い、一体ココはドコ何でしょうか?

箇所書きしましょう
・朝、学校に遅刻しそうになりました
・まだ寝ていた双子の弟を放置しました
・食パン銜えて家を飛び出しました
・私が転校生で角を曲がったらイケメンにぶつかりそうだなぁと考えてました
・角を曲がりました
・トラックに轢かれました
感想(斬新過ぎる!少女漫画には載せられない過激さだ!)

ああ・・・これは天罰なのでしょうか?何がいけなかったんだろう?
あれかな、弟を放置したのが駄目だったかな。
あの子、電車苦手なんだよなぁ・・・人に怯えているし・・・
それを放置するなんて鬼畜外道の行動だったのかな?
でも皆勤賞狙ってたんだから仕方ないじゃない。
ドロドロ デロデロ
まるで大量に入っていたペンキをぶちまけたように私の血はコンクリートの地を塗らした。
真っ赤だ・・・彼岸花みたいポストみたいトマトみたい
赤で、私は運動会を思い出した。
小学校の頃、赤と白のチームに分かれたなぁ・・・
白組は『牛乳の色はー?』『白ぉー!!』
赤組は『夕日の色はー?』『赤ぁー!!』
懐かしい。
あぁ・・・お母さん、お父さん、弟・・・
ごめん、私 親不孝者だよね・・・ごめん、ごめんね
愛おしい弟、こんな不甲斐無い姉でごめんね
私、先にリタイアだ。天国で待ってるから、もう一度会おう。
意識が朦朧としてきた。ユラユラ揺れる視界に、ふと海を思い出す。
透明な、水

ゆらゆらゆらゆら揺れる、揺れる
風がそっと優しく水面を撫でたように水面に皺ができる
まるで水が微笑んでいるような形になって
ゆらゆら揺れた




* * *




・・・・・・・・・・・・・パチッ
「・・・・・・・・・・・え、・・・うん?」

瞼が開いた・・・・・・・・・・・・・開いた?
・・・あれ?私、食パン銜えててトラック撥ねられた・・・よね?
どうして生きてるの?ここが天国?
首だけを動かし周りを見る。ジメジメしてて暗い路地裏だ。
勢いよく自分の姿を確認・・・血、付いてない。綺麗な状態の制服だ。
周囲を見渡してみれば、私が食べていた食パンと、抱えていた鞄が無造作に置かれていた。
腕時計を見れば、・・・昼。更にケータイで時刻や日付を見てみる。
(・・・トラックに轢かれた、日・・・だ・・・)
ぐるぐると思考が曲がる。
何で?どうして?という疑問と此処は何処?という孤独感・・・
急にひとりぼっちになった・・・私に何が起こっているのか。
一体、これは何なのか。
・・・いやだ、やだ、こんなの・・・
お腹の中で焦燥感が蠢く。背筋がぞわぞわと震える。
怖い。怖い。怖いっ・・・!!
とてつもない不安。重すぎる衝撃的展開。
私じゃ荷が勝って潰される。
・・・一つ一つ、問題を解いていこう。慌てない。数学と同じだ。
落ち着け自分、ファイトだ自分。

まず一つ、私はトラックに撥ねられ死んだはず。
 でも私は確かに生きている。心臓もちゃんと動いている。
 ・・・これは置いておこう。私じゃ解決出来ない。
次に、私は人通りの少ない道路に居た(というか轢かれた)
 ・・・なのに、路地裏からでも分かる大勢の人の声。
 場所移動してるじゃん。テレポート?私テレビに出れる?
 これも置いておこう。非科学的過ぎて理解が追い付かない。
最後、・・・ここどこ?
 人の声がするってことは少なくとも田舎じゃないだろう。
 天を仰げばビルや建物に侵される青空が見えた。
 ・・・これは解けそうだ。人に聞けば分かる。

人に此処が何処か聞いて、家に帰れる距離なら手元にあるお金で帰ろう・・・・・・家があるか分からないけど。帰れないほど遠いなら警察に行こう。
一度も行ったことないから怖いけど、そうも言ってられない。
・・・よし、相変わらず不安定に心は揺れるけど問題の整理はできた。
路地裏から出て人に聞こう・・・人は怖いけど・・・
ホコリやゴミが付いた鞄をパンパンと手で掃う。
食パンは野良猫や野良犬辺りが処理してくれることを願う。正直もう食べる気がしない。
だって地面にぺったりくっ付いてる。3秒ルールってレベルじゃない。
服に付いたホコリとゴミを掃い、鞄を胸の前でぎゅっと抱き締める。
路地裏から出た。

・・・・・・・・・・・・・・・・・ザワザワザワ
ヒソヒソ・・・・・・・キャッキャッ・・・ザワザワ・・・・・・

(・・・ううううううわあぁああああ・・・)
ひ、ひ、人いっぱい居る・・・こ、こここ怖いぃ・・・!!
老若男女問わずぞろぞろぞろぞろ。
まるで一つの生物のように動く。色んな服や髪色で色が混ざる。
まるで極彩色。迷彩だ。
ひ、ひぃ・・・こ、こんなに都会って人たくさん居るの?
地元も高校もこんなに人居ないよ!私が外出しないだけ?
でも・・・ここがどこだか分かんないし・・・
いや、いやいやでもここがどこか分かんなくても迷う・・・
違う違う!迷ってるんだから迷っても良いんだ!
あれ?私何言ってるの?ゲシュタルト崩壊。
迷ってるから人に聞いて、そこでまた迷っても人に・・・あ、無限ループしてる。

路地裏から出たのはいいものの、あまりの人口の多さに足が竦んで動けない。
ガクガクガクガク・・・まるで生まれたての小鹿だ・・・
はは、笑えないな・・・怖い怖い怖い怖い人が怖い
弟よ・・・今までごめん・・・対人恐怖症もどきと軽視してた。
私も人が怖いよお揃いだね!そんなお揃い要らなかったけど。
とりあえず一歩だけ、爪先の先っちょだけでいいから!
一歩だけでもいいから動くんだ自分、でなきゃ何も始まらない。
フレーフレー私!頑張れ頑張れ私!
ハッ!一歩って考えるから躊躇するんだ・・・むしろ走り出す勢いで!私に足りないのは勇気!
一見頭の痛い子のようだけど、スタンディングスタートを決めるかのようにポーズをとった。
(―――いざ、出陣!)
意を決し、勢いよく地面を蹴り上げた瞬間、何の運命か因果かタイミングよく人とぶつかった。

「うわっ」「うひっ」

(・・・・・・・・・・・・・・こけた!いや人にぶつかった?!)
い、痛い・・・勢い余り過ぎてぶつかって尻餅ついた・・・!
ところで何で尻餅って尻餅って言うの?お尻がお餅みたいだから?お餅ふたつ?
それなら桃の方が酷似しているような・・・って違う!
(ああああああ謝らなきゃ・・・ッ)

「あっ、あの・・・!!!」

すみませんでした!と謝罪しようと顔を上げる。
どうして私がぶつかってからコメントが無いのが気になった。
鞄も手放してしまって不安・・・・・・・・・・・だ・・・・・・

「ん?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・思わず口を大きく開けてしまった。
情けないことこの上無いが、この場合は仕方ないと思う。
・・・・・・・・・・・・き、金髪・・・!ふ、ふ、不良さん!?
金髪=不良=カツアゲ!!?
う、嘘・・・な、なんて人にぶつかってしまったんだ私は。
また私死ぬの?また私轢かれる?・・・バイクで轢き回しの刑!!?
ぞぞぞっと顔から血の気が無くなるのを感じた。多分今の私の顔は真っ青だろう。
金髪でサングラスをしたバーテン服(何でバーテン?)の男人の隣に立っていた、色黒でドレッドヘアーの男の人がやれやれと言ったように近付いて来る。

「ひっ!」
「(『ひっ』って・・・よほど静雄とぶつかったのが怖かったんだな)
 お嬢ちゃん大丈夫かぁ?いつまでも地面に座ってねーで、ホラ、」
「・・・ッ?」

すっと出された手に身を丸めて驚く。
・・・どうやら殴られることは無い、・・・のかな?
な、何か立てって事言ってた?ような・・・立てって言われたのか!

「ぅあっ、は、はい!たた、立ちました!」
「あ、ああ・・・うん」

手を差し出していた人はその手をひいた。
何だかドレッドヘアーの人の顔が引き攣っているように見えるけど・・・とにかく金髪の人に謝らないと!
バッと体を金髪の人の方向へ向ける。
(早く謝罪しないと・・・小指切られる!!!)

「すみませんでしたっ!!ぶ、ぶつかって・・・その・・・わわ、私・・・・・・お、お怪我ありませんか大丈夫ですか!?」
「あ?ああー・・・怪我は無ぇよ・・・!ってか手前が怪我してんじゃねぇか!!」
「ひぃっ!?」

こここ、声がが大きいですぅううう怖いってば!
反射的に両手を頭に抱えた。怖い!この人怖い!
チラリ、と腕と腕の間から金髪の人を見る。
大きな声と一緒に、私の足を指さしていた・・・怪我?

「あ、血だ・・・」

私の膝が、皮が膨大にめくれて怪我の所から血が流れていた。
・・・普段の私なら大騒ぎして号泣ものだけどトラックに轢かれて内臓もぐちゃぐちゃ、血もデロデロを味わったら感覚麻痺するわ・・・。
これだけじゃもう泣かない。でも痛いものは痛いな。
自覚すればジワジワと滲むように鋭い痛みが身を襲う。
痛い・・・やっぱり号泣はしないけど涙が出る・・・

「あーもう、そんなくらいで泣くな・・・ほら、これで血拭け」

金髪の人が、ポケットから質素なハンカチを取り出した。
言葉無しにフルフルと首を振ってお断りする。
けれど、無理矢理に手に握らされた。
(おおおおおお男の人にふふ、触れ・・・っ!!)
金髪の人に触られた場所が緊張でどんどんと冷たくなっていた。

「い、いいんですか・・・?」
「良いから拭け。靴下に血ぃ付くぞ」
「ぅぁっ、は、はい!」

デロデロと血が流れる。流れる。
・・・本人に良いって許可貰ったんだから、良い、よね・・・?
チラ、と金髪の人を下から覗き見た。
(・・・・・・顔、怖・・・)
とりあえず血を拭こう。

「トムさん、絆創膏持ってねぇっスか?」
「ん?俺は・・・持ってねぇわ」
「そうっスか・・・」

・・・ん?ト、トム・・・さん?が、外国人さん?!嘘・・・見えない。
バリバリの日本人の顔なんですが・・・突っ込まないでおこう。

「おい」
「へっ?!な、何でしょう・・・?」
「手前は、絆創膏持ってるか?」
「え・・・と、」
鞄の中身を思い出す・・・・・・確か、持って無い。
「な、ない・・・・・・です」
「そうか・・・ちゃんと消毒して絆創膏はれよ?」
「・・・ッ!」

こ、この人・・・!良い人っ・・・!ほわりと心が温かくなった。
私は、この人を怖がってしまったのか・・・こんなに良い人なのに!
そう思うと申し訳なく感じる。

「だ、大丈夫です。あんまり痛くない・・・ので」
「・・・ホントか?嘘言ってんじゃねぇよな?」
「う、そじゃない・・・です」
「そっか」

ずっと無表情、というか仏頂面だった金髪の人は初めてニッと明るい笑顔を見せた。
〜〜〜〜〜ッ!良い、人!
金髪の人がこんなに良い人なら隣の人もきっと良い人なんだろう。
そうだ、この人達にここがどこか聞こう。
(きっと答えてくれる・・・と、いい・・・)

