【1】
夕闇が濃くなりネオンが一つまた一つと灯る、夜の街が目を覚ますまでの束の間のまどろみ。
黒のスーツを着た男達が肩で風を切りながら歩く。
思わず足を止め視線を投げ掛けたのは大学生くらいの女性、それに気付いた男の一人は視線を受け止め微笑みを彼女に返しながら通り過ぎていった。
「ねぇ……あれって……」
「う、うん……多分」
隣にいた友達のシャツの袖を引っ張りながらボンヤリと声を掛けたが二人ともその後ろ姿に見惚れるばかりでその後は続かない。
そしてまた同じように黒のスーツを着込んだ男達が彼女達の前に現れた。
先頭を歩くのは明るい蜜色の髪の男、前髪を後ろに流し光沢のある黒のスーツを着て、引き締まった端正な口元、やや伏し目がちの瞳を覆う長い睫毛がときおり揺れる。
横を歩くのは少し背が低く金に近い明るい茶色の髪を立て、隣の男に話しかけるたびに覗く八重歯がパッと目を引いた。
そしてその後ろにも似たような格好の男達が続く。
立ち止まったままの彼女達の前を先頭の明るい密色の髪の男が通り過ぎる、隣を歩く男と言葉を交わしていたが視線だけを彼女達に向けた。
「――――ッ」
伏し目がちの目元から送られた視線に二人共に言葉を失いほんのりと頬を染めた。
男達が通り過ぎ小さくなった後ろ姿が角を曲がるとようやく一人が口を開いた。
「今の人ってやっぱり……」
「うんうん! ホストだよっ、小さい店だけどすっごくカッコいいホストがいるって聞いたことがあるっ!」
「何てお店なんだろう!? 特にあの先頭の人ー、すっごいカッコよかったぁ!」
「私もー! チラッとこっち見ただけなのにすっごいドキドキしちゃったぁ」
途端に興奮して話を始めた二人は歩き出す。
歩き出して少ししてから一人の男とすれ違ったが二人が気付くことはなかった。
男は黒髪で黒いスーツに銀縁の眼鏡、一見ビジネスマンのように見える若い男だが手には何も持っていない。
やや俯いているせいか表情が分かりにくい男は視線を足元に落としながらさっきの男達が曲がっていた角を同じように曲がった。
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