トリックオアトリート、トリックオアトリート どこかから陽気なこどもたちの声が聞こえる、ああそうだ今日はハロウィンだ。
悪戯っ子たちの歌が聞こえる中、彼はじっとわたしを眺めた。 今日はハロウィンだからこの人も悪戯を考えているのだろうか。 疑問が口をつくよりも先に大きな手の長い指が、わたしの服の裾を摘まんだ。
「で、さあ。リオンは帰る場所あるの? その格好からしてなさそうなんだけど」
わたしの隣に腰を下ろしたクリスがのんきな口調で言う。 その格好とは、わたしの上着の下を指しているのだろう。
返り血で真赤に染まった、白かったシャツ。 真赤とは言い難い、既に血液はぱりぱりに乾いて、焦げ茶色のような感じになってしまっている。凄く鉄臭いけど、もう慣れた。
「もしないならさ、僕らのネバーランドへ来てみない? きっと退屈はさせないと思うよ」
クリスは、多分気付いているんだ。 わたしが何をしたか気付いていて平然としてる。 ほら近場で警察が騒ぐ音が聞こえているのにこんなにも落ちついてる。
疑問が顔に出てしまっていたのか、クリスは突然ケラケラと笑いだした。 笑われたのは癪だったけれど、どうしてわたしに対して普通に接していられるのか、聞いてみたら。 クリスはにんまりと笑顔を浮かべてこう答えた。
「君が何をしていようと関係ないさ。だって、僕の方が何十倍も何百倍も人を殺してるから!」 「そっか、そうなんだ、じゃあ、仕方ないね。わたしは殺さないの?」 「殺さないよ、だって僕らせっかく友達になったんだから殺すわけないじゃないか! あ、でもその代わりネバーランドへ足を踏み入れたらもう二度と帰れないかもしれないよ、それでも来る?」 「うん。連れてって、クリス」 「了解了解!それじゃ、僕の手を取って。絶対に離しちゃだめだよ?――― 一名様、夢のネバーランドへご案内!」
クリスはわたしの手を引いて何処かへ向かった。 温かく大きな手を、ぎゅ、と握ると、クリスも握り返してくれた。 わたしは一人っ子だったけど、お兄さんがいたらこんな感じだったのかもしれない。
―――運命の歯車が動き出す。
破滅へ向かって。
狂々狂々
悲劇で幕を上げた喜劇の戯曲は。 まだ
始まったばかり。
(さぁ、はじまった)
to be continued... 07.1031.
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