「あの、此処って何処、ですか・・・?」
「どこ、って」
「フツーに池袋だよな、静雄?」
「はい」

静雄、さん?金髪の人、静雄さんって言うのか。
それでドレッドヘアーの人が、トムさん。
・・・・・・ん?池袋・・・池袋?!少し遠い。手持ちのお金では足りない。
(じゃあ、警察、行かないと・・・)

「なんでそんなこと聞くの?あ、もしかして迷子か?」
「えっ、そいつはマズいっスね・・・」
「あ、大丈夫です!!聞いただけで迷子じゃないです!」
「ならいいんだけどさ」

ブンブンと手を振って、否定の意。
これ以上善良な二人に迷惑を掛けたら駄目!・・・あ、そうだ。

「こ、これ・・・ハンカチ・・・」
「ああ、それな。もうあげるわ」
「でも・・・」
「大人に甘えとけって、な?」
「・・・・・・・・・・」

トム、さんにも言われハンカチを握り締める。
静雄、さんのなのに良いのかな?貰ってもいいのかな・・・?

「・・・あ、あの・・・じゃあ・・・貰います」
「おう」
「あ、静雄 次の時間迫ってきてるべ」
「マジっスか」

次の時間?お仕事かな?
二人共、静雄さんはバーテン服だしトムさんはスーツだ。
絶対お仕事だったんだ!私、お仕事の邪魔を・・・・・・!!
体を90度に曲げ、頭を下げた。

「ごめんなさい!お、お仕事の邪魔をしてしまって」
「あ、譲ちゃんの所為じゃないって。こんくらい大丈夫だからさ」
「んな気にすんな、差し支える程じゃねぇから」
「・・・・・・すみませんでした」

迷惑掛け過ぎた。私、消えなきゃ。
二人の声も聞かず顔も見ずに、私は鞄を拾い上げハンカチを握りながら人混みに突入した。
二人の声が聞こえた・・・・・・・・・涙が出た。
(私の存在って、なんて鬱陶しいんだろう・・・!)



* * *



――――ガタン
痛い、背中打った。その痛みに自分がベッドから落ちたのが分かった。

「・・・・・・・・・・・・・ぅ、ん?」

毎日見慣れている天井が、そこにあった。
ここは・・・私の部屋?何で・・・?夢だったのか?
トムさんも静雄さんもトラックに轢かれたことも死んだことも・・・全部私の妄想だったのか?
前触れもなく膝に鋭い痛みが走った。
視線を寄越すと、皮がベリっと剥けている。
信じられないような目でそれを見ていたら今度は手に何かの感触があった。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハンカチ、だ)
とても質素な、無地の。赤い血が染み込んでいるハンカチだ。
次に制服を見た・・・注意深く見なきゃ分からないけど薄汚れている。
それもホコリやゴミばかりで煤けたような。
ゾクリ、と鳥肌がたった・・・何だ、コレは。
夢か。アレは夢だったのか。いやもうコレが夢なのか?
(分からない、分からない・・・)

「お、姉・・ちゃん・・・?」
「!!!」

双子の弟のか細い声がドアの向こうから聞こえる。
生まれつきビビリ屋な私だが、それには異常に驚いた。
・・・弟の声が、何年振りかのような懐かしさだ。

「ベッドから落ちる音、して・・・・・・大丈夫・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・うん、大丈夫だよ」
「そっ、か。良かった・・・遅刻するよ?」
「分かった。すぐ行く」

そう返事をすれば、弟がドアの前から去っていく音が耳に届く。
・・・・・・・・・・・・・・・・アレは夢じゃない。けど夢のようなもの。
実際にこの膝の怪我と血の付いたハンカチがいい証拠だ。
私はこんなハンカチを持ってなかったし家族も持って無い。
膝もいつ怪我したんだ。まるで膨大にこけたような怪我を。
気味が悪くなってくる・・・私は、一体何の体験をしたんだ?

トムさん、静雄さん、トラック、死

・・・・・・・とりあえず、ハンカチ買わなきゃ。
今度、もしも会ったらすぐに渡せるように。
私の血で汚したハンカチの代わりに、新しいハンカチを買って御礼しなきゃ。


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