1.なでなで | ナノ


なでなで




「つい今しがた、ひどくカッカした官兵衛君とすれ違ったよ。君のことをどうこう言っていたようだけど、謀叛でも起こされる前に僕から適当に宥めておいたほうがいいかな?」

 謀叛、などという物騒な言葉をしれっと使いながらも、実のところ大して心配もしていなさそうな友の口ぶりに、秀吉は小さく笑んだ。

「官兵衛か……あれは、相も変わらず愉快な男よ」

 軍師として豊臣に召し抱えられてから、まだそれほど月日も経たないというのに、我が物顔で城内を闊歩し、秀吉の右腕たる半兵衛はじめ名だたる重鎮、果ては主君の秀吉に対しても同輩のような不遜な態度を自重しない。

「先刻、我を呼び止めて『今日は誕生日だから、何かくれ』と言ってきた」

「……それはまた、なんとも彼らしいというか」

 半兵衛は肩を竦めて苦笑する。

「それで要望には応えてあげたのかい?」

 問いに頷くと、秀吉は徐に腕を伸ばし、鉄鋼さえ砕くその手を、ぽん、と軽く友の頭に乗せた。

「こうして、『大儀よ』と……クッ」

 そうしてやった瞬間の、官兵衛の真っ赤な顔を思い出し、堪え切れずに笑う。


――なッ……ガキじゃないんだぞ……ガキじゃ!! お前さん、小生を馬鹿にしてるのか……!?


 秀吉につられたように半兵衛も笑った。

「そうか……フフフ、いずれ日ノ本を統べる君に頭を撫でられて、労いの言葉まで貰えるなんて、この上ない誕生日祝いだね」

 そう言いながら微かに仮面の奥の目を妖しげに細める。

「――まあでも、彼は予想以上に役に立ってくれてるし……もっともっと労ってあげてもいいのかもしれないよ。彼が満足するまで念入りに……ね」



   *.☆。.゜☆゜。☆゚*



「――と、我が友が言うのでな」

 夜、官兵衛を呼びつけた。
 呼びつけに応じ、再び秀吉の前に姿を見せた官兵衛は、昼間の経緯から不機嫌を装っていたが、前髪の隙間から覗く目には隠しきれない期待が宿っていた。

 ――秀吉め、ようやく小生にちゃんとした祝いを贈る気になったのか?

 ……とでも言いたげに。

 もっともそれは、この部屋に来た最初の内だけだったが。

「……確かに半兵衛の言い分は正しい……正しいが、なんでこうなるんだ……ッ!?」

 飽きもせずに抵抗を試みる両手を片手だけで捕まえる。

「頭を撫でる程度では不満なのだろう……?」

「っ……な、何をしようってんだ……」

「何を為すかなど、聞かずとも解ろう?――『ガキではない』のであれば」

 軽々と抱え上げ、そのまま隣の間へゆき、用意させておいた褥の上に下ろしてやる。

「な、なぜじゃあぁ……ッ!?」

 俯せにし、片手捕えた両腕をを背中に押しつけるようにする。

「や……やめろ、秀吉……!!」

 どう足掻いても、体格と力で圧倒する秀吉をはね除けることは出来ないということならば、もう骨身に染みている筈でありながら、官兵衛はじたばたともがくのを止めない。

「官兵衛よ、我にどこを撫でて欲しいのだ……?――ここか?」

「な……!」

 衣の上から臀部を掴むようにして捏ねる。

「さ、触るな……ッ、小生にそっちの趣味は無いと何度言ったら……!」

「案ずるな、今宵はただこの手で撫でてやるのみよ」

 尻に触れていた手を滑らせ、敷布団と官兵衛の体の間に潜らせると、手探りで袷を見つけ、内側に入り込ませる。

「う……ッ……!」

 胸板を直接辿り、飾りを指で潰すようにして執拗になぞると、びくびくと肩を揺らす。

「――ここは、撫でて欲しかったようだな」

「こッ……こういうのは、普通、撫でるとは……言わない、だろ……ッ……」

「そうか……ではこうか?」

 帯を緩ませて隙間を拡げ、胸を弄っていた手を下げていく。

「ッ……よせ……!」

 下帯の上から股座を撫でると、そこはすでに確かな熱を帯び始めていた。

「……く、そッ……」

 自身の状態を悟られたことを恥じたのか、官兵衛は布団に顔を押し付けて呻いた。

 俯せている為に顔は見えないが、羞恥と情欲に赤く染まった首筋を眺めるだけでも十分に愉悦を感じた。

「……我に撫でて欲しかろう? 官兵衛」

「違……ッ……」

「遠慮など、お前らしくもない」

 下帯を取り去り、直にゆっくりと撫で回す。それまでとは違い、ひたすら緩慢に、触れるか触れないかという程度の生温い触れ方で。

「……っ……」

 布団に顔を埋めたまま、生殺しのような刺激に耐えている様子の官兵衛だったが、当人の意思を裏切るように、もどかしい責めに耐え兼ねて腰が揺れ始める。秀吉の手に欲望を押し付けようとするように。

 だが秀吉は官兵衛の腰の動きにわざと反するように手を動かし、強い刺激を与えようとはしない。

 しばらくその状態が続いた後――。

「ひ……でよし……」

 くぐもった声が、弱々しく呼び掛ける。

「――……もっと、ちゃんと……撫でてくれ……」

 秀吉は腕を掴んでいた手を離すと、ついに自尊心を曲げて懇願を口にした官兵衛の後ろ頭をそっと撫でた。

「――大儀よ」

 直後、焦らし続けていた官兵衛のものを、しっかりと掌に包み上下に擦り始める。

「……ぁ……」

 望んでいた刺激を受け、控えめだった腰の動きが大きくなる。恐らくは無意識に。

「ぁ……ぁ……ッ」

 とうとう声を抑えることすら忘れてしまっている様子だった。

「ぁ……ッ……ぁぁッ……!」

 限界を迎え、吐き出された精が秀吉の手を汚すまでにさして時間はかからなかった。

 官兵衛は射精後、しばし伏したままハアハアと肩で息をしていたが、ややあってから身を返すと、悠々と懐紙で手を拭っていた秀吉を見上げ、睨み付けてきた。

「――秀吉……この鬼畜変態外道め……ッ!」

「何を憤る? 我からの祝いが気に食わぬか?」

「憤って当たり前だろうがッ!! それとも何か?豊臣じゃあ、家臣の誕生日はこうやって祝うのが普通だってのか……!?」

 たった今、ことを済ませたばかりにも関わらず、うるさいほど威勢のいい官兵衛の様子を見やり、秀吉は妙な満足感を覚えていた。

 この男は何度力でねじ伏せ、屈伏させても、けして吼えることを止めない――だからこそ何度も屈伏させてみたくなるのだろう。

 まことに大儀なことよ――と心の中で笑みながら、至極真面目な顔で問いに答えてやる。


「否――お前だけだ、官兵衛」






《Happy Birthday...?》



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