ボーン・チャイナの瞑想
























その男と対戦した時、僕には余裕なんて残っていなかった。

青学に敗れ、全国どころか関東への道さえも絶たれてしまった後に見るには、余りにも眩しすぎる輝きでその男は前に立っていた。
その後の試合は思い出したくも無い人生の汚点であるにも関わらず、今、僕は「その男」と休日を過ごしている。








まるで憧れた英国のティータイムのように、眼の前に置かれる愛らしい磁器に僕は眼を奪われる。
真っ白なボーンチャイナに、彼の学校を思わせるアイスブルー。
金の縁取りは格調高く、傷一つなかった。

召使いたちを全部払って、彼は僕の前で紅茶を飲んでいる。
「お前の好みが解らなかったから、無難なものにしたが…どうやら気に入った様だな。」
まるで時代錯誤のテラスルームに広がり満ちているのはアッサムの香りである事は間違いない、しかし、僕が足繁く通う紅茶専門店のそれよりも香りは細かく空気中に漂い、テラスの中で咲き乱れる薔薇の香りと混ざって僕を惑わす。


ここにあるものは全て、非現実的だった。
純銀のティースタンドや、ボーンチャイナの白、季節はずれに咲く花々、ガラスの天窓を通して差し込む日差しもまるで天使の贈り物のように完璧だった。
何よりも、満足げに笑っている相手の顔はフィルター越しに見ているようで僕を不安にさせる。
彼の発する言葉の一つ一つが、ティーカップから立ち上る湯気と共に消えてしまうのではないかとさえ思った。

どこからか聞こえる管弦楽の調べが、夢と現実の狭間の僕に纏わりつく。
ああこれはローエングリン
そう思いながら目の前の男を見たとき、僕は気がついてしまった。

僕は、こうなることを望んでいた。




あの試合で、僕たち聖ルドルフの夏は終わった。
しかし、夏の終わり、最後の夕日がとても眩しく地平線に沈むように、目の前の男は輝きを放っている。

僕が辿りつけない場所、僕が欲しかった物、地位と、名声と、眼に見えない様々な宝石。
それら全てをかき抱いた男の名前は、跡部景吾といった。

休日の日は翳り、夕闇が迫っていた。
暖かなテラスルームにも明かりが灯され、来るべき夜を待ち構えていた。
「跡部くん、また誘ってくれたりするんですか?」
わざとらしく、嫌味たっぷりに聞いてみる。
彼にもしその気があるのなら、必ず僕をまた誘うだろう。
彼の完璧なティータイムのセッティングを理解できる、数少ない人物に僕はなれる筈だ。


























2016/01/01
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