5時限目の空






















始業のチャイムがなり、クラスメイトたちは次々と座席へと着く。
千石もそれに漏れず自分の席へと戻ろうとした時、視界の端で目立つシルバーアッシユの頭が動いたのを見つけて廊下へと出た。
同じクラスの亜久津だ。

次の授業は先生の長い話で眠気を誘う社会。
なるほど、今日は天気も良い事だしサボるつもりなのだろう。
教室へと戻る人並みを逆流して、いつもの階段へと向かう相手の広い背中を追いかける。
(ラッキーな事に先生には見つからなかった)



気づかれていないと思っていたが、人影の無い場所まで辿りつくと亜久津が振り向き、明らかに不機嫌そうに鼻に皺を寄せた。
「なんでテメーが付いて来てんだよ。」
ドスの効いた声で脅すが、千石には効かない。相手の威嚇などはもう慣れたものだ。
「たまには良いんじゃない?アレ、もしかして俺が居ると邪魔?」
眉を上げてお気楽そうに聞いてみる。
相手は断らなかった。



暗い階段から学校の屋上へと続くドアを開けると、目が痛む程の初夏の光が溢れていた。
誰も居ない屋上で、不良と二人。千石は小さく笑うと亜久津の吸う煙草の煙が風に乗って流れて行くのを見つめていた。

「ねえ、亜久津は外国に行きたいって思った事は無いの?」
「ガイコク?」
突拍子も無い話に、亜久津は思わず鸚鵡返しに返事をしてしまった。
そのまま数秒考えるも特に外国に抱くイメージは無かった。
「いや、別にたいした事じゃないけど。日本は、亜久津には狭そうに見えるときが有るからさ。」
千石の呟いた言葉を頭の中で反芻する。日本が狭い? 考えたことも無かった。
今まで不自由の無い暮らしはしていた、満足していると自分では思っていたが…それはただ「不自由ではないが、自由でもない」のかも知れない。


真面目に返事をするのも癪だったので、咥えた煙草を緩く噛んで校庭を見下ろした。
音楽室から聞こえる柔らかなピアノの音が眠気を誘う。
頭上に広がる青空を見つめると、吸殻を足元に落としローファーの踵で踏みつけた。
馬鹿馬鹿しい、今立っているこの場所こそが一番のリアルだ。
言い返そうと振り向くと、早々に昼寝を始めている千石が眼に入る。

舌打ちして、自分も隣に寝転ぶと眼を閉じた。
その時が来たら「ここ」を出るのも悪くない。遥か遠い地で自分を試すのも血が騒ぐ。


しかし、今はここが俺の未来だ。























2016/01/01
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