『拍手小説』
【陸&麻衣】

「麻衣? 何してるの?」

 クローゼットの前で座り込んでゴソゴソと何かしている麻衣に声を掛けた。

「あのね……明日くらいからすごく寒くなるっていうから、膝掛けとか出しておこうと思って」

 そう言いながら家用の防寒グッズらしきもの出している。

「寒かったらヒーター付けなよ」

「今から付けてたら真冬になったらどうするのー? それにそこまで寒くないし……手とか足が冷えたりするだけだから」

「そんなの俺が温めてあげるじゃん」

 座り込んでいる麻衣を後ろから抱きしめて手を包み込むで擦り合わせる。

 次第に自分の手までホカホカと温かくなってくると、麻衣は笑いながら振り向いた。

「ほんと手はあったかいね。でも足は冷たいよ?」

 ホラと足を延ばしてバタバタと動かしている。

「じゃあ……こっちも!」

 まるでカニ挟みのように足を伸ばし、手と同じように擦ってみるがこっちはなかなか思うようにはいかない。

「むぅ……麻衣の足すごく冷たい」

「でしょー? 確か……モコモコのスリッパはどこかにあったはずなんだけど……」

 そう言うと麻衣はまた防寒グッズ探しを再開させた。

 そして数日後。

「麻衣、麻衣ー!」

 休日の麻衣が録り溜めたドラマを見て夜更かししていると、いつもより早めの帰宅らしい陸が帰って来た。

「お帰りー」

「ちょっと目閉じて?」

「なに?」

「いーから!」

 帰って来た早々楽しげな陸に急かされて麻衣は渋々目を閉じた。

 ガサガサと聞こえる音に首を傾げていると、急に陸の手が足に触れた。

「な、なに!?」

「もう! ジッとしてなきゃダメじゃん!」

 何をされるのかと足を引っこめた麻衣は陸に窘められて大人しくした。

 少し緊張しながら大人しくしていると片足が急に温かくなり、すぐに片方の足も温かくなった。

「はい、いいよー」

 麻衣は目を開けると自分の足元を見て驚いた。

 ピンク色のモコモコとしたブーツが膝下まで覆っている。

「ダウンで出来てるから軽いでしょ? これなら温かい?」

「温かい……」

「どうしたの? もしかして嬉しくない?」

「ううん、すごく嬉しい! なんかいつも陸は私のこと考えてくれてるんだなぁって……」

「惚れ直した?」

「うん」

「じゃあ……このモコモコのお礼に今から一緒にお風呂入って?」

「…………それが目的なんでしょ?」

 麻衣がクスクスと笑うと陸はムッとしたように唇を尖らせ、履かせたばかりのブーツを脱がしにかかった。

「やーだー、寒いー」

「だめっ、そんな可愛くないこと言う麻衣にはもうあげない!」

「もう言わない」

「本当に?」

「本当」

「じゃあ、お風呂入って」

 つま先をギュッと握った陸に根負けした麻衣は小さく頷いた。

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