『番外編』
譲れないもの、変わらないもの2

 年二回ある球技大会、学校には来ても参加したことは一度もない、それは三年になった今年も変わらないけれど、一つだけ違うことがある。

 他の生徒達と同じように試合を観戦している。

「うるせえ……」

 クラスを応援する声援が体育館中に響き、まるで耳鳴りのように頭がガンガンする。

「何か言った?」

 この騒音の中でどうやら独り言は耳に届いたらしい、こうなった張本人の真子が振り返った。

「何でもねえよ」

「何か……怒ってる?」

(誰のせいだと思ってんだよ)

 三十分前、今年も適当に時間を潰すつもりだった俺の前で、テツが真子に向かってこう言った。

「真子ちゃん、俺バスケだよっ! 応援しに来てよー」

「えー。一回戦で当たるのってうちのクラスだよー。敵は応援できませんっ」

「あーひでえ! 俺、真子ちゃんの為ならシュート、バンバン決めちゃうのに」

「じゃあ……クラスの応援しながら、こっそりてっちゃんの応援もするね!」

「よっしゃ! マジで真子ちゃんのために頑張る!」

「あははっ」

 二人が楽しそうに言葉を交わす様子を冷めた目で見ていると、急に振り返ったテツが肩をグルグル回しながら言った。

「お前は何出んの?」

「はあ? 出るわけね……」

「雅樹はサボり、でしょ? 球技大会なんてかったるいなんて言ってるけど……、本当はバスケが出来ない負け惜しみなんだよ」

 拗ねた口調の真子が頬を膨らますと、丸い顔はますます丸くなる。

(まだ怒ってんのかよ……)

 授業をサボることどころか、学校を休むことさえも気にしない俺と、毎日真面目に学校に来て授業を受ける真子、二人の間にある大きな差は時々ケンカの原因になった。

「あれ、真子ちゃん知らないの? 俺達、中学ん時さバスケ部だったんだよ。って云っても雅樹は二年の夏にケンカして辞めたんだけどねー」

「え!? てっちゃんと雅樹って同じ中学だったの?」

「言ってなかったっけ? ついでに言うと小学校も同じ。腐れ縁ってやつだよ……っと、やべえ……そろそろ試合始まるわ! じゃあ、真子ちゃん絶対応援しに来てよ!」

「うん! 頑張ってね!!」

 ジャージの上着を翻し、走って行くテツの後ろ姿が見えなくなると、真子もヨイショと掛け声をかけて立ち上がった。

「じゃあ、私も行くね。雅樹は……ずっとここにいるんで――――雅樹?」

 黙って立ち上がった俺に真子が怪訝そうに首を傾げる。

「試合、見ればいいんだろ」

 まるで真子の言うことを聞いているようで、癪に障った俺はつい無愛想に答えたが、それでも真子は嬉しそうに顔を綻ばせた。

「もう! 見るんじゃなくて、応援するんだよ?」

 ちゃっかり余計な一言を云った真子を無視して体育館へ向かった。

 試合が始まると、体育館の歓声のほとんどは一人に集中した。

 シュートを決めるたびに、あちこちから黄色い声が飛ぶ。

「すごーい! てっちゃーん!!」

「テツせんぱーーーい!」

 そして周りと同じようにシュートを決めるたび、手を叩いて跳ねているのは隣にいる真子だ。

 試合が始まってすでに10ゴール以上決めているテツは、シュートを決めるとハイタッチを交わしながら俺達の前を通過する。

「真子ちゃん、見てた?」

「うんっ! 頑張ってぇっ!!」

 シュートを決めるたび、わざわざ真子にアピールするテツもテツだが、そのたびに嬉しそうに笑い口の横に手を当てて、大きな声援で送り出す真子に腹が立っている。

「お前、自分のクラス応援すんじゃなかったのかよ」

 ムカつきついでに言ってやっても、真子は少しだけ困った素振りを見せたが、あっさりと言った。

「だって……てっちゃんがいたら、うちのクラス勝てるわけないし……」

 確かに点差は開くばかりで、勝ち目はなさそうだ。

(まあ、勝とうが負けようが俺にはどうでもいいけどな)

 騒音のような歓声にうんざりして、さっさと屋上へ逃げようと思った俺は、真子の放った一言に足を止めた。

「てっちゃんって後輩にも人気があるだねー。カッコいいもんね! ねえ、やっぱり中学の時もモテてたの?」

 無邪気な顔をして聞く真子にムッとした。


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