『拍手小説』
も2-2
新しくオープンしたイタリアレストラン。
緑豊かなガーデンに面し秋の穏やかな陽光が燦々と降り注ぐサンルームのような店内。
真新しい椅子とテーブル、イタリアらしい店内の装飾品が壁を彩っている。
ランチタイムで混み合う店内、四人掛けのテーブルに座る二人の男と一人の女。
一体どんな関係なのかと勘ぐってしまいたくなる。
「お腹いっぱい〜」
最後のチーズリゾットを食べた珠子は椅子にもたれて腹を撫でた。
「美味しかったか?」
「うん! 庸ちゃんもちょうどお休みで良かったね?」
向かい側に座った拓朗は満足そうに微笑む珠子を見ながら声を掛けたが珠子はすぐに横を向いた。
「ほんとだな。入れ違いにならなかったしラッキーだったよ」
珠子と庸介は互いに顔を見合わせて微笑みあった。
その光景を苦虫を噛み潰したような顔で睨みつける拓朗。
(お前はストーカーか!)
バイト代が入った拓朗は溺愛する妹の珠子と二人でランチを食べに家を出た所へたまたまやって来た庸介と鉢合わせになった。
もちろん珠子は突然現れた恋人に驚き、そして当然のように庸介をランチに誘った。
せっかく可愛い妹と二人で食事をするはずだったのをぶち壊されて拓朗はすっかりやさぐれていた。
「お待たせしました」
デザートが運ばれて来ると珠子の顔がいっそう輝いた。
大きな白い皿に盛られたミルフィーユとアイスとカットフルーツにどこから手を付けようかと眺めている。
(よしっ…ここは奴より早く)
拓朗は自分の皿の上にある抹茶のシフォンケーキを一口サイズに切るとフォークで刺した。
「珠子、これ…」
「タマ、これも食べたかったんだろ?」
「うんっ! 何で分かったのぉ?」
「昔からガトーショコラとミルフィーユで悩んでんだろ? ほら食えよ」
庸介は一口サイズのガトーショコラを珠子の口元に差し出した。
もちろん珠子はパクッと口の中に入れ「美味しい〜」と可愛い笑顔を庸介に向けている。
(くっそぉぉぉぉ)
まるでテーブルの真ん中に壁でもあるみたいに二人は自分達の世界にいた。
「庸ちゃん、これ食べる?」
「ん?」
イチャイチャと食べさせあう二人を見ながら次は庸介のスケジュールを確認してからにしようと固く心に誓った拓朗だった。
end
―42―
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