緋の邂逅 第十一話
 昼休みが終わり、予鈴が鳴ると心愛の教室の外でどよめきが起きた。

 その騒ぎの大きさに紅蓮も、紅蓮を取り巻くようにいた女子生徒も、顔を上げると様子を窺うように教室の外に視線を向けた。

「えーっ……。ちょっと、あれ誰?」

 いち早く気付いた一人が教室の入り口に姿を現した二人を指差した。

 そこには手を繋いだ心愛と金髪と青い目の青年が親しげに笑顔を交わしている。

 二人の姿に気が付いた生徒達が、次々に驚きの声を上げた。

「なに!? 誰? 誰なの!?」

 紅蓮よりも少し年上に見える金髪・碧眼の青年は、紅蓮に負けず劣らずの美貌の持ち主で、その青年と心愛のツーショットに教室にはさざ波のようにざわめきが広がっていく。

 無関心だった紅蓮もあまりの騒ぎに振り返ると、二人の姿を目にした途端、表情を強張らせた。

 信じられないような物を見るような顔で二人の姿を見たまま、紅蓮は息をするのも忘れたかのように微動だにしない。

 だが誰一人としてそんな紅蓮の様子に気付くことはなく、心愛の隣にいる青年に目を奪われている。

「じゃあね。学校が終わる頃また来るからね」

「うんっ!」

 デリクは心愛の頭を撫でると優しく微笑んだ。

 二人は名残惜しそうに少しの間、黙って視線を交わしていたが、デリクは向きを変えると人波をかき分けるように歩いて行く。

 心愛はデリクの後ろ姿が見えなくなるまで見送ると、教室に入り自分の席に座って次の授業の準備を鼻歌交じりに始めた。

「心愛ちゃん! 今の誰なの?」

 美恵子と香奈は驚きを隠さずに心愛に詰め寄った。

 教室にいた他の全員も話には加わろうとはしないが、耳を澄まして心愛の言葉を待っている。

 心愛は少しもったいぶったように二人の顔を見つめようとしたが、溢れ出る喜びは隠し切れず、すぐに口元を緩ませてしまう。

「帰って来たの!」

「って……もしかして本当に!?」

「うん! デリクお兄ちゃんねすごく遠い所に行ってて、私の所に戻ってくるのに時間掛かったんだって!」

 心愛の告白に教室はシンと静まりかえる。

 だがすぐにそれぞれが思い思いに心愛の話が本当だった事に驚き、デリクのような人だったことに羨望の眼差しを送った。

(待ってて良かった!)

 心のどこかであれはすべて自分が作り出した夢かもしれないと疑うこともあった。

 周りの大人達は心愛の話を一切信じることはしなかったし、あの日以来本当に幻だったかのように、パタリと姿を見せなくなったからだ。

 心愛は生まれてから一番幸せな時を噛みしめていた。

 その騒ぎの中で紅蓮が教室から姿を消したことは、授業が始まるその瞬間まで誰一人として気付かなかった。

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