後始末と無気力系男子

額を腫らし気絶している近藤局長を連れ帰った後は大変だった。
尊敬する局長をやった奴は何処のどいつだ一族根絶やしにしてやる!と激昂する隊士を片っ端から沈める土方は疲労を隠さない。
野次馬から聞いた相手の特徴は『片目を隠した男』らしい。土方は沖田を引き連れて歌舞伎町を練り歩く。勿論、男を捜すために。
土方の目的を聞いた沖田は素っ頓狂な声を上げる。

「何ですって?斬る?」
「ああ斬る」
「件の片目を隠した侍ですかィ」
「真選組の面子ってのもあるが、あれ以来隊士どもが近藤さんの敵を取るって殺気立ってる。大事になる前に俺で始末するんだよ」

至る所に貼られているビラ。そこには隊士達が怒りのままに書き綴った犯人への挑戦状である。
目に付いたビラを剥がし、沖田の持っているバケツに丸めて捨てる。警察が捜索願を出すとは本末転倒だ。

「土方さんは二言目には『斬る』で困りまさァ。少ない情報で見付かるんですかね?」
「近藤さんを負かすからにはタダ者じゃねぇ・・・見ればすぐに分かるさ」

件の男を斬る話を否定しない沖田は、少なからず思うところがあるのだろう。土方に文句も言わずについていく。
気になるのは、近藤の様子だ。額を可哀相なくらい腫らし、女を賭けて決闘し負けたというのに何処か清々しい顔をしている。
近藤を負かす時点で並じゃない人物だと分かるが、女に熱を入れて闘った勝負の後にあれだけスッキリした表情でいられる謎。
きっと只ならぬ奴なのだろう。相手を斬って捨てるつもりだが、少々言葉を交わしてみるのも良いかもしれない。
土方は斬り合いを待ち切れぬ様子で、帯刀してある剣の柄を撫でる。そんな浮かれていた土方の頭上から、熱の無い声がした。

「そこの黒髪、今日の天気は晴れ時々木材だぞ」

は?とわけも分からず土方が上空を見上げると、数本の木材の束が降ってきた。

「うぉわァアアアァ!!」

思わず悲鳴を上げて飛び退いて事故は免れたが、あと数秒遅ければ怪我確実だ。激しい音をたてて木材が地面に衝突する。
あれだけの木材の下敷きにされていれば危なかった。突然の出来事に土方の心臓は忙しなく鼓動を重ねる。
屋根の修理をしていたであろう男が梯子からのんびりと降りてくる。あまりにも悪びれた様子の無い姿に怒りが湧いた。
「すみませーん」という抑揚の無い声は先程の注意した男と一緒だ。おそらく木材を落下させた張本人なのだろう。

「あっ・・・危ねぇだろうがァ!!もっと危機感迫る言い方しろや!」
「ちゃんと注意してやっただけでも感謝しろ」

そう言ってヘルメットを取って軽く頭を下げる建設会社の男。露呈したのは、前髪で左目を隠した無気力な顔。
顔を見た瞬間、土方と沖田は見知った顔に瞠目した。

「テメェは・・・池田屋の時の!」
「・・・そういや、この人も片目を隠した外見でしたねィ」
「片目隠したヤツなんてゴロゴロその辺に居るだろ。アリババくん」
「沖田総悟です」

池田屋の時でも行われたやり取りをする二人に口を挟めずにいる土方。
怪訝な思いでいれば、屋根の向こうから晋助に応援を求められた。

「オーイ晋助さん!修理こっち頼む!」
「了解。じゃあな、俺仕事だから」

落ちた木材はそのままに、晋助は軽く手を振って姿を消した。
片目を隠した侍。近藤を打ち負かせた実力を持つ男。そして何よりも、肝の据わった言動をする晋助。
土方の中で疑惑が確信に変わる。元より晋助のことは以前から気になっていたのだ。
大使館爆破時、遠い位置で見張っていた己の視線に気付いた晋助。並大抵の奴ではない。おそらく近藤を負かした奴に違いない。
願ってもない再会に、土方は湧き起こる闘志を抑え切れなかった。



* * *



万事屋である晋助の今回の仕事は屋根の修理であった。所々剥げた箇所に瓦を張り付ける細かい作業である。
新八と神楽は別件の依頼で別行動。新八はともかく、馬鹿力の神楽は屋根の修理は向いていないだろう。

かーんかーんかーん

「何だそのなよっちい打ち方は。金槌はもっと魂こめて打つんだよ」
「なよっちい毛根してるハゲに言われたかねーな」
「手先は器用な癖に口先は頗る悪ィな、これだから今時の若い奴は・・・そこ、ちゃんとやっとけよ」
「へいへい。マニュアル通りにやらせて頂きます」

依頼人もといハゲは反対側の屋根へと移動していった。ぶつくさ言いながら晋助に任せるのは信頼の証だろう。
これが今流行のツンデレかぁと暢気に考えつつ屋根を修理していれば、背後の梯子から誰かが登ってきた。
瓦と金槌を置き手を止めて立ち上がると、そこには先程の被害に遭った黒髪が居た。何故か刀を二本持って。

「爆弾処理の次は屋根の修理か?ふらふらと節操の無ぇ野郎だ・・・」
「爆弾・・・ああ、あの時の瞳孔妖怪か。相変わらず瞳孔開いたままだな、ご愁傷さん」
「余計なお世話だコラァ!」

晋助のやる気の無い煽りにまんまと引っ掛かる土方は怒鳴り声を上げるが、本来の用件を思い出し冷静を取り戻す。

「やっと思い出した所で本題だがな・・・あれ以来どうにもお前のことが引っ掛かってた」
「やだ、それって恋煩い?一目惚れなんて迷信だから俺のことは諦めて」
「気色の悪いこと言ってんじゃねーよ!!」

自分を抱きしめて嫌そうな顔をする晋助の口調は冗談なのか嘘なのか分からない。土方は嫌悪感に鳥肌を隠さず絶叫した。
のらりくらりと話題を逸らす彼は、まるで本題から逃れようとしているように見える。むしろそれが狙いだろう。
土方は感情を自制し、目の前に居る敵に意識を集中させた。

「・・・近藤さんを負かす奴が居るとは信じられなかったが、テメェならありえない話でもねぇ」

土方から刀が渡される。腰に差している刀ではない。多分あの小奇麗な顔した沖田少年から借りた刀だと晋助は予想した。
近藤と言えば先日死闘(笑)を繰り広げた妙のストーカー男である。確か名乗りを上げた時、真選組局長だと言っていた気がする。

「近藤・・・っつったらあの時のストーカーか。真選組はロクな奴がいねぇな・・・で、この刀は一体―――、」

目の前に居た土方が殺気の篭もった目を携え、真剣で斬りかかる。晋助は咄嗟に渡された刀で受け止めた。
背丈は然程変わらないというのに、土方の勢いは止まらない。

「くっ・・・」

そのまま振り切られ、衝撃を殺して後ろに飛ぶ。力比べは得策ではないと察しての行動だったが間違いではなかったようだ。
あのまま踏ん張っていれば余計に体勢を崩され、足元から崩れ落ちて屋根の上を転がっていただろう。
晋助は何で俺って巻き込まれ体質なんだろうと純粋に疑問に思った。
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