『拍手小説』
も3-2

「悪い、少し仕事があるんだ。昼までに終わらせるから何が食いたいか考えとけよ」

 日曜日の朝、目が覚めるとすでに起きていた和真が書斎から出て来て声を掛けた。

 リビングに一人残されたかのこはテレビを見ることにしたがそれも一時間ほど経つと飽きてしまった。

(ふぅ……つまんないな)

 昼に食べたい物かぁ……と考え込んでいたかのこは急にいい事を思いついて書斎にいる和真に声を掛けると外へ出掛けた。

 いつも外食ばかりでは……とかのこは自分で作ろうとスーパーへ来た。

 といっても料理はお世辞にも上手とはいえないかのこ、しかも料理本もない状態で作れる物は限りなくゼロに近い。

 何を作ろうと考えても何も浮かばずカゴを持ったままスーパーをウロウロする。

(簡単だけど美味しいものがいいよね)

 色々考えているとうなぎの蒲焼が目に入って立ち止まった。

「うなぎなら……」

 ご飯を炊いて乗せるだけしかもレトルトのカレーより見栄えがするかも! とかのこはうなぎを手に取った。

 我ながら名案と喜び勇んで和真のマンションへと戻った。

 帰ってからすぐ昼食の支度を始めたかのこが準備を終える頃、和真は書斎から出て来た。

「おい、昼飯自分で作るって本気か?」

「もうバッチリ! 座って待ってて!」

 訝しそうな視線を向ける和真に向かってかのこは胸を張った。

 かなりの不安はあるが和真は渋々ダイニングのテーブルに座って待つことにした。

 すぐにお盆にお皿を載せて戻って来た。

「ここは食器がなさ過ぎだよ!」

 完璧だと思っていたのに最後の最後で詰めの甘かったかのこは丼がないことに気付かずに白いカレー皿にうな丼を盛りつけた。

(ご飯はちょっと柔らかいけど……)

 それでもきっと美味しいに決まっていると自信を持って和真の前に出した。

「…………」

 目の前に置かれた皿に和真は絶句した。

 しばらく皿を眺めていた和真は顔を上げるとかのこを見た。

 かのこが少し得意げな顔をしているのを見て和真は箸を手に取った。

「なぜ……うな丼?」

「う、うなぎは体力が付くじゃないっ」

 まさかこれが一番簡単だったからとは言えず取って付けたような適当な理由を口にした。

「ほぉ?」

「仕事が忙しいみたいだし和真も疲れてるんじゃないかなぁと思って」

「疲れてる……ねぇ?」

 チラッとかのこを見ると和真は可笑しそうにクスッと笑った。

 自分の分も準備しながらかのこは何が可笑しいのか分からなくて首を傾げた。

「昨夜はアレだけじゃ不満だったようだな。お言葉に甘えてしっかりと精をつけさせてもらうかな」

「えっ……?」

 箸を持ったかのこの手が止まった。

 目の前に座る和真がニッと口の端を上げた。

「今日一日ベッドから出られると思うなよ?」

 その言葉にやっぱり詰めが甘かったとかのこは顔を引き攣らせた。

end

―47―
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