『君の隣』
 第四章 P3


「祐二、お待たせ」

 再び水飲み場に戻った祐二がボンヤリしていると声を掛けられた。

 振り向くと制服姿の貴俊がいつもと変わらずにニッコリ微笑んでいる。

 冬の制服はオフホワイトのブレザーという生徒会長の証の制服を着ているが夏は他の生徒と変わらない制服を身に付けていた。

 公の場で着る為に用意された夏用のジャケットは終業式や始業式の時にだけ着ている。

「ごめんね、遅くなって」

(くそ……っ)

 いつもと変わらない笑顔と口調に祐二は奥歯をギリッと噛みしめた。

 さっきの事が聞きたくても自分が盗み見ていたとバレてしまうから言い出すことも出来ずに悶々とした気持ちだけが胸の中で渦巻く。

「お腹空いてない? 何か食べていく?」

「……いい」

 さっきまでは空腹でどうにかなりそうだった体はもうそんな事は感じない。

 祐二は短く返事をすると水飲み場から下りて歩き始めた。

 その横を当たり前のように並んだ貴俊が並んで歩く。

(何で普通の顔してんだよ……)

 横を歩く澄ました顔を見るたびに苛立ちが増した。

「腹、減った」

 学校から駅に向かう途中でコンビニの前で立ち止まった祐二はボソッと呟いた。

 本当はそんな事なかったのに二人でいる事に息が詰まって仕方がなかった祐二は少しの間だけでも一人になりたかった。

「なんか買って来る」

 店の外に貴俊を残して入ろうとすると後ろから腕を掴まれた。

 ビクッとして振り返ると貴俊はニッコリ笑っている。

「昼に買ったカレーパンあるよ。俺いらないから祐二食べなよ」

 そう言ってカレーパンを差し出した。

 祐二はそれが自分のために貴俊が買っていてくれた事を知っている。

 あんな事をしていたのにいつもと変わらなく接している貴俊の気持ちが全然分からなかった。

 コンビニに入るのを諦めた祐二はカレーパンを受け取ると袋を開けて一口かじり再び歩き始めた。


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