくは無いが不穏はさっさと潰すに限る。
言わば生と死の賭け。自分の命を賭けたギャンブルなんだ。
侵入者にとっては、はた迷惑かもしれないが私は楽しい。
さあ何て答える?
侵入者はポカンと口を開け呆気に取られている。
美人はどんな顔をしても美人と再確認。
まぁ、私が言ってることは意味不明なんだろうな。
国主はこのように甘いことは言わない。
言わない代わりに私は残虐にその命で遊ぶ。矛盾しているがこれが私だ。
しばらくは沈黙に落ちていたが、突如笑い出す侵入者。
カタが外れたように爆笑する目の前の侵入者に今度は私がポカンと呆気に取られる番だった。

「あ、は ははは はは・・・ ・・・っっ!アーーッハッハハハハ・・・ハ・・・」
「・・・???」

(な、なんで爆笑してるんだろ・・・?)
気が済んだのか、ふうと短い息を吐いた侵入者。
私の発言の何が爆笑を招いたのかは分からないが、
何となくこの人の笑いの沸点は低いのだろうなと思った。

「・・・はは、貴方に嘘は通じないようですね・・・なら正直に言うとしましょう」
「うん、そうしてくれたら私も助かる」

侵入者は、歪んだ笑みを浮かべた。
周囲の温度が下がる・・・錯覚でもないな。
彼の高揚と比例するように気温がドンドンと下がっていった。

「私は生を選びます」
「・・・・・・へえ?理由は?」

これは予想範囲内だ。この人は生を諦めていない目をしていたから。
死を選ぶ奴は大体は忍ばかり。
さて、ここからが問題だ。
生を選んだ理由、これが面白くなければ即斬り捨てる。

「なにせ、やりたい事がたくさんありましてねぇ・・・その内の一つは魔王を倒す英雄になることでして」
「ふんふん」
「あとは・・・そうですねぇ・・・今までと反対の生き方をするのも良いですね
 慈悲の心を説き、迷い人に助言を与える・・・ああ、考えるだけでも愉快です」

元から歪んでいた笑みが更に深く歪む。
ああ、この笑み知ってる。これは狂人がする笑顔だ。
表情がぐにゃって曲がって、そこから狂気が滲み出る。
目はどこか虚ろになって、こいつ危ないなって雰囲気になるんだ。
でも私は怯えない。こういう人ほど面白い言動をしてくれる。
現に今がそうだ。

「そっか うんうん中々面白い回答だね・・・君、明智光秀くんでしょ?」
虚空を見つめていた目が、ゆるゆると私を捕える。
すると、今度は綺麗に笑った。
「おや、気付いておられましたか」
「風貌は知ってたんだ」

魔王、織田信長に謀反を起こした反逆者。
明智光秀
銀の長髪、白い肌、長身と少ない情報だったがすぐに本人だと理解した。

「では、私はこれからどうなるのでしょう?殺されてしまうのでしょうか?おお怖い怖い」

あんまり怖くなさそうだけど・・・
それに、この人は死さえ愉悦に変えれそうだ。
そうだな・・・拷問にかけて情報に引き出すのも良いけど・・・
それじゃつまらない。

「ううん殺さないよ。だって君みたいな面白い人死なすのは勿体無いもん」
「・・・ほう?」
不思議そうに首を傾げる侵入者。
その間抜けな顔を見つめていると、私はとある良い案を思い付いた。
「そうだ、君って今居場所無いでしょ?ここに置いてあげるから私の従者にでもなりなよ」
「・・・よろしいので?私は貴方に刃向かうかもしれませんよ?」
「面白かったら別に良いよ?それに君に飽きたら捨てるから」

鳴かぬなら 捨ててしまおう ホトトギス
私ならそう句を詠む。
待つ気もないし鳴かせてみる気も起きない、そして殺してしまおうとも思わない。
その個体の存在意義が無い場合や、価値観が失われた時なんかそれはもう要らない。
私は、どの存在に対しても面白さや楽しさを求める。
常に楽しみを探し続けると言えば聞こえは良いが、逆に言えば私の眼鏡にかなわないと一度でも思えば途端に要らなくなる。
今回もそうだろう。
明智光秀は、それはそれは楽しそうに笑った。

「ああ・・・貴方は本当に素敵なお方だ。では私をここに置いてもらえますか?」
「うん!喜んで。歓迎するよ、光秀くん」

今度は長く続けばいいな。


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