『姫の王子様』
姫の王子様 P1

 艶っぽい濡れた瞳は髪と同じ薄茶色。

 濡れた前髪の間から射抜くような鋭い眼差しを向け水に濡れたシャツは肌に張り付き胸元がチラリと覗く。

 手には濡れた携帯を手にしている。

 最近発売された防水携帯の広告が駅ビルの壁にでかでかと貼られ道行く人を見下ろしている。

 その濡れた肢体を惜しげもなく披露しているのは二枚目の俳優でも人気アイドルでもなかった。

 人気モデルのヨウ。

 ファッション誌だけではなくCMにも起用され女性誌では特集記事も組まれる程の人気ぶり。

 長い手足に異国の王子を思わせるような薄茶色の髪と瞳。

 男のくせに妖艶な瞳がまるで自分だけを見つめているようなそんな錯覚さえ起こさせる。 

(あれじゃ何の広告か分からないよ)

 駅前のファーストフード店の中からでも一際目立つその広告を見上げる事が出来た。

 道路に面した席に座ってシェイクのストローを噛み潰しながら恨めしそうな顔でその広告を見上げている。

 岡山珠子16歳。

 この春高校二年になったばかり。

 今日は一ヶ月と9日ぶりの彼氏とのデート。

 だが待ち合わせ時間からもう20分も過ぎているのに一向に姿を現さない。

 さっきからテーブルの上に携帯を置いて時計ばかりを気にしている。

(絶対遅刻しないって言ったのに!)

 昨夜4日ぶりの電話が掛かってきたと思ったら開口一番。

「明日暇だろ?映画行こうぜ。2時くらいに駅前な!」

 珠子の都合もお構いなしに一方的に話をする。

「待ってよ!私にだって予定くらいっ」

「あるの?」

「ないけど…」

 久しぶりの電話だっていうのにもうちょっと何か言ってくれてもいいのに…。

 もともと幼馴染みだったせいか付き合い始めてもいつもこんな感じ。

 その上向こうは学生の珠子と違って超多忙でデートどころか顔を合わせる事もままならない。

 デートの遅刻もドタキャンも一度や二度ではなかった。

「あーぁ…今日もダメかなぁ」

 諦めの色が濃くなって来て残り少ないシェイクを一気に吸い込む。

 ズズッと最後まで吸い込んだ所でバンバンッとガラスを叩く音がして顔を上げた。


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