『番外編』
Be My Valentine12

 こういうのは男の人に付けて貰うと喜びも倍になると思うのに……。

 心の中で愚痴を呟いて、仕方なく自分で付けたネックレスは少しひんやりとしたけれど、直ぐに肌に馴染んだ。

 指先でネックレスに触れながら、これが最後の質問のつもりで聞いた。

「今日の彼女、もしかしたら……」

 女の直感、何か証拠があるわけでもない、ただ感じただけだから強く問い詰めることはしたくなかったけれど、雅樹は少し間を置いてから答えてくれた。

「今日貰ったやつはそういう意味だったらしい。だから返した」

「返したの!?」

「返すだろ、普通。貰っても困る。真子以外の女から特別な気持ちの込められた物を貰う意味がない」

 女心に聡いのか疎いのか、真剣な顔をする雅樹にドキドキしてしまう。

「バレンタインなんて今さらとか言ってたくせに」

 照れ隠しもあってつい憎まれ口を叩いてしまったのに、雅樹は気にも留めない様子でテーブルの上の箱に手を伸ばした。

「俺がそんなこと言ったって、お前は何かやると思ってたさ。昔からお前は俺の言うことなんて聞きゃしねぇ。弁当だっていらねぇつったのに、毎日毎日作ってきやがって、おかげで毎日学校行くハメになったんだ」

 愚痴りながらハート型のクッキーを食べる雅樹の横顔は、屋上で弁当を食べていた時のような仏頂面。

 でも次の一枚を手に取ろうとしているのを見て思い出した。

 作ったお弁当はいつも空っぽ、上手とは言えない料理も残したことはない、きっとクッキーが詰まった箱も今日中に空になるような気がする。

「美味しい?」

「ん。まぁまぁ」

 何度聞いたか分からない素っ気無い返事も、それがいつも通りの雅樹だからそれで十分。

「私にも一枚ちょうだい」

「太るぞ」

 そう言ってニヤリと笑う雅樹、言われて頬を膨らます私。

 十年目の初めてのバレンタイン。

end

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