ss | ナノ





「なまえ」

「はい」

「愛してる」

「はい」


このようなやり取りが五分の間に何度か続いた。なまえと呼ばれた女性は、その恥ずかしくなるような台詞を吐き続けている男の膝の上にちょこんと座っている。青い作業服を着ている男は、彼女を腕の中に閉じ込め、柔らかい髪に顔を埋めながら囁いているわけなのだが、その状態に慣れてしまっているのか、なまえの表情に照れは全く見られない。ある意味、凄いと言える。
ちなみにここはニューヨークの廃工場。作業服の男――グラハムが率いる愚連隊の溜り場とも呼べる場所だ。工場内には愚連隊員が普通に談話しているのだが、誰一人元締めとその恋人の事を気にする者は居ない。彼らもまた、慣れているのだろう。



「…ねぇ、グラハムさん」

「何だ、愛しいなまえよ。お前の話なら悲しい話でも楽しい話でも何だって聞くぞ?」


いつにも増して躁状態の遥か上を歩んでいるハイテンションなグラハムの声を聞きながら、なまえは苦笑する。
気を取り直して。



「グラハムさんは、私のどこを愛してるの?」

「全てだ」

「…………」


まさかの即答。なまえだけでなく工場内全てが静寂に包まれる。数秒間の沈黙の後、グラハムの愉快な仲間たちはよくわからない汗を流しながら思い思いの会話に戻った。
続けて、グラハムも同じように質問を繰り出す。


「なまえ、お前は俺のどこが好きでここにいるんだ?」

「全部に決まってるじゃない」

「………」


彼女も、即答。
またしても周囲が静寂に包まれる。無言というある意味厚い膜を破ったのは、他でもないグラハムだった。


「楽しい話をしよう!」


いつもと一文字も変化することのない出だしから始まる長い長い台詞。しかも微妙に惚気が織り交ぜられている台詞。それをなまえは嬉しそうに聞き、周囲は耳を塞ぎたくなるような衝動に駆られる。それは煩いからではない。
聞いている方が、恥ずかしくなる言葉ばかりだからだ。



「なんだかんだ言って、あの人達ってかなりラブラブですよねシャフトさん」

「ああ。なまえさんのお陰で俺達にかかる被害が大分減ったしぐべぁ」


予告もなく飛んできた小さいレンチが頬に直撃し、コンクリートの床に倒れるシャフト。
彼と話していた相手がレンチの飛んできた方向を見ると、予想通り凶悪な笑みを湛えたグラハムがゆらゆらとそこに居た。片手には愛用の大きいモンキーレンチ、片手にはなまえの手を握って。


「何か言ったかシャフト」

「何も言ってませんついに幻聴ですかグラハムさん頭は大丈夫ですかかかかかか」


シャフトの首をレンチで挟み締め上げるグラハムの表情はそれはもう楽しげで。
なまえはその様子を眺めながら、小さく笑った。







今日も平和です







少なくとも、シャフトだけは別かもしれないが。





END
ユラ様へ捧げます。



[] | []

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